21.2回目のお茶会
イセンはふーっとため息をついた。メリアに木霊付の盆栽を渡して1週間。毎日木霊を呼び寄せては彼女の様子を伝えてもらったが、魔法の一部が解けていることを除き、気になる情報はなかった。先日寮付きのメイドに確認したところ、メリアの部屋に届くはずの花は、今はメイドの休憩室に飾られているとのことだ。おかしいと思い魔法陣を確認すると、綻びが生じていることがわかった。その綻びを生じさせた何かが原因で、メリアにかけた魔法の一部が解けてしまったのだろう。
報告に来た木霊をくすぐるように触ると、木霊は身をよじってプルプルと震えた。風が木の葉を揺らすようなさわさわという音が漏れる。笑っているのだ。イセンは話しかけた。
「もうすぐ、婚約候補者達を父と母にお披露目するお茶会を開かなければならない。魔法をかけ直すタイミングがあるとすればそこだ。」
木霊はイセンの手を離れると首をかしげた。そして下から上へと両の手を振っている。シュッ、シュッという音が漏れる。
「そうだね。魔法に不備はあったようだけど、目立った行動がないということは、何も問題ないと判断してもいい。うん。次のお披露目会が勝負だ。お披露目会で全員揃ったところでしかけよう。そこで魔法陣の綻びの原因を突き止めるんだ。そして魔法陣を修復すれば完璧だ。何も問題ない。」
木霊は光る体でその小さな手を上に振り上げる。ホーッ、ホーッと声を上げる。
「うん、うん。ありがとう。僕には君たちがついているからね。頑張るから。」
イセンは部屋の小窓を開けて木霊を夜の静寂に放った。木霊は風に乗るように手を広げ、メリアの部屋のある学生寮の方へ飛んでいった。
「さぁて、さぁて?これはどういうことかしら?」
オルレアは楽しそうにニコニコしている。オルレアの部屋の前にはメリア、ロリア、カミールが揃っていた。
ある日の授業終わり、メリアはオルレアの部屋にも盆栽や観葉植物などがあるか聞いた。
「なぁに?藪から棒にぃ。確かに、東の国の美術展で盆栽を見たことはあったけど、部屋に飾るほど気に入った訳じゃないというか……。今はイセン様の花束だけ!それがあれば充分華やぐわ。え、何?見に来たいの?いいわよー!お茶も用意しておくからね。いつにするー?」
と、まぁ、こんな具合でトントン拍子に2回目のお茶会の日が決まったのだ。警戒されたり、イセン王子に告げ口されるのを避けるため、メリアはロリアとカミールも来ることは伝えなかった。
「まぁいいわ。立ち話もなんだから入って!今すぐ人数分お茶も用意するから。うふふ。なんだか楽しー。」
オルレアはウキウキと準備を始めた。意外と手際よくお茶を入れている。来客が多いのか、お茶菓子も常備されているようだった。
「さぁて、これは何の集まりなのー?そう言えば、イセン様から婚約候補者お披露会の招待状が来たわね。もしかしてこれって。」
「わたくしたちは……」
ロリアが言いかけた言葉に、オルレアが重ねた。
「これは恋の作戦会議ねー!いいわよ!!次のお披露目会でそれぞれ見せ場を作りましょう!派手にやらなきゃー!ねっねっ!」
ロリアの手を取り微笑むオルレアに、ロリアがたまりかねて言った。
「ちょっと待ちなさい!恋敵同士だとしたらこんなふうに集まるわけないでしょ!あなたという人は、もうっ!」
「まぁ、まぁ。ここは私に説明させてくださいね。」
カミールはフフッ、フフッと笑いを堪えながらロリアを制止した。カミールはこういう状況を楽しむところがある。メリアはその様子を黙って見ていた。
カミールはこれまでの経緯を説明した。最初は楽しげだったオルレアの表情は曇った。
「……そういうことだったのね。まさか、私たち全員が魔法にかけられていたなんて。でも、おかしいわ。私が恋の真剣勝負と思って燃えていたのは間違いなく本心からなのよ。記憶が曖昧になったこともないし、イセン様から花束をもらってぼんやりしたこもないわ。」
「これは、私の憶測なのだけれど。」と、カミールは続けた。
「……この魔法は魔法のかかり具合を調整できるのだと思うの。例えば、完全に別人のようになってしまったメリアへの影響度を10とすると、そこまで人格に影響がなかった私やロリアは4か3程度。そして、全く影響がないと感じられるオルレアは1とか。」
「それなら確かにあり得るわね。全員が全員イセン様に夢中だったら、さすがに違和感しかないわぁ
。というか、嫉妬しあって互いに嫌がらせ三昧だったら、婚約者としての品格も当然落ちる。そうなればイセン様が良くても、お披露目会で王様や王妃様に婚約者として相応しくないと判断されかねないものね。」と、ロリアも言った。
「なるほどねぇ。」
オルレアはそう言いつつ俯いた。恋の勝負でなくなったことが残念で仕方ないのだ。
「私、絶対皆さんに勝とうと思って、王様の頃の婚約者争いについても調べちゃったのよね。何が決め手になったか分かれば、この勝負、有利になるかもって思って……。」
「そういえば、前回がどうだったかなんて調べてなかったわね。」
オルレアの発言を受けて、ロリアは言った。
「確か、当時勢力のあった三家で争っていたのよね?」
カミールはそう言ったが、詳しくは知らないようだった。
「もしかして、そのときも妖精の魔法が使われていた可能性があるの?」
メリアはオルレアに聞くと、オルレアはうーんと困ったような顔をして言った。
「妖精の魔法の話は今聞いたばかりだから何とも言えないけれど……。でもね、言われてみればってところはあるの。当時の婚約者が今の王妃様に決まった流れがね、不自然に思うところはあったわ。当時の婚約者決定に関していろいろ記事になってたから、私はそれを集めて読んでいたの。あ、私たちのことも記事にされているのよ!」
オルレアはそういいながら、「週刊花喋」の表紙を見せた。これはフローラ学園や王室の記事をまとめた雑誌だ。「イセン様が入学してからは、定期的に婚約者候補予想や候補争いの状況が記事になっているのよ。」と付け足した。
「どおりで話してないのに、私の素行が実家にダダ漏れだった訳だ……。」
メリアはどよんとした気分でため息をついた。「王子の婚約者になりたいと言うから、お小遣いも多めに渡したし、応援していたというのに!!何たる愚行。何たる恥さらし!!」という、親からの手紙の内容を思い出してしまったのだ。カミールとロリアも顔をしかめているところを見ると、妖精の魔法の方に注力し過ぎて、そちらの配慮を欠いていたのだろう。
「1人悪役がいるとこういうのは盛り上がるからね。メリアが嫉妬で狂っていたときは、格好の話の種になっていたのよ。」
オルレアは気の毒そうにメリアを見た。
「ちょっと脱線しちゃったわね。当時の記事について話すわ。」
自分たちの素行が記事にされていたことで思わぬダメージを受けた3人に、オルレアは明るくウィンクして言った。




