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第14話 こいつ喰いすぎだ

『パリッ』


 私が卵を返そうと決意したとき、手元から怪しい音が聞こえてきた。その元をたどると、卵にヒビが入っている。


「げっ! 孵化するぞ!」

「食べなくてよかった」


 中身がわかる卵は流石に食べるのは躊躇する。せめて白身と黄身の状態であってほしい。


「この状況でそれを言うのか! いいか! 流石にドラゴンはヤバい」

「何がヤバいの?」

「ドラゴンを配下にしているのは、魔王ぐらいしか居ないだろう」

「でも今の内に返せばいいんだよね。まだ孵化してないよ」


 するとクロムは馬鹿な子をみるような視線を私に向けてきた。


「カリンは分かっていないだろうが言っておくと、ドラゴンの孵化には大量の魔力が必要だ。だからシューエル山に巣をつくる」


 へー。ドラゴンってそういう生態なんだ。まぁ、あの巨体で空を飛ぼうってなると、大変そうだものね。

 飛ぶのに魔力が必要なんだろうね。


「いいか、こいつはカリンの魔力で孵化する。魔人の魔力を喰ったんだ。普通のドラゴンじゃねぇんだ」

「ごめん。その辺りの違いを諭されても理解できない。ドラゴンはドラゴンじゃないの?」

「大昔の魔王の配下に魔王の魔力を喰ったというドラゴンがいたという話がある」


 いや、だから私は魔王じゃないからね。


「大陸の一つを全て火の海に変えたといい伝えられている」


 ちょっと大げさな気がする。これって後世に残す時に話を盛ったんじゃない? そもそも大陸全土を炎で満たしたのなら、それを伝える人は生きていないことになる。


「それって今いるここのこと?」

「いや、違う」

「ふーん。大陸っていくつあるの?」

「六つだ。そのうちひとつが魔王が住む極地だ」


 魔王が一つの大陸を保有しているってことか。ということは、わざわざそこに行かない限り、会うことはなさそうだね。

 魔王だなんて恐ろしい存在に、できれば会いたくないもの。


「その燃えた大陸は?」

「今は海の底だな」

「そもそも無かった! え? だったらその話の信憑性が無くない?」

「ああ? 精霊はどこでもいるって言ったよな? 精霊が伝えたことに疑いを向けるな!」


 精霊という摩訶不思議な存在ね。どうもクロムは精霊教でも信仰しているように、精霊という存在に傾倒しているように思える。


「あ、ごめん。精霊って私がいた世界には居なかったから馴染がないの。って、もう大分殻が割れている!」


 卵が揺れたので、下を見てみるともう既に小さな穴が空いていた。

 そして、バキッと大きく空いた穴から、鼻の穴が出てきた。違った。多分鼻の先にある突起で殻を割っている。


 その鼻が引っ込んだかと思うと再度殻が大きく割れて、顔がでてきた。


「ぷぅ〜」


 何か変な鳴き声が聞こえたけど、灰色の鱗に覆われたドラゴン……なんか異様にぷっくりしているけど?

 今日会ったドラゴンはシュッとしたトカゲっぽい顔つきだった。でもこのドラゴンの子は、ほっぺたぷっくりの爬虫類?自分の見ているもののたとえができない。


 私は卵の殻から取り出して全身を見る。翼はあるものの全体的にむちっとしている。


「ドラゴンの子供ってこんな感じ?」


 クロムに聞いてみると、クロムは凄く嫌なものを見たように全身の毛が逆立っていた。

 え? このドラゴンの子どもに威嚇している?


「そいつ、喰いすぎだ。既にドラゴンって言っていいものじゃない」

「そうだよね。今日見たドラゴンはスマートで空も自由に飛べるよって感じだけど、この体型じゃ難しそうだよね」


 あれ? いつの間にか銀太も虎次もクロムの背に隠れるようにしている。

 なんだろう? 見た目がドラゴンっぽくないからかな?

 でもドラゴンの背に乗って空を飛んでみたいよね。……あっ! そうだ!


竜騎(タツキ)ってどう?」


 すると、ブルっと震えたドラゴンの子どもは、そのまま目を閉じて寝てしまった。

 これは初めての反応!

 今まで銀太も虎次も心ここにあらずって感じだったもの。


 そして『プープー』と寝息が聞こえる。これ、太り過ぎで音が鳴っているとかないよね。


「名で力も縛ったのか」


 いつもの感じに戻ったクロムは、夕食を作ると言って、火を熾し始めた。

 そして虎次は私の頭の上に乗ってきて、遠巻きに子竜を見ている。


「ねぇ、クロム」

「はぁ、なんだ?」


 凄く疲れている感じがありありと見て取れる。


「今は、問題ない?」


 私は子竜を見て言った。毛を逆立てるほどではないのかと。


「はぁ。魔力を糧とする魔物はいくつかいる。そいつらには絶対に今後一切近づくなよ!」


 答えではない言葉が返ってきた。多分、問題は無いらしい。


「はぁ。カリン。行動を起こす前に、俺に相談しろ。これは絶対だ」


 クロムのため息が酷い。

 これは今後ドラゴンには、近づくなということなんだろうけど……


「私、ドラゴンたちから逃げられていたから、多分もう会うことはないと思うよ」

「その自覚があるんだったら、卵を持って帰ろうとするな!」


 凄く怒られている。だって、その時はダチョウの卵だと思ったんだよ。ドラゴンの卵だなんて思って持って返ってないんだよ。


 と言い訳をしようと思ったけど、クロムの機嫌が最高潮に悪かったので、私は平謝りをするしかなかった。


 できれば、事前にドラゴンは要注意だと言ってほしかった。


「あ? 誰があんな五千年前の魔王が創った岩槍(がんそう)に、行くと思わないだろうが!」


 どうもドラゴンが住処にしている山は、五千年前の魔王が戦った時に創った岩の槍だったらしい。

 確かに槍みたいと例えたけど、まさか本当にそうだとは思わなかった。魔王って恐ろしい。




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