17.魅力の伝え方
メリアは中庭のベンチに座り、教科書を読むふりをしながらオルレアを観察した。オルレアの様子はいたって普通に見えた。ぼんやりするでもなく、ふらふらするでもなく、友人達と盛んにおしゃべりしながらランチを楽しんでいた。
……もしかしたら、まだ花をもらう前なのかもしれない。
この前のロリアは授業の後に花をもらっていた。そのことを考えれば、昼休みの段階ではまだ花をもらってない可能性は十分にあった。ふと、おしゃべりの声のトーンが下がったので、メリアは聞き耳を立てた。この距離なら内容もギリギリ聞こえそうだ。
「……ねぇ、イセン様とはどうなの?」友人の1人がそう尋ねているのが聞こえた。
「フフッ。実はね、朝イチでデートしちゃったの!どこでかは内緒だけど、可愛い花束ももらっちゃったのよ。」
オルレアは嬉しそうに話していた。普段のオルレアの様子は知らないが、先日のロリアの様子とは全く異なっていた。
「ねぇ、見て。本当は部屋に飾ってこようと思ったんだけど、可愛すぎて自慢したくなっちゃって。ねぇ、これ見てよ!」
オルレアは無邪気に笑うと鞄とは別に持っていたポーチから小さな花束を取り出した。「長持ちするように、水属性の子に魔法をかけてもらったの。」そう言ってピンクの小さな花束の根元の部分をチョンと指差していた。
「香りもとってもいいのー。」
本当に幸せそうに顔を近づけて香りを吸い込んでいる。恍惚とした様子もない。ただの恋する乙女だ。友人の2人もオルレアの様子を微笑ましそうに見ていた。そのうちの1人は「恋っていいなぁ。私もしたい!」などと笑っている。
……あちらも食事は済んだようだから、声をかけてみよう。オルレアにはまだ謝罪もできてないし。
メリアはスッと立つと、オルレアに近づいた。メリアに気がついたオルレアの取り巻き2人は、和やかな表情が一変し、敵意むき出しで睨みつけてきた。
「何の用!オルレアに嫌がらせなんてさせないわよ!」
護衛のように友人2人はメリアとオルレアの間に立った。メリアは2人を刺激しないよう、落ち着いた声で言った。
「……実は、この前の件の謝罪をしたくて。オルレアに嫉妬してあんなことをしたけど、私は間違ってた。ごめんなさい。」
メリアは深々と頭を下げた。頭を下げたままだったが相手が息を呑むのがわかった。困惑している。
「い、今更そんな態度取ったって、騙されないんだから!ここはどかないわよ!!」
友人のうちの1人が食い下がったが、それを止めたのはオルレアだった。
「……私からもあなたに言いたいことがあるわ。何だか今のメリアなら落ち着いて話せそうだし。2人は先に行ってて。私なら大丈夫よ。」
「何かされそうになったら助けを呼ぶのよ!!こんな女に優しくする必要ないんだからねっ!」
そう言うと友人達はメリアを睨みつけ、次の授業へ向かって行った。メリアは改めてオルレアを正面から見る。やはり、ぼーっとした様子も何もない。先ほどの言動から察するに、イセン王子への好意は間違いなさそうだが、それは操られているわけではないような気がした。メリアの直感が魔法の影響が無いことを告げている。
「メリア、私はあなたの謝罪を受け入れないわ。」
「えっ。」と一瞬言葉に詰まる。でも、謝罪の気持ちは伝えなければならない。
「酷いことをしたのはわかってる。私の愚かな行為であなたに怪我がなかったのは本当に良かった。私も許して欲しいなんて言わない。」
メリアの言葉に嘘はなかった。魔法にかけられて行動したこととはいえ、階段から突き落とすなど非道なことだ。
「もー、そうじゃないわっ!」
オルレアは困ったようにキュッと眉を寄せ、メリアの肩をポンと叩いた。予想外の反応にメリアはポカンとする。
「謝罪を受け入れないっていうのはね、私は酷いことをされたと思っていないからよ。でも、あなたのやり方は間違っていた。それだけは伝えなきゃいけないと思ったのよ。」
メリアは混乱した。どういうことだろう?メリアは反応できずに、オルレアの次の言葉を待った。
「もー!さっきから何をぽけーっとしているの!同じくイセン様に恋する者同士、ここは切磋琢磨するべきでしょう?」
……アレ?いろいろおかしなことになってるぞとメリアは思ったが、否定しようにも言葉が出て来なかった。
「いいこと?イセン様にアプローチするなら、どれだけ自分を魅力的にみせるか、これに限るのよ!恋敵を貶めるなんて言語道断!しかも、メリア。あなたの場合は私たちに見せ場を作ったようなものよ!ロリアにせよ、カミールにせよ、得意分野を攻めてるじゃない!」
……確かに、ロリアを薬で害そうにも、つねに解毒剤を持ち歩いてるというし、持っていなかったとしても、彼女なら毒が回り切る前に解毒剤を作り出すことも可能だろう。カミールに至っては、癒しの魔法で自ら回復していた。見方を変えれば、彼女達の得意なことをイセン王子に見せつけることになったとも言える。
「そしてこの私はー。」
オルレアは1番近い階段を駆け上がり、最上段まで行くと、助走をつけて飛び降りた。
「……!?」
メリアは息を飲んだ。「何してるの!」という言葉は、その後中庭にいた生徒たちの歓声で掻き消された。
オルレアは風の魔法で自らを浮かせ、くるくると優雅に回りながらゆっくりと降下していた。広い袖口や花びらのようなスカートが風をはらみ広がれば、まるで蝶が翅を広げたかのようだった。服も、髪型も、指先までも、美しく見せる為に全てが計算されているのだ。
地上に降り立つと、中庭から拍手が溢れた。オルレアは得意気に「どう?」とメリアにウィンクしてきた。
「とても……綺麗。」
メリアは今までオルレアの舞台を観たことがなかったため、素で感動していた。それと同時にイセン王子に興味はないですよと、どう伝えようか悩んでいた。
「ありがとう!来月舞台公演もあるから、是非見に来てねぇ!」
オルレアはメリアと広場の生徒達に向かって満面の笑みで宣伝すると、今度はメリアにだけ言った。
「やっぱり、得意分野をイセン様に見てもらわなきゃね。私、誰にも負ける気はないけど、でも、お互い頑張りましょうね!」
キラキラした瞳でそう告げると、「じゃ、午後の授業へ向かわなきゃね!」とスキップするように去って言った。
完全にオルレアのペースに飲まれたメリアは、言えなかった言葉達をぐっと飲み込んで、次の授業へと向かった。そのとき、メリアの背後でざわりと木の葉が揺れた。




