20.イセン王子の魔法
「私とロリアが把握している、イセン様の魔法について教えるわ。」
「それとこれもいただきましょうね。」と、カミールはテーブルに届いていたレモンティーを自分とメリアの方に寄せた。
「まずは木属性の魔法についてロリアから伝えて
もらえないかしら。」
カミールはロリアに言った。眉をひそめるロリアに、「私が説明するより正確でしょう?」とニッコリ微笑んだ。カミールの笑顔は美しく優しい。なのに有無を言わせないところがあるのをメリアはここ最近身にしみて感じている。短くため息をついたロリアはメリアに聞く。
「メリア、木属性の魔法にどんなイメージがあって?」
「えっと、植物を直接操る魔法とか、植物からエネルギーをもらって攻撃する魔法とか?」
ロリアの質問にメリアは答えた。
「そのとおりよ。多くはそのどちらかで、稀にどちらも扱える人もいる。ちなみに、薬師は植物を操るよりもそのエネルギーを攻撃に転じる魔法を得意とする者が多いのよ。そして、わたくしもそのひとり。」
「イセン様もそう。植物のエネルギーを使うものよ。」とロリアは言った。
確かに、そうでなければ魔力銃を撃つことができないなとメリアは思った。植物を操る魔法使いは魔力銃に魔力を込めても、弾丸として打ち出すのが難しいのだ。
「イセン様は木属性の中でも希少な魔法を扱えるわ。なんと木霊を使役することができるのよ。」
「木霊を使役するということは、木霊に会話を見聞きさせて、自分に伝えさせることが可能ということよ。木霊が宿る木は樹齢や環境にも左右されるけど、イセン様は魔法によって本来親木から離れない木霊を、木がある場所になら自由に移動させることができるの。まぁ、移動距離に制限はあるかもしれないけれど。」
カミールがロリアに補足する。
「木霊は木の中に潜めるから、普通は確認できなわぁ。隠密にはぴったりね。まぁ、木霊自体は一定程度魔力があって、感覚が優れた人間なら誰でもその存在を見る、または感じることができるけどね。」
「ちなみに、会話はできなくとも、その存在くらいならわたくしも確認できるわぁ。」とロリアは付け足した。
「……だから、最初のお茶会は私の部屋にしたのか。」
メリアの部屋には必要最低限のものしかない。もともと花も飾らなければ木もなかった。
「ちなみに、わたくしの部屋はゴチャゴチャしていてメリアは気が付かなかったかもしれないけど、薬蜜柑の木があるの。風邪薬の材料にするものよ。」
「ちなみに、私の部屋にはプチチェリーの木があるわ。ジャムがとても紅茶にあうの。」
続けて、カミールが言った。
「でも、私がロリアの部屋で話したのは大丈夫だったの?」
「そのときはまだイセン様もメリアについてノーマークだったはずだから問題ないわぁ。」
メリアの問いにロリアは答えた。
「ところで、2人はなんでイセン王子の魔法について知っているの?」
メリアは尋ねた。
「……以前、わたくしにこっそり教えてくれたのよ。確か、専門授業のテストのあとだったわぁ。魔力切れに効果のある回復薬を作るテストで、わたくしがクラスで最高点を出したとき。」
ロリアは少し自慢げにフッと笑みを浮かべ、その時のことを振り返って話した。
***
「最高点、おめでとう、ロリア。本当に君には敵わないなぁ。」
イセン王子は頭に手をやり、困ったような、遣る瀬無いような表情をしていた。だが、すぐに気を取り直したように、「放課後会おう。」とロリアを誘った。ロリアもそれに応じて頷く。花束の効果もあり、誘われたことに舞い上がるような気分だった。約束の時間に中庭へ行くと、先にイセン王子が来ていた。誰かと話しているような様子に、思わず立ち止まる。
「……また勝てなかったよ。僕はどうして……。」
そのあと何と言っていたかは聞こえない。さわさわと木の枝葉が揺れる。ほんのりと明るい光の粒が、揺れる枝葉に合わせて弾けるように飛んだ。
「イセン様?今のはもしかして……。」
ロリアが声をかけると、イセン王子はハッと振り返った。少し焦っているようにも見えた。
「今の、木霊ですよね?まぁ、なんて素晴らしいの。わたくし初めて見ましたわぁ。木霊と話せる魔法使いは少ないというのに、こんなに身近にいらっしゃったのね!」
これはロリアの本心だった。木霊という存在は本で読んだことがあったし、授業でも触れられたことがあった。だが、木霊の多くは樹齢100年以上の木に宿ることが多い。そして、そういった木はたいてい人里離れた秘境の地にあるものだ。滅多に見られないものを見られたというのは、ロリアにとって貴重な体験であった。
ロリアの心からの感嘆を聞き、イセンは少し頬が緩んでいた。
「じ、実はそうなんだ。僕は木霊と話せるし、木霊に用事を頼むこともできる。」
イセン王子は自慢げに話したが、ハッと口元に手をやった。「話し過ぎた。」という表情にも見えた。だが、すぐに気を取り直したようにロリアに顔を近づけて、そっと囁く。
「このこと、僕と君だけの秘密にしてくれないかな?」
ロリアは悪戯っぽく笑って答えた。
「もちろんですわぁ。」
***
「……うわぁ。秘密って言われたのに。こんなにあっさり。」
メリアは少し呆れてロリアを見た。
「状況が変わったのよ!そのときはバラすつもりなんてなかったし、本心だったわぁ!!」
ロリアはキッとメリアを睨んで続けた。
「メリアの部屋に木霊が宿っていると思われる木、そうでないとしても木霊が潜める木があるということは、もうあなたの部屋で作戦会議はできないということよ。」
「それならまたここで……。」と、言いかけて気がつく。放課後ということもあり、次々に学園の生徒達が来店している。これでは会合はできたとしても、敵対しているはずの令嬢達が揃っているとあれば目立ってしまう。それにこの様子を見た誰かが、イセン王子に告げ口するかもしれない。
「そろそろ場所を移しましょう。」
カミールはそう言うと、1人席を立って会計に向かった。カミールが外に出たのを見て、時間をずらしながらメリアとロリアも外へ出た。
少し先で待っていたカミールがメリアに尋ねた。
「そう言えばオルレアの観察結果を聞いていないわ。」
「そうだった。オルレアが花束を貰ったと友人達に自慢しているところを見たよ。でも、前のロリアみたいに、ぼーっとしたり、ふらふらした様子はなかった。王子に好意があるのは間違いなさそうだけど、操られているわけではない、かな。」
「なるほど。」
カミールは少し考えるような表情をした。しばしの沈黙のうちに顔を上げる。
「それでは、いよいよ彼女にも声をかけてみましょう。花束をもらっているのであれば、私たちと同じ魔法の影響下にあると考えてもいいでしょう。たとえ、その影響が僅かであっても。」
カミールの瞳に強い光が宿っている。
「これが、最後の作戦会議となるはずよ!」




