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6.歴史学の授業

 この国の歴史は五千年前にさかのぼる。当時この地に人は住んでおらず、魔獣やら竜の住む壮絶な環境だったと伝えられる。その中で強力な魔法を駆使し、生活圏を築いたのは妖精達だった。妖精達は幾つもの部族に分かれて、勢力争いを続けていた。部族間の中で最も力を持つものが長となり、妖精の国を治めていたとされる。


 勢力争いの歴史は長く、強い長が現れてもまたそれを打倒せんと内戦状態にあることが多かったようだ。妖精達は人口が減ったことに危機感を覚え、ようやく戦闘以外の方法で長を決めるようになる。それは魔力の強さ、知識の多さ、人柄など総合的に加味され、投票のようなものを経て決められるようになった。そうして、戦により減り続ける一方だった人口減は抑えられた。


 しかし、まだ妖精達は問題を抱えていた。当時、妖精達は各部族固有の魔法を誇っていた。しかし、それは他部族の血が混ざることで変異したり、威力が弱くなったりするものだった。妖精の部族は自分たちのもつ固有魔法を守ろうとした。部族内では近親婚が横行していたと伝えられる。その結果、疫病にめっぽう弱くなり、たちまちに絶滅の危機まで追いやられたのだ。妖精達の魔法は優秀だった。癒やしの魔法を使えるものも多くいたが、逆にそれが仇となった。流行りの病に癒やしの魔法は通用しなかった。そのうえ、癒やしの魔法が発達していった一方で、薬学に精通した者の数は限られた。数少ない薬師達が率先して治療を行った結果、薬師達は漏れなく疫病にかかり死んでしまった。妖精達は風前の灯火状態だった。


 そんな中、妖精達の国に足を踏み入れたのが人間だった。人間達もまた他の地域での戦や迫害から逃れる為にやってきた。それが今のメリア達の、この王国の祖先にあたる。彼らは薬学に精通していたことが災いし、魔術師として迫害されていた。妖精の国に踏み入れた彼らは疫病に弱る妖精達と出会う。人間達は彼らの病を研究し、特効薬を開発した。それをもって、人間達は妖精の国に住まわせてもらえるように交渉した。妖精の国の周りは魔獣だらけだった。妖精達の張る強い結界が無ければ人間は生きられない。妖精の国に到達するまで、人間達は何人もが魔獣の餌食になった。


 妖精達もまた、人間の薬学の知恵を必要とした。彼等は共存することを選ぶ。時を経るうちに、人間と妖精は交わるようになる。そうして、人間達も一部の魔法を使えるようになった。ただし、人間が使えた魔法はごくごく一部で、火、水、木、土、雷、風、氷、そして光のうちの1種類の属性に限られた。そして、当時の妖精の長は人間の長にあたる人物に特殊な魔法を与えたとされ、それが現在の王族というわけだ。


 長い歴史の中、妖精の中には人間を排除しようとする動きもあった。しかし、人間達の薬学の知恵やものづくりの技術の高さを認め守ろうとする者も多かった。最終的に反人間派は国を去り、残りは人間と生活を共にして、しだいに純血の妖精はいなくなったとされる。ちなみに、もともと薬学に精通した人間が祖先にあたるため、属性の相性がいいのか木属性の魔法使いが多い。次いで、火、水、土、風が同数程度。さらに、雷、氷は少く、最も希少で妖精の魔法に近いとされるのが光属性だ。


 これらはこの国の基礎の歴史なので中等部の頃に学ぶ。今はどちらかと言えば王政の歴史をメインに学んでいるが、三カ月の空白期間でどこまで習っているのか。


 「まぁ、先ずは肩慣らしといこうか。ロリア、妖精の魔法と人間の魔法の違いを述べなさい。」


 ……あ、そっちからいくんだ。


 メリアは肩透かしをくらった気分だ。


 「妖精達は全ての属性の魔法や、心を惑わす魔法など人間とは比べられないほどの種類の魔法が使えていたといわれます。中でも発動方法は大きく違い、妖精達の魔法は魔法陣を描くことでより複雑な魔法を使うことができたと言われていますわ。」


 ロリアは当然という顔で答える。ケシア先生も「うんうん。」と頷き、ボソリと「100点」と答えた。


 「では、現王妃の功績の中で最も偉大とされるものは何か。リリ、答えて。」


 「はい、国境付近の活火山で知能の高い魔獣の討伐を行ったことです。」


 リリは緊張した面持ちで答えた。「うん、いいよ。」とケシア先生。


 「では、その功績のことを何という?メリア、答えなさい。」


 ハッとメリアは立ち上がったものの、功績の名前は記憶になかった。もちろん討伐のことは有名なので知っていたが、功績がなんと称されたかは分からない。というのも、王妃の功績は1つではない。今までに十数の功績を残し、歴代王妃、いや、歴代の王族の中で最強とされる猛者なのだ。王妃様の活躍の数々をメリアは知っているのだが、それぞれ何の功績と称されただろうか。メリアが答えられずにいると、


 「王子の婚約者になりたいなら、王妃様の功績は全て答えられなきゃね。それに勉学をおろそかにする娘なんて、王子殿下も願い下げだよ。」


 クスクスと笑いが広がった。メリアは何も言えず俯くしかない。歴史学自体は好きな部類だっただけに、悔しくて唇を噛んだ。


 「それではイセン様。愚かなメリアに教えてあげて。」ケシア先生は言った。


 「業火の花槍(かそう)です。ケシア先生、メリアをあまりいじめないでください。彼女は僕のために一生懸命になり過ぎただけですから。」


 どっと笑いが広がった。全然フォローになってない。それどころか、かえって腹が立った。苛立って放電しそうな勢いだったが、冷たいものがピタッとメリアの手を握る。リリだ。『落ち着いて』の表情。水の魔法で手を冷やしたようだ。おかげでメリアも堪えることができた。


 「では、チャンスをあげよう。メリア、王妃様はその時に火竜から祝福を受けている。その祝福は何?」


 竜達は基本的には人間に関わらない。が、気まぐれに現れては気に入った人間を祝福する。「祝福」とは竜の魔法を分け与えることだ。もちろん火竜から祝福を受けた話は有名過ぎる話だ。だが、どんな魔法を渡されたかというのは少しマニアックな話になる。一般的には「火竜の祝福を受けた」ということだけが発表されており、その魔法については授業で知るか王妃の功績集を読むしかない。が、王妃の残した功績は多い。そのため功績集はかなり分厚く、普通の人なら敬遠するものなのだ。


 メリアは王妃の功績集を読んだことがあった。


 「『煉獄』。罪の浄化です。」


 メリアは答えた。

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― 新着の感想 ―
結局指名されていじられた主人公。こんなときのささやかな味方の存在って大きいですね。
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