始まり
佐藤湊は、朝の冷たい空気を感じながら、高校のバスケットボール部の練習に向かっていた。まだ高校1年生になったばかりの湊は、チームの一員として何とか食らいついている状態だった。部のメンバーはほとんどが2年生や3年生で、湊よりも体格やスキルで明らかに優れている者ばかり。湊はその中で、どこか取り残されたような気持ちで日々を過ごしていた。
湊の身長は160cm。バスケをやっている多くの選手の中で、これほど小さな体格は少ない。バスケットボールというスポーツは、力や身長がものを言う部分が大きい。湊は何度もその壁にぶつかり、悔しい思いをしてきた。シュートを決めても、ドリブルを繰り返しても、何かが足りない気がしてならなかった。
「大丈夫、まだ1年生だし、これからだ」
湊は心の中で何度も自分に言い聞かせた。高校に入学したばかりのころ、彼は誰もが憧れる「NBA選手になる」という夢を胸にバスケ部に入った。しかし現実は、思っていたよりもずっと厳しい。自分よりも遥かに優れた先輩たちが目の前でプレイしていると、自分の力不足がより一層感じられた。
「湊、そこにいろ!もう一度パス!」
部活の練習中、湊はボールを受け取ろうと必死に動くが、相手のディフェンスに阻まれてパスが通らなかった。1年生というだけで、まだまだ実力が足りない湊は、なかなか試合の中で目立つことができない。
「あれ、湊、またボール取られたか?」
先輩から投げかけられた言葉に、湊は思わず肩を落とす。今の自分が、チームにとってどれほど役に立っているのか、湊はわからなかった。
試合中、湊が気づくのはいつも後手に回ってしまっていることばかりだった。速さや力強さでは勝てない。他の選手たちが素早く動き、圧倒的な高さでリバウンドを制する中、湊はついていくだけで精一杯だった。
練習後、仲間たちはさっさと帰っていったが、湊は一人残ってバスケの練習を続けた。疲れた体を引きずりながらも、湊はシュート練習に取り組んでいた。夜のコートは静まり返り、湊のシュート音だけが響く。身体は重く、足もすでに痛んでいたが、それでも湊はボールを放り続けた。
「まだまだ、足りない…」
湊の心には、いつも自分に対する不安と疑念が渦巻いていた。バスケを始めた時から感じていた「足りない部分」、その穴を埋めるには、どうしたらいいのか。体力が足りない、身長が足りない、そんな弱点をどう克服すればいいのか、湊は答えを出せないでいた。
だが、湊には一つだけ揺るがない信念があった。それは、**「努力」**だけが自分にできる唯一の武器だということだった。どれだけ他の選手が優れていようと、湊はそれを受け入れるしかなかった。そして、努力を続けることで必ず道を切り開けると信じていた。
「NBA選手になれるかはわからない。でも、今の自分ができることを精一杯やるしかない」
湊は改めて心の中で誓った。その日から、どんなに辛くても、諦めることはしないと決めた。自分が小さくても、体力が足りなくても、誰よりも努力する。それだけは、絶対に負けたくなかった。
次の日、湊は目を覚まし、まだ暗い早朝からコートに足を運んだ。周りの誰もが寝静まっている時間帯、湊はひとり黙々とシュートを打ち続ける。心の中では「今日も少しでも上手くなる」という思いが強くなり、体は疲れてもその手を止めることはなかった。