24.魔獣討伐(1)
お披露目会まで3日と迫ったこの日、メリアは魔獣討伐に来ていた。王室護衛隊研修のメンバーに抜擢されたのだ。魔獣討伐は状況を見ながらにもなるが、3ヶ月に1回程度は行われる。普段は王室護衛隊や護衛騎士によって行われるが、年に2度開催される研修では、将来護衛隊を目指す生徒の中で特に優秀な生徒が参加することができる。
ここ数ヶ月の状況からしてメリアが選ばれる可能性は極めて低かった。射撃の腕は鈍り、授業もまともに受けないような生徒は選ばれないからだ。だが、自分を取り戻したメリアは、補習課題もすべて提出し、小テストの点数も上々。射撃に至っては、朝練に加えて部活の練習も再開した。ここ1週間の取り組みはなかなかに鬼気迫るものがあり、その気迫から部員達で陰口を言うものもいなくなった。それどころか、以前に増して精度が上がった射撃の腕に、後輩部員たちはこぞってアドバイスを求めるまでになった。学園の生徒や先生の中には未だにメリアを悪く言うものもいた。だが、射撃部の面々は王子に夢中だった頃のメリアの方が何かの間違いで、こうして熱心に射撃や勉強に打ち込むメリアが本来のメリアなのだと思い直していた。
討伐研修の直前、メリアを評価した射撃部の顧問が討伐研修に推薦した。もちろん推薦だけで研修に参加できるわけではない。射撃の腕を試すテストや魔獣対策の知識を問うテストもあった。射撃テストはいつもの射撃場ではなく王室護衛隊の訓練場で行われ、木々の合間に現れる魔獣を模した的を射抜くテストが行われた。これらのテストで討伐に必要な知識、反射神経、射撃の的中率、探知魔法の精度を見たわけだが、メリアは満点の成績で合格したのだ。
メリアはここ1〜2週間の中で1番気分が高揚していた。専門授業でも魔獣討伐が無いわけではないが、それらは基本的には安全なエリアで、畑を荒らす程度の魔獣が対象であることが多い。この研修は王都に侵入し、多大な被害を与える可能性が高い魔獣が住むエリアへ行き、護衛隊員と討伐ができる憧れの機会だった。妖精の魔法のせいでこれまでの努力が水の泡になるところだったので思いはひとしおだ。そして何より幸運なことに、この討伐には王の盾と称される、エルタ・イローサンも参加する。未熟な生徒が誰も怪我をしないためだ。
憧れの護衛隊やエルタと共に討伐するだけでなく、もしかしたら、学生時代の王妃様との仲についても聞けるかもしれない。メリアは様々な期待を胸に集合場所である、王都の門の前に来ていた。
「お前が1番に来ると思ってたよ。」
メリアに少し遅れて到着したジオラスが言った。彼もまた討伐研修に抜擢されていた。
「足を引っ張るなよ。」
ニヤッとして軽口を叩くジオラスに、メリアは言った。
「緊張感がないね。いくらエルタ様がいるからって、油断してたら死ぬよ。」
実際に研修で生徒の死亡事故も起きている。そのため、この研修の前には本人と家族の同意書が必要なほどだった。
「いや、緊張してるみたいだったから、ほぐしてやろうと思ったんだよ。」
ジオラスはキリッとしてメリアに言った。メリアはジロリと睨み返したが、護衛隊員や他の研修生が集まりつつあったので、言い返すことはなかった。
……よけいなお世話だ。
心の中ではそう呟いた。が、緊張していたのは本当だ。それは魔獣が恐ろしいからではない。今日は試さなければならない事がある。正直、エルタに話しかける余裕はないだろう。
討伐に参加するメンバーが揃うと、今日の討伐について簡単な説明があった。グループは5人1組の3チームに分けられた。5人のうち3人が護衛隊、2人が研修生だ。そして、チーム全体をエルタが統括する。エルタは単独で行動し、危険な場合は助太刀に入る。魔獣が活発になるのは夜だ。研修ということもあり、今回は魔獣の動きが鈍い正午から日没前までで行なわれる。
ジオラスとメリアは同じチームとなった。3人の護衛隊員たちと簡単に自己紹介をして、城壁の外の昼でも暗い森の中を歩いていく。
「今日討伐する魔獣はどんなタイプですか?」
メリアはチームのリーダーである護衛隊員のロッカスに尋ねた。
「今回の魔獣は幻惑するタイプだ。道に迷わせて、はぐれたところを襲ってくる。商団が町を行き来する時によく襲ってくる。奴らは勘がいい。こういう研修のときも研修生を狙ってやってくる。注意するんだよ。」
「わかりました。」
メリアが返事をしたその時だった。どこからか女性のような悲鳴が聞こえた。ハッと辺りを見回す。メリア達の隊は互いに背を守るように円形のフォーメーションを取り、どこにいるかわからない敵に備えた。全員が探知魔法で探りを入れているのをメリアは感じた。気がつけば霧のようなものが出ている。森に入ったばかりでもう仕掛けてくるのか?近年、魔獣の脅威が上がっているというのは本当らしい。
不意に強い眠気に襲われた。隣で誰かが倒れた。ジオラスだ。リーダーが「打てっ!」と叫ぶのが聞こえた。魔獣にこちらの位置は割れている。見えない敵に対し、攻撃を撃って位置を探るのだ。メリアも銃を構え雷撃を発射する。当たりはしなかったが、ガサガサと何かの気配を感じた。倒れたジオラスを確認しようとしたが、ジオラスの姿がない。それどころか、他の護衛隊員の姿すらない。メリアは瞬時に探知魔法をフル稼働させた。
……私だけ孤立させたのか?
探知したにも関わらず他の隊員やジオラスの気配がない。それどころか魔獣の気配すら感じられない。幻惑魔法がすべての感覚を惑わせるものだとすれば厄介過ぎる!森に入ってまだ数分も経っていないのに!!
再び襲ってきた眠気に対し、メリアは思い切り自分の頬を叩いた。バチンッと言う音が周囲に響いた。
メリアは自分を中心に球体を作るようにバチバチと魔力を流した。電流のバリアだ。メリアに近づけば、バチッと電流が走り、誘蛾灯の虫よろしく撃ち落とされる。
メリアは自身の魔力を最大限に高めた。瞳の色は淡い紫から金へと変わった。再び探知魔法をかける。今度は逃さない。




