16.メリアの課題
週明けの朝、メリアは射撃場に来ていた。先日、ロリアとカミールに課題を手伝ってもらったお陰で、幾分時間に余裕ができた。ただ、ジオラスが話を通しておくと言っていたとしても、部活に顔を出す勇気はまだ無かった。昨日は授業の予習などの合間に瞑想の時間も多めにとったが、前回射撃場に行ってからはまるまる1週間あいてしまっていた。
射撃場に着くと、すでに人の気配があった。「1人で練習したいのに。」と思ったものの後に引けず、扉の陰からそっと顔を出す。ジオラスだった。僅かな物音で彼は振り返り笑顔を見せた。
「おはよう、メリア。朝練に来るんじゃないかと思って、オレも出てきたんだ。部活には来づらいだろ?」
見透かさていたようで恥ずかしくなる。
「おはよう。言うとおりだよ。まだ射撃も安定してないし、迷惑かけちゃう。」
「迷惑なんてないよ。中等部の1年生たちなんてまだまだだろ?もともと上手かったヤツがスランプにハマることだってある。……まぁ、1番の問題はメリアの評判が地に落ちていることだけど。」
「それは本当に申し訳ない。」と言ったところで、「時間も限られるし、今は練習しよう。」とジオラスに促された。
発射装置に魔力を込めて射場に戻る。ジオラスの分もと思ったので2台起動させたのだが、ジオラスは銃すら持っていなかった。
「……???」
困惑顔でジオラスを見ると、「見ててやるから全部撃てよ。」と言われた。2台打ちは調子が乗っていた時期の無茶な練習方法だ。今は無理だと思ったが、ピーッという、的を打ち出す合図の音に急かされて、渋々銃を構えた。
ほぼ同時に発射される2つの的を狙って撃つ。魔力の流れが未だ安定せず、スムーズに撃ち出せない。狙いが合っていても、出力に波があり、的を割るほどの強さが足りないことも多かった。前回のように、暴発はないにしてもなかなかの下手っぷりだ。
1セット目の結果に落ち込みつつ、2セット目に備えているときだった。ずっと見ていたジオラスが声をかけていた。
「なんか、中等部の頃に戻ったみたいだな。肩とかに余計な力が入ってる。魔力もそういう身体に力が入ってるところに滞留しやすい。あと、的を狙い過ぎて魔力が目の方に集中していたぞ。」
「え……!」
今、ジオラスが指摘したことは、中等部の頃によく顧問の先生に指摘されていたことだった。メリアはもともとの魔力量が多い。そのため、暴発を防ごうと肩に力が入ることが多かった。負けず嫌いで的を狙い過ぎるのも当時の癖だ。魔力が目に集中すればそれも魔力の流れが悪くなる原因になる。言われて思い出したが、これも妖精の魔法のせいで忘れていたのだろうか?
2セット目、3セット目と回を重ねるごとに魔力操作は安定してきた。まだ外すことも多いが当たれば割れるくらいにはなっていた。ただし、今は通常の2倍の量を撃っている。メリアはすでにクタクタだった。
「はい、お疲れ様。少し感覚戻ったみたいだし、今朝の練習はここまででいいんじゃない?」
ヘトヘトのメリアを見てジオラスは笑った。
「今まで練習サボってたし、ダラダラやるよりいいだろ?」
ジオラスはニヤリとして親指を立てた。朝からこんな飛ばして練習するつもり無かったよ!と突っ込みたいところだったが、悪い癖を自覚させてもらった手前何も言うことができない。メリアは少しムスッとしながら、「ありがとう。」とジオラスに言った。
ジオラスはそんなメリアの顔を覗き込む。「明日の朝も来るだろ?」窓から差し込んだ光がジオラスの瞳にキラキラと映っている。それが無邪気な表情をより輝かせていた。メリアはまたも顔が熱くなるのを感じていた。照れ隠しに背を向けると、
「明日も練習見てくてれるの?」とだけ聞いた。
「おう!起きられたらな!」
ジオラスは悪戯っぽく笑うとさっさと荷物を持って出ていった。
してやられた感のメリアはその場で悶えるように拳を振った。
朝練ですでにヘトヘトのメリアだったが、お茶会で託された任務も忘れてはいなかった。オルレアを観察すること。風属性のオルレアと授業で一緒になることはない。ということで、用事があると言ってリリと昼食を取らずに、1人中庭に出ていた。
学園の中庭の中心には噴水、その噴水を囲むように花壇があり、円形の広場になっている。噴水と花壇を囲むようにベンチも設置され、ちょうど木陰になるように木も植えられているため、生徒たちの人気のランチスポットにもなっている。しかも、中庭は講義棟からのアクセスが抜群によく、2階から中庭に直接下りられる階段も設置されていた。
昼休みになると、かなりの確率でオルレアは中庭に来ていた。メリア自身は中庭で昼食をとることはほとんどないが、午後の授業に備えて近くを通ったときによく彼女を見かけていたのだ。適当なところに腰掛けて、購買で買ったパンをかじる。不自然でない程度に視線を動かしオルレアを探した。すると、わっと歓声が上がるのを聞いた。階段のほうだ。
ブルーの髪をお団子にまとめて、顔の脇の髪をくるりと巻いて風になびかせている。東の国の民族衣装のような独特な合わせ襟に袖口が広い服を着ている。スカートも花びらを連想させるようなふわりとしたデザインでどちらも風をはらんでは膨らみ、動きずらそうだなとメリアは見ていた。
オルレアは友達2人を伴って階段を下りてきていた。下でランチをしていた生徒たちがオルレアに気がついて手を振っていた。
オルレア・アメノーズメ。フローラ学園の生徒でもあると同時に、演劇やダンスでも活躍する芸能人だ。そもそも家系が芸能一家で、母親は歌手、父親は劇団や舞踏団の指導者兼代表者をしている。その中でも「コチョウ」はトップレベルのダンス集団で、時には王室主催のパーティーで余興を依頼されることもある。オルレアはその「コチョウ」の団員の1人で、ファン層も厚いのだ。
オルレアはメリアからそう離れていないベンチに友人達と座った。お互い食べている途中に話しかけるのも野暮なので、メリアは自分の昼食をささっと済ませて、オルレアの食事が終わるのを待つことにした。




