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3.私を取り戻すために(2)

 「ざまぁねぇな、メリア」


 いつの間に来ていたのだろう。射場に男子生徒が立っていた。すらりと高い身長に、浅黒い肌。短く切った髪はピンと立ち、キリリとした太眉。肌の色や固そうな髪質からすると土属性の生徒だろう。鷹のように鋭い目でメリアを睨んでいる。


 黙っているメリアに、彼は続けた。


 「今さら何しに来たんだよ。王子の気が引けなくて、八つ当たりか?練習の邪魔だ。今すぐ帰れ。」


 

 「……あと少しだけ、今装置を起動させた分の1セットでいいから、続けさせてくれないかな。」



 メリアは静かに言った。まだ帰る訳には行かなかった。少しでも手応えが欲しかった。装置がピーッと鳴っている。もうすぐ的が発射されてしまう。



 「ハッ。とか言って、また的の防護壁を壊す気だな?また俺に直させる気かよ?どれだけ他人に迷惑かければ満足するんだ?」


 

 脅すように彼は凄む。だが、メリアは引かなかった。


 「壊すつもりなんてない!もし壊したとしても、あなたに直させる気はない!もともと、学園の施設修繕係頼むのが決まりでしょ。今回だって、そうするつもりだよ。直すのはあなたの仕事じゃないでしょ。それとも、今まであなたが善意で直してたってこと?」


 メリアがわっと反論すると、男子生徒は目を見開いた。驚いたというよりも、それは、どこか傷付いたようにも見えた。


 「……何にも覚えてないわけ?」


 ……え?


 妙な空気が流れた。自分の後方ではシュッと的が発射される音が響いている。そういえばこの男子生徒は、先ほどから「メリア」と名前で呼んでいる。対して、メリアは「あなた」と呼んでいた。彼は私を知っている?それなら、私も彼を知っているはずでは?胸の奥に不意に痛みを感じる。それはとても切ない痛みだった。私は、大事なことを忘れている?


 メリアが沈黙していると、不貞腐れたように男子生徒は言った。


 「はいはい。『婚約者になる為に、平民とはつるまないの。私の邪魔をしないで』だっけ。恩もクソも無いわけね。だったら、メリア。俺の邪魔もしないでくれるか?さっさとどけよ。」 


 メリアはもう迷わなかった。記憶が無いだけで、散々この人を傷付けたとわかった。でも、メリアだってこの時間は譲れない。この男子生徒の反応を見ても明らかだ。部活の時間に練習なんてさせてもらえないだろう。メリアはガバっとしゃがみ、額を床に付けた。急な土下座に、男子生徒はたじろいだ。


 「ごめんなさい!あなたに迷惑かけたことは謝る。本当にごめんなさい。もう邪魔しないから、最後の、このセットだけ撃たせて……!!」


 男子生徒が面食らってるうちに、メリアはさっと銃を構えた。すでに3セット目の1つ目の的が発射されている。集中して撃つ。やはり、間に合わずに外れる。2つ目、今度は的中。だが、的は割れない。大丈夫。コントロールでき始めている。3つ目、外れだ。気持ちが焦って僅かにずれてしまった。4つ目、的中。ようやく的を割ることができた。5つ目。最も固い的だ。意識を集中させる。感覚を研ぎ澄ます。バチバチと身体に電流がほとばしり、髪の毛が逆立つのを感じる。魔力が拡散しようとしている。お腹にぐっと力を込めて魔力を凝縮する。


 “今っ!!”


 メリアは、引き金を引いた。凄まじい光が的に放たれた。それは雷そのもののようだった。辺りが青白く輝く。雷のようなドーンという音が響く。的は粉々になった。しかも、防護壁にも巨大な窪みが出来ていた。 


 ……やってしまった!!


 完全な魔力のコントロールミスだ。固い的を割ることに集中した結果、自分が思う以上に魔力は膨れあがって制御を超える量が出力されていた。加えて、先ほどまでの動揺を引きずったのこともあり、暴発したようだった。メリアは青くなって、恐る恐る後ろを振り返る。男子生徒はあんぐりと口を開けていた。


 「ご、ごめんなさい。こ、こんなつもり、本当になくて……!私、週明けには必ず報告するから!!」


 さすがに、施設修繕係も学園が休みのときには休んでいる。修繕を頼みたければ、週明けの朝イチに頼むしか無い。


 しかし、男子生徒はメリアの謝罪など聞いていないようだった。ぼーっと防護壁の方を見ている。


 「……凄い。あんなブランクがあって、これだけの魔力を放出できるなんて。」


 さっきまでの敵意を込めた瞳は今や感嘆の色に染まっていた。


 ……が、動揺したメリアはそれどころではなかった。男子生徒の表情の変化に全く気が付かない。それどころか、魔力制御できなかったことにも腹を立てていた。今までならこんな暴発を起こすことはなかったはずだ。声を絞り出して言う。


 「こんなの、凄くも何ともない!未熟な、今までの怠慢の証でしかない!!」


 ……美しくない。


 的はただ割ればいい訳ではない。壊すなんて下手くその証拠。さらには防護壁まで傷つけるなんてもってのほかだった。


 メリアはいそいそと後片付けをした。一度的の方に走り、的を拾い装置に装填し直した。壊れた的も片付けた。再び全力で射場に戻り、男子生徒に声をかける。


 「防護壁、貫通はしてないからきっとこのまま練習しても大丈夫。壊してごめん!邪魔してごめん!!修理は私が頼むから!!」


 散々過ぎてメリアは涙目だった。もっと上手くできると思ってた。自分らしさを取り戻せると思った。メリアは逃げるように立ち去った。胸の奥は痛いままだった。


 射場にはポツンと、男子生徒だけが残された。必死すぎたメリアは気が付かなかった。「練習の邪魔をするな」と言った男子生徒の手に、魔力銃が握られていなかったことに。

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