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恋の魔法で悪役令嬢になりさがったので、名誉挽回いたします!  作者: 白雲木


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29.走馬灯

 イセン王子が温室の中に現れたとき、まず気がついたのはポケットの中の怪しい気配だった。メリアはイセン王子の足音を察知した段階で、イセン王子に向けて探知魔法を使った。感じたことのない気配に警戒を高めた。お披露目会に参加するはずの令嬢たち全員がいるのを確認した次の瞬間、イセン王子がポケットの中の何かに魔力を込めようとしているのがわかった。



 ……させない!



 ロリアに言われたからではないが、メリアはイセン王子がこちらを見た瞬間に、妖精の魔法陣に向け壊雷花(かいらいか)を落とした。先日の魔獣討伐のおかげで、壊雷花が攻撃魔法ではないにも関わらず、凄まじい衝撃を与えるものだとわかった。それは凶悪な魔獣の動きを一時封じるほどの威力だ。だからメリアはカミールにベイルを発動するように予め伝えていた。ベイルは王都や城の防護壁を魔獣の呪いから守るために使われることが多いが、純粋に魔法の防御としても有効だ。



 金色の雷が落ち、花ひらくように魔法陣を焼き尽くした。凄まじい衝撃波が生じたが、カミールのベイルのおかげで、ロリア達に被害は無かった。衝撃に飛ばされたイセン王子の手から何かが零れた。転がり落ちたそれをメリアは咄嗟にキャッチした。何の変哲もない球体の水晶に見えたが、禍々しい魔力が内に渦巻いているのを感じた。何かを探すようなそぶりのイセン王子に、メリアは冷たく言い放った。


 

 「これをお探しですか?」



 その後のイセン王子の慌てようは異常だった。呼吸もままならないように肩で息をしている。力の入らない足で何とか逃げ出そうとしていた。



 全ての感覚が戻ったメリアは、何か強力な魔力を持ったものが近づいてくるの感じた。イセン王子の真上に現れた魔法陣からは、見たことのない生き物が飛び出してきた。人間にしては小さく、猿にしては明らかに人に近い見た目だ。逆立つ赤い髪に尖った耳。邪悪そうな顔でこちらを睨む。


 

 「妖精の使い魔よ!」



 カミールの注意に応え、すぐさま雷撃のバリアを張ったのだが、狙いはイセン王子だった。イセン王子の胸元にタックルしたかと思えば、エメラルドに輝く何かを握って飛び立った。ぐったり倒れたイセン王子を見るまでもなく、それは取り返さなければならないものだとメリアは瞬時に判断した。



 ……外すことは許されない。威力不足もダメ。



 メリアは壊雷花に雷撃の魔法を乗せて、使い魔に放った。メリアの攻撃は使い魔に命中。魂を奪う魔法陣を破り、イセン王子の魂をとり戻すことはできた。だが、思いがけず使い魔はメリアに反撃した。メリアの知らない魔法だった。念力のようなものだったのか、それとも移動魔法だったのか。右足を軽く掴まれたような感覚の直後、身体が宙に投げ出されていた。先ほどまでいた温室は遥か下だ。今攻撃を受ければ避けることができない。メリアは使い魔に向けてさらに雷撃を放った。それは使い魔に当たることはなかったが、使い魔は退散して行った。



 2度の壊雷花と反撃の雷撃。それに城壁に集合してから探知魔法を切らさずに使っていたことも災いした。メリアに落下の衝撃から身を守るための魔力は残っていなかった。それに、魔力と体力は表裏一体。魔力を失えば、当然体力も失う。この距離ではカミールの回復魔法も届かないだろう。意識が遠のく。メリアはなす術無く落下した。





 ……メリア姉さんってホントに損よね。



 なんで今?不意に聞こえたのは妹のネフィの声だった。



 これは昨年の射撃大会の前日の記憶だ。メリアは熱を出したネフィの看病をしていた。



 「急に何?風邪ばっかりひいてるネフィの方が損してない?」



 「そうじゃないよ。だって姉さん、明日は大事な大会でしょ?看病してる場合じゃないのに。」



 「それは……。」



 メリアは言い淀んだ。看病は父から命じられたことだった。この家は母が回しているのだから、母にうつるのは困る。父と一番上の兄は仕事を休めず、2番目の兄は護衛隊の研修がある。重要度で言えば、学生の大会は優先度が低いだろう。それが年に1度の大舞台だったとしてもだ。それに、女のメリアが射撃大会で名を上げる必要はない。それが、父の言い分だった。



 「まぁ、私も母さんに倒れられたら困っちゃうし、兄さん達に看病されるの嫌でしょ?」



 「絶対嫌!断然メリア姉さんがいい。」



 ネフィは咳き込みながら、そう言った。そして、悔しそうに呟いた。



 「私、この家で1番体弱いのは父さんだと思うの。」



 「なんでまた?父さんが寝込んでるところなんて見たことないよ。」


 

 メリアは笑った。だが、ネフィは真剣に言った。



 「でも、風邪をもらってくるのはいつも父さん。食事のとき、私の向かい側に座るのも父さん。それで、手で押さえもしないで咳するのよ。あの人は私にうつしてるからきっと悪化しないのよ!!」



 父は末娘のネフィを溺愛していた。兄達やメリアと違い、逞しいよりも可憐という言葉がピッタリのネフィ。おまけに風邪をひきやすいので、かなり過保護に育てられている。



 「言われてみれば、父さんがゴホゴホしていると思うとネフィが寝込んでるかも。」


 

 「でしょ。」と頬を膨らませてネフィは怒っていた。こういう仕草も可愛いのだろうなと、メリアは思った。



 「メリア姉さん、風邪うつしちゃったらごめんね。姉さん射撃の練習、とっても頑張ってるのに……。」



 「丈夫なのがとり得だから。」



 「……それは、嘘。」



 「……。」



 メリアは自分でもわかっていた。ネフィの看病後はメリアも必ず風邪をひいている。ただ、体調が悪くても耐えなければならないと、メリアは思っている。



 「メリア、女性で王室護衛隊を目指すのは厳しい道だ。体調ひとつ管理できなければ、すぐに落とされるぞ。」


 

 よく、父から言われる言葉だった。だから、風邪でも、生理で腹痛が辛いときでも弱音を吐くことはなかった。



 「あーあ。どこかに姉さんを甘えさせてくれる殿方がいればいいのにー。」



 ネフィはぶすっとした顔で言った。


 

 「いいから寝なさい。」



 そんなネフィに、メリアは笑って声をかけた。



 そして、翌日。メリアは結局ネフィの風邪をもらってしまった。咳はないものの、熱や喉の痛み、関節の痛みを感じていた。



 ……大事な大会なのに。



 でも、ネフィに強がって見せた以上、結果を残さなければ。体調も悪い上、悪天候。コンディションは最悪だ。それでもなんとか集中力を保ち、決勝まで来た。だが、決勝直前の控室でメリアの心は挫けかけていた。体力は限界だった。熱もかなり上がっていた。体の震えも止まらない。メリアは耐えられずロッカーに寄りかかっていた。



 ……辛い、休みたい。でも、結果を残さないと。ここまで来たのに。




 「おい、体調悪いのかよ?」




 ……あれ?あの時、誰が来たんだっけ?




 「メリア!!」



 あの時と同じ声がした。

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