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8.ロリアの要求(2)

 苛立つメリアの前に、イセン・オークシニヌ、この国の王子が立っていた。どう見ても絡まれていたのはメリアの方なのだが、イセン王子は全くわかっていないようだった。


 「ロリアに用事があるんだ。少し外してくれるかな?」


 イセン王子は爽やかな笑顔のまま言った。黒髪に明るいグリーンの瞳、木属性の特徴だ。整った顔立ちにスラリとした体型。所作のひとつひとつが優雅で美しい。遠巻きに見る女子生徒達のため息が漏れる。


 ……これの何が良かったんだ?


 メリアは溢れる苛立ちと魔力を鎮めながら思った。去り際にロリアを見ると、先ほどまでの怪しげな表情はさっと隠し、今はやや演技がかったうっとりとした表情を浮かべていた。メリアは踵を返してリリの待つところへ向かった。途中クスクスとやじ馬の女子生徒達が笑うのが聞こえた。王子に相手にされなかったことを嘲笑っているのだ。


 昼休み中、メリアは散々リリに愚痴っていた。リリは面白がって話を聞いていた。リリとの友情が復活したことに感謝せずはいられなかった。



 午後の授業も終わり、メリアはぐったりしていた。ほぼ全ての科目で補習課題が出されていた。期限は来週の授業までだが、次の授業に向けた宿題に予習にやることが多すぎる。ロリアとの約束まで少し時間があったため、自習室で宿題を進めた。ロリアに何を要求されるかと思うと胃がキリキリ痛んだが、目の前のことに集中した。



 ――16時。メリアはロリアの部屋の前にいた。ふぅと息を吐き、ドアをノックする。ガチャッとドアが開き、ロリアが顔を出す。周りに誰も居ないことを確認するようにキョロキョロと視線を動かし、メリアを部屋に招き入れた。


 ロリアの部屋は本棚や薬草が入っていると思しき棚で壁一面が覆われていた。ベッド脇の小窓には少し元気のない花が生けられていて、淡く香りを放っている。勉強用のデスクの他に、長めのテーブルもあった。そちらに座るように案内される。このテーブルは来客だけでなく、薬の調合台としても使うのであろう。調合セットや薬草が収められた小さな引き出しが、テーブルの脇にセットされていた。他にも、用途はわからないが、複雑な編み方の葛籠(つづら)のようなものが置いてあった。


 「悪いけどお茶を出してゆっくり話す暇はないわ。」とロリアは切り出した。メリアはゴクリと生唾を飲む。


 「単刀直入に聞くわ。あなた、どうやって解いたの?」


 てっきり金品を要求されると思ったメリアは鳩が豆鉄砲を食らったようだった。


 「何を間抜けな顔をしているの?あなたには魔法がかけられていた。そうじゃなきゃ、あんなに性格が急変することなんて無いでしょう。わたくしはその辺のぼんくら達とは違うのよ!『恋は盲目、なんて愚かなメリア!!』とでも思っていると思ったの?舐めないで!さぁ、どうやって解いたの?教えなさい!!」


 凄い勢いでまくし立てられて、メリアは目を白黒させるしかなかった。魔法にかけられていた?ということは、やはり、疑っていたロリアによる恋の媚薬説は否定される。では、なぜ解き方を知りたがっている?まさか、ロリアも何らかの魔法にかけられている……?でも、なんで?


 黙っていると「はぁ~。」と頭を振りながらロリアはため息をついた。


 「期待したわたくしが馬鹿でしたわ。あなた何もわかってないのね。先週までのあなたと今日のあなたは違う。きっかけは何だったの?それくらいはわかるわよね?」


 見下したような目で睨めつけながらロリアは聞いた。そんなこと言われてもと、メリアは混乱した頭で振り返る。あの時、何があった?あの時、私は……。何か叫んでいて、花瓶を割った。


 「花瓶を、割りました。きっかけは、よく、覚えてない、かな……。」


 ロリアの目の色が変わる。


 「花瓶を割ったのね?その後どうしたの?」


 「メイドさん達に掃除してもらって、花もメイドさん達に引き取ってもらうことにしたの。知らないファンから届く花なんて、気味悪いし。」


 なるほど、と呟き、ロリアは黙った。が、また睨むようにメリアを見ながら、「それで」と続けた。


 「それで、魔法の出どころはわかったの?」


 急に何を、という感じだ。なぜ私にそんなものが分かるというのだろう。先ほどからメリアは置いてけぼりだ。話題についていけてない。混乱し、苛立ちが募った。


 「ちゃんと説明してよ!さっきからひとりで納得したり怒ったりして、全然ついていけない!!」


 メリアは思わず言った。ロリアにぶち切れられるかも、と思った。ロリアはポカンとしたが、すぐに眉をぐっと寄せた。


 「……メリア。あなたは自分のかけられた魔法を完全に解けてはいないのね。」


 ロリアは立ち上がって、ぐっと顔を寄せ、メリアの目を覗き込んだ。


 「……いいこと?あなただけじゃ話にならない。カミールに声をかけて。今週末、もしくは今日と同じ週明け。あなたの部屋でお茶会を開いて。少なくとも3人で話す必要があるわ。それと、もう一つ。」


 トントン。誰かがノックする音が聞こえる。


 ちっ!とロリアは舌打ちして、メリアを葛籠の中に押し込んだ。「ちょっと!何を……!!」と言ったあたりで口を塞がれた。


 「王子が来たわ。あなたはこの中に隠れて、事のてん末をよく見ておいて!この特殊な葛籠は、外から中の様子は見えないけど、中からなら外の様子を見られるわ。王子が帰ったら、あなたはわたくしに話しかけることなく帰って!いいわね?」


 お茶会のことも忘れないでよ、と最後にもう一度釘を刺し、ロリアはドアへと向かった。


 「お待ちしておりましたわぁ。」


 と、媚びるような声で、イセン王子を招き入れる声がした。メリアは混乱のまま葛籠の中で息を潜めるしかなかった。

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― 新着の感想 ―
何か知ってそうなロリア姉さん。気になりますね。
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