13.お茶会(1)
カミールとお茶会の約束を取り付けたことを知らせるため、「明日の14時、508号室に集合」というメモをロリアの部屋のメールボックスに入れた。直接渡す方が確実だが、なるべく人目につきたくなかった。多分、注意深いロリアなら確認するだろう。メリアはそのまま部屋をあとにした。
お茶会当日。約束の時間になると軽やかなノックが響いた。ドアを開けると、ニコニコ笑顔のカミールと不機嫌そうなロリアが立っていた。メリアが部屋に招き入れると、開口一番に「思ったとおり、あなたの部屋って何もないわね。」とロリアは言った。ロリアの言うとおりだ。メリアの部屋には必要最低限のものしかない。椅子も両親が訪れたときのために2脚はあるが、自分の椅子は勉強机の椅子を使っていて、今回も来客テーブルの方へ設置していた。
「でも、だからこそメリアの部屋にしたかったのよね?」
カミールはイタズラっぽくウィンクする。ロリアは「フン!」と鼻を鳴らした。メリアは2人のやり取りを聞きながら、あらかじめポットに用意したお茶をカップに注ぎ、毎日パッションで買ったお菓子を並べた。
「まぁ、こんなに気を遣わなくてもよかったのに。」
カミールは笑って言った。「せっかくだから、いただきますね。」と、カップに口をつける。その様子にメリアは思わず言った。
「私のことを疑わないの?」
メリアはロリアにもカミールにも一服盛っている。正直なところ、お茶を用意しても飲んでもらえるか不安はあった。
「フフッ。疑っていたら始めからお話ししたいなんて言わないわ。」
「美味しいお茶ね。」とカミールは微笑んだあと、視線をロリアに移す。ロリアは黙ってお茶を飲んでいた。カミールは「さて、何から話せばいいかしら。」としばし遠くを見つめていた。
「……まずは、私とロリアの関係について前置きしておこうかしら。私達は同じ趣味を持っているの。ある意味『オタク』と言ってもいいのかもしれないけれど。私とロリアは妖精の魔法について強い興味を持っているの。」
メリアはイセン王子とロリアの会話を思い返していた。ロリアは「魔法陣に植物を使い、植物の力も引き出すところが興味深い。」というような話をしていた。
「この国の祖先は優秀な薬師たちだったから、当時の技術を学んでいるうちに、妖精の魔法にも興味が移っていったのよね?」
ロリアは「そうね。」と軽く頷いた。そこに触れる必要ある?と言いたげだ。
「ちなみに、私は光属性の性質が妖精の魔法に最も近いと言われているところから興味を持ったの。光属性の魔法は癒しと、『ベイル』と言われる魔獣忌避の盾魔法が主となるのだけれど、極めれば別の使い方もできるんじゃないかって。」
「この学園は王城に併設されているだけあって、学園の図書室の蔵書数は国内イチよ。それでも図書室の妖精の魔法に関する書棚は限られているから、自ずと顔を合わせる機会が多くて。私はロリアとたびたび意見交換をしていたのよ。」
と続けてカミールは説明した。2人が同時期に話し合いを提案してきたのは、もともと友好関係にあったからかとメリアは納得した。
「そろそろ本題に移ってよくて?」
ロリアはお茶をひと口すすりそう言った。
「まずは、先日のわたくしとイセン様の密会の中身を聞かせて欲しいわぁ。」
メリアは手帳にメモしたことを話した。
「まずはイセン様がラベンダーみたいな花をロリアにプレゼントして、そこからロリアの様子がボーッとした感じになった。イセン様は妖精の魔法についてまだ調べているかを気にしているみたいだった。それと、私の嫌がらせの心配とか、あとは2人でいちゃついてたよ。」
ロリアはげぇっという顔をすると、「ボーッとしてるってどんな感じなのよ?」と聞いてきた。
「手元も危なっかしい感じで、フラフラしていたよ。」とメリアは答えた。
「イセン様と会った後はいつも記憶が曖昧なんだけど、そんな状態なのね……。」
これにはカミールも嫌そうな顔をして言った。自分のことを振り返っているのだ。
「確認するまでもないことかもしれないけれど、怪しい花をプレゼントしに来ているからには、イセン様が何かしてるってことなんだよね?」
メリアはロリアに馬鹿にされるかなと思いつつ聞いた。
「そうね。イセン様が関わっているのは間違いないわぁ。……イセン様だけ、ならいいけどね。」
ロリアは顔をしかめながら言った。メリアの質問に苛立つ様子はなく、少し考え込んでいるようだ。
「でもまぁ、イセン様が妖精の魔法について調べているか確認したということは、妖精の魔法について詳しく知られたくないと言っているようなもの。やはりこの魔法は妖精の魔法で間違いないわね。」
ロリアは不敵に笑って言った。
「でも、妖精の魔法って人間には使えないんじゃ……?」
メリアが聞くとロリアはすぐに反論した。
「妖精の魔法以外に何があるって言うの?人間の魔法に人心を操るものはないわ!それに魔獣の魔法にはそういうものもあるけれど、魔獣がこんなことしてもなんのメリットもないでしょう!!加えて、王家には妖精から特殊な魔法が伝えられているのは史実としてあること。王家だけが使える妖精の魔法があっても不思議じゃないわぁ。」
言われれば確かにそうなのだが……。少しへこんだメリアだったが、気を取り直して質問した。
「私達がかけられている魔法の発動条件にはイセン様がロリアにプレゼントした花も関係してるってことだよね?カミールも同じく花束をもらっているの?」
「ええ。私も毎週花をいただいているわ。あの花束をもらった後は、私もフワフワした気持ちになって、イセン様との会話が曖昧だったり、授業に身が入らなかったりするのよね。」
カミールは頬に手を当てため息をついた。
「この魔法の効果を持続させるには、イセン様が持って来る花を部屋に飾る必要があることは間違いないわぁ。でも、花だけじゃない。大元にあるものを叩かないことには、完全に解くことはできないでしょうね。」
ロリアは唸った。
「その証拠に、花を飾っていないメリアですらまだ魔法にかかったままでしょう?一部記憶が欠けているようだものね。」
そうロリアに言われて、メリアも答えた。
「確かに。花瓶を割ってから自分らしさは取り戻せたけど、記憶は曖昧なところがあるんだよね。2人に盛った薬をどこから手に入れたかも思い出せないし。」
本当はジオラスのことが頭をよぎったのだが、さすがに言えなかった。
「そういえば、メリアが自分を取り戻したきっかけを私も聞きたいわ。」
カミールは興味津々だった。




