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第五話 継承の儀式(1)



 ある時、創世の神は大切に育てていた一本の大樹と、己が涙の一滴を使って、一つの世界を創造した。

 大樹にたった一つだけ咲いていた花を摘み、その四枚の花弁を涙に浮かべて、海と陸を創った。

 世界の中心に置かれたその大樹の名はアビエスといい、その分け枝から、四方の大陸に命が生まれた。

 アビエスが放つ淡い光が昼と太陽を生み、その大きな木陰が夜を生んだ。

 そうして、神は世界の名をフロースロスと名付け、自らの娘二人に世界を見守らせることにしたのだ。

 しかし、生命の生まれた世界に神があまり干渉するのは好ましくない。

 そこで金と銀の双子の女神は、己の分身として双つの月を生みだし、はるか空から世界を見守ることにした。その際に、己が眷属として竜を創り、それぞれの大陸に根差した四本の樹を護らせることにしたのだった。

 それが、この世界に二つの月と、五本の聖なる樹がある理由である。


 ――――以上、創世神話第一章『アビエス』より抜粋。






 おはよう、なんて呑気に、目を覚ましたシュリュセルに挨拶していたら、あっという間に妖精さん達が現れて、服を掴まれ無理やり隣室に連れて行かれた。

 そうして、あれよあれよと言う間に、豪華な金と銀の糸を組み合わせた細かな刺繍の施された、いつもの巫女服よりもやや目立つ白い服を着せられた。

 いつも思うが、この服何で出来てるんだろう。聞いてもきっとわからないから、放っておくけど。

 ……こんな小奇麗な服、地味顔の私が着ても、似合わないことこの上ないと思う。まだ派手なデザインでないだけよかったが。

 忙しない、どこか鬼気迫る人々の様子から、今日は儀式の日だということを思い出した。

 途端、無いはずの心臓がばくばく鳴っているような気がした。失敗は許されないのである。

 スパルタ教師と過保護騎士が怖くてたまらない。

 けれどどんな時でも、やっぱり癒しはシュリュセルだった。


「カズキ、にあうな!」


 君の方がきれいだよ、なんて気障な口説き文句が口から出かけた。

 輝いている目が素晴らしく可愛らしい。くるくると私の周りを一周して衣装を眺めている青銀の子の頭を、思わず撫でていた。

 くすぐったそうにしているシュリュセルは、これまた如何にも儀礼用と言わんばかりに輝かしい、立派な服を着ている。

 決してけばけばしいとかではなく、シンプルではあるのだけれど、見るからに高価そうだ。

 こちらは白金を基調にした衣装だが、やはり銀と金の糸で刺繍が施されている。

 最初はわからなかったけれど、自分の服にもシュリュセルの服にも、ひっそりと、良く見れば木のような模様が縫い取られているような気がする。

 ……何か意味があるのだろうか?


『ありがとう。シュリュセルも、すごく似合ってるよ』


 嬉しげに笑う子どもをまた一撫でして、ふと尋ねる。


『あれ、そういえば、シュリュセルは髪を結わないの?』


 千希は妖精達に監督されて、ああしてこうしてと背中に届く位の長さの黒髪を片側に寄せて、光の欠片のような不思議な髪飾りをしている。

 本当はもっと凝った髪型にしたかったらしいのだが、生憎不器用なために自分じゃできなかったのでそれに落ち着いた。

 日本にいた時だって、おしゃれをしている子達を器用だなあとぼへっと見ていたものだ。

 シュリュセルのように見栄えが良ければ、周りが腕によりをかけて飾り立てそうなものだけれど、青銀の髪は背に流されたままで、飾りもついていない。


「ああ。かみはゆわないのがしきたりなんだ」

『ふうん…』


 確かに、何もしなくてもとても綺麗な髪だから、無駄に飾り立てる必要はないかもしれない。


「………カズキ」

『ん?』


 じっと、紫の瞳が見上げてくる。

 なあに、と腰を屈めて視線を合わせれば、竜の子は真面目な表情で、問い掛けてきた。


「いまさらだが、ほんとうにわたしのウィータになってくれるか? きっと、いろいろとたいへんなことがあるとおもう。でも、わたしはカズキにいっしょにいてほしい。わがままだとおもうが……たったひとりの、わたしのウィータになってくれ」


 それはきっと、彼の懸命な願いだったのだろう。ぎゅっと握りしめた手は堅そうで、ああ、この子はこんなに幼いのに、色々なことを堪えてきたのだろうと感じた。泣きそうな程に一生懸命なのに、涙が浮かぶ様子はない。

 ――出来ることならこの子に、泣き場所を作ってあげたいと思った。


『――いいよ。私にしてあげられることがあるかはわからないけど、シュリュセルの側にいる。巫女ウィータがどれくらい大変なのかわかんないけど、新米王様と新米巫女で、一緒に頑張ろうね』


 ぱあっと明るい笑みを浮かべて、シュリュセルは千希に抱きついてきた。

 それが、ある一人の少女と一人の竜王が、互いに誓いを交わした瞬間だった。




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