14.お茶会(2)
「私が自分を取り戻したきっかけは……」
カミールに聞かれたメリアは、以前ロリアに説明したことに加えて、その後気がついたことも2人に話した。
王子への恋に狂ってしまっていたとき、嫉妬の他に感じていた、本来の自分らしく振る舞えないことへの苛立ち。何かに抵抗するように買った落ち着いたデザインの洋服。そして花瓶を割った日、たまたまピリリと指先に感じた静電気がメリアの正気を取り戻し、勢いに任せて花瓶を割ったこと。
「自室に戻って花の香りを嗅ぐたびに、嫉妬心が強くなっているのを感じていたから、咄嗟に割らなきゃいけないって思ったんだよね。そのあとは、花の香りが強くて眠れないって言って、メイドさん達の部屋に置いてもらうよう頼んだの。」
メリアの部屋に飾られていた花はいつもメイドが飾っていて、メイドからはメリアのファンから届くものだと説明されていたことも話した。
「なるほど。」とカミールは呟いた。一方ロリアは呆れた顔で言った。
「メリア、あなたは直接花を渡そうとしても断られると、イセン様に判断された訳ね。あなたなら確かに興味がないとか言って断りそうなものだけれど、普通王子からの贈り物を断るなんて無礼以外の何ものでもないわよ?」
メリアは思わず「うっ。」と詰まった。ロリアの言うとおりだった。メリアは花束をもらったところで、「で?」と思ってしまうタイプだ。だが、無礼だとしても、要らないものは要らないのだ。
そんなメリアの様子をクスクス笑いながらカミールは言った。
「まぁ、まぁ。そんなメリアのお陰で私達はこの場を設けることができたわけだからね。」
そういえば、2人はどうやって魔法にかかっていることがわかったのだろう。メリアの表情を読んでカミールは説明する。
「メリア、あなたもそうだと思うけれど、私達はいわゆる名家の出身。それ故、友好関係になるか敵対関係になるか、と言うと言い過ぎかもしれないけれど、とにかく、名家同士、利になる繋がりを持ちたいと普段から意識していたわよね?だから、直接話す機会が無くとも、何となくお互い人となりはわかっていた。だからね、メリアが急に変わったことについて、私もロリアも違和感を感じたわ。私達が見てきたメリアとは全く違ったもの。じわじわ変わるならともかく、昨日と今日で全く違うというレベルだったから。」
「それがさらに厄介だったわぁ。お陰でわたくしたちは、自分達が魔法にかけられていることに気がつくのが遅れたもの。あまりの変化にメリアだけに注意が行ってしまったのよ。」
今度はロリアが言った。
「イセン様から花を貰うたびにとても幸せな気分になったわぁ。気がつけば好意を抱くまでによ。メリアほどではなかったにしても、私自身、イセン様が他の女と会っていると知れば嫉妬したわ。」
でも、とロリアは続ける。
「いつも週末が近づくと何となく冷静になれた。自分の行動を省みる余裕ができるというか、そんな感じよ。そしてそれは、イセン様からもらった花の香りが薄れる頃と一致する。忌々しいことに、それに気がついても自分で花を捨てることはできなかったわぁ。そういう魔法なのね。」
「だからこそ、メリアだけが花瓶を割ることができた理由を知りたかったのよ。」と、ロリアはフンっと鼻を鳴らした。
「私たちがお互い魔法をかけられていると気がついたのはメリアの行動にもあるのよ。」
カミールはそう言った。
「えっ。」とメリアは驚く。思い当たるものはない。
「メリア、思い出してみて。あなたが嫌がらせをした人物を。そして、そのメンバー以外には手を出さなかったでしょう?」
メリアはハッとする。確かにそうだ。メイドやクラスメイトに暴言を吐くことはあっても、直接手をくだしたのは3人だけだ。
この学園内で、いや、この国で確たる地位を持つ家の出身者。加えて、イセン王子が高頻度で接触していた人物。ロリア、カミール、オルレアの3人だけだった。
「私が嫌がらせをしたのは、ロリア、カミール、オルレアの3人だけ。だから、私を含めた4人が魔法にかけられているとわかったのね?」
メリアが聞くと、カミールは「そのとおり。」と頷き、続けて説明した。
「私たちほど会う回数が多くなかったとしても、イセン様が接触していた女の子は他にもいるわ。玉の輿を狙って、自分から積極的にアピールする子だっていたし。そんな中でメリアが嫌がらせをしたのは3人だけだった。ロリアと話してみれば、彼女も週に1度花をもらっていると言うし。それで確信したのよ。」
でも、だとすれば、この場にオルレアを招かなかった理由はなんだろう?
「それなら、なぜオルレアには声をかけなかったの?」
メリアは率直に尋ねた。
「これは、私とロリアの意見は一致しているのだけど……。」
カミールはロリアに目配せした。それに応えるように、ロリアは言った。
「メリアの嫌がらせが3人に限定されていたからには、魔法をかけられたのはメリアを含む4人で間違いないわぁ。でも、どうもオルレアを見ていると、魔法の影響を受けてないように感じるの。ただ、そう思うのはわたくしたちが週明けに花をもらって、判断力が鈍っている状態で彼女を見るからそう感じるのか、そこがイマイチ確信できないのよ。」
「花が萎れるにつれて魔法の効力は薄れるでしょう。だから、週末に私たちの判断力が回復しても、それはオルレアにも言えることだものね。」
そう言うとカミールは顔を曇らせた。が、それは一瞬のことだった。キラリと瞳を輝かせると、人差し指を立ててぐっとメリアに顔を寄せる。
「そ・こ・で!あなたにお願いしたいことがあるわ。」
カミールはウィンクすると言った。
「来週からオルレアのことをよく観察して欲しいの。オルレアがイセン様から花をもらっているかも確認して欲しいわ。花をもらっているならば、オルレアも魔法をかけられているとみていいでしょう。これは、花の魔法で行動や判断力に制限のないメリアにしか出来ないことよ。」
また1つ課題が増えたなとメリアは思った。




