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2.私を取り戻すために(1)

 ちゃっかり熟睡したメリアは、休日の早朝に目を覚ました。うーん、と伸びをして、さっさと顔を洗って支度しようとクローゼットを開ける。派手なワンピースやらフリル満載のスカートやら、趣味に合わない服が溢れていてギョッとする。 


 ……こんなに買っていたのか。


 派手な洋服たちを脇に寄せ、もともと愛用していたシンプルなシャツとそれに合わせたパンツに着替える。昨日用意してもらったティーセットを寮の食堂に返却し、そのまま朝食を済ませて目的の場所に向かう。射撃部の練習場だ。


 大会も近くないため、休日に練習している者はいなかった。そもそもこんな早くに練習に来る人など滅多にいない。その滅多にいないうちの1人はもともとメリアだったのだが。

 

 メリアは部室のロッカーから自前の銃を取り出した。部の備品で誰でも使用できる銃はあるが、学園中等部の1年生のとき、新人戦で優勝したお祝いに親が買ってくれたのだった。雷属性専用の魔力銃。銃弾を装填する必要はなく、自身の魔力を込める。ちなみに、自分の属性にあった銃を使わなければ、銃が壊れてしまう危険がある。つい、うっかり、なんてこともよくある話なので、自分の銃を持つことはそういう意味でもメリットがある。


 ずいぶん使っていなかったので、念入りに掃除し、点検する。的の発射装置へ魔力を込めて起動させ、急いで射場に戻る。ふぅっと息をつく。発射装置からは5つの標的が順番に打ち出され、不規則に宙を舞う。5つ目は最も小さく固い的が打ち出される。的に当たれば、的は2つにパカッと割れて落下する。外した的は一定時間浮遊後落下する仕組みだ。

 練習用の装置は連続して3セットまで稼働できる。3セット分終わったあとは、的中して割れた的を手ではめて、外して落下した的はただ拾って発射装置に装填し直す。

 部活のときは、3つの発射装置を同時に起動させて、3人ずつ1セット終わる毎に交代し、3セット終わった時点で的拾い係が的を拾って装填し、再び発射装置に魔力を込めて起動させる。これを射場に立った人と交代でするが、今はメリア1人なのでこれらを1人で行う。


 ピーーッと音がして、的が間もなく発射られることを告げる。メリアは銃を構えた。シュッと的が打ち出された。銃に魔力を込めて、撃つ。バチッという静電気のような音。外れだ。銃声は属性によって異なる。メリアのように雷属性なら「バチッ」と。火属性なら「ボッ」というし、風属性なら「ピュッ」となる。 

 本来の大会なら1つの的に対し1度しか撃つ事が出来ないが、今は練習なので浮遊している間何度も撃った。3度目にようやく当てることができたが、的を割る強さが足りずに、的は無傷で落下する。


……こんなになまってるなんて。


 今は落ち込んでいる場合ではない。集中するんだ。再び打ち出された的に、標準を定めて撃つ。外れだ。魔力の装填に時間がかかり過ぎている。もっと早く。正確に。適切な強さで。メリアは何度も撃った。3セット終わってしまったので、走って的を拾いに行く。結局割ることができたのは15個中1個だけだ。軽く舌打ちして、的を拾い、装置に魔力を込めて起動させ、走って射場に戻る。



 繰り返し撃つも、的中率はなかなか上がらなかった。それもそのはずだ。頭にはこれからどうすればいいのか、何故こんなことになったのかとぐるぐる渦巻いていた。一般的に、人の心を惑わす魔法など存在しない。あるとすれば、効果があるかも分からない恋の媚薬。例えば、揮発性の媚薬があの花びんに仕込まれていたとか……。だとすれば、誰が。何のために?


……そういえばメリアが嫌がらせをした令嬢のひとり、ロリアは薬師として有名だ。木属性の彼女は薬草の効能を最大限に引き出すことができる。そんな彼女であれば、媚薬を作って他人を惑わすこともできるかもしれない。


……私を悪者にすることで、自分の株を上げるとか?? 


 いや、とメリアは頭を振る。メリアを惑わした結果、自分が王子の前で恥をかくことになるのに、果たしてメリットがあるのか?そもそも痺れ薬などまともに飲んだら、障害すら残る可能性もある。リスクが高過ぎる。それとも、薬師ならばそれをも解毒できるのか?  


 ピピピッという音で我に返る。的を全て打ち出し終わったと装置が告げていた。今回も全て外していた。答えの出ない問いにも、集中できないのにもイライラする。自分らしくあるためにここに来たのに。


 しばし呆然としたのち、キュッと唇を噛み締め、メリアは的を拾いに走った。例え、どうあれ、謝るしかないじゃないか。結局メリアが悪事を働いて、他人を害したのは事実だ。例え納得できなくても、謝らないことこそ自分らしくないと思った。真摯に謝罪するしかない。メリアは走って射場に戻った。 


「ざまぁねぇな、メリア。」


メリアを嘲笑う、男子生徒の声が聞こえた。

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