第一話 孤独を埋めるもの
子どもと関わった経験は多い方だと思う。
それでも、これほどに懐かれたのははじめてだ。
「――シュリュセル様。それは一体何ですか?」
大人との関わりも多かった方だと思う。
それでも、これほどまでに殺意を抱かれたのもまた、はじめてだった。
「それじゃない! カズキはぼく……わたしのウィータだ!」
私の腰に甘えるようにしがみついていた、きらきら輝く美しい子どもがそう言った瞬間、相手の殺気が勢いを増した。
こわい。既に内心冷や汗が止まらない。
「巫女……? そのニグリティアがですか?」
まさにゴミでも見るかのような視線、というのはこういうものなのだろう、と私は思った。
後に知ることだが、ニグリティアとは『哀れなる影』という意味らしく、肉体は死んでいながらも何故か黄泉に行けずに、ただぼーっと世界を漂っている何の益も害もない魂のこと、つまり日本でいう低級な浮遊霊のような存在のことを指していたそうだ。当たっているようだが失礼である。
シュリュセルと言う名の子どもが、これほどまでに私に懐いている理由は、説明されてもよくわからなかった。
泣いているのを宥めていた最中のこと。
子どもはいきなり、何かに驚いたようにしてぴたりと泣き止んだ。
かと思えば、いそいそと胸元から何かを引っ張り出した。
その手に握られていたのは、空気を揺らすように淡く輝く、不可思議で美しい光を放つ石。
りぃんと鈴のような美しい高音が聴こえた。シュリュセルは、暫し時間が止まったように、それに呆然と見入っていた。
が、唐突に、私に幼児にしては強烈なタックルをお見舞いしてきたのだ。あの世が垣間見えたような気がした。推定幽霊だが。
それが、理解不能な自分の立場の始まりだった。
子どもは、自分の髪のように綺麗な青銀に光る菱形の石をこちらに向けながら、きらきら輝く笑顔で私に言ったのだ。
そなたが、わたしのさがしていたウィータだったのか、と。
ただの平凡ないち日本人の私は、ぽかんと口を開けるしかなかった。何のことじゃい、と。
確かに、その子どもは見たことも無いほど美しい姿形をしていたし、色彩的にもゲームのキャラクターのような、地球ではお目にかかれない感じではあった。死後の世界の住人とも何か違うようだし。
変だなーと何となく思ってはいたけれど、まさかそこが地球ではなく、ふぁんたじーな世界だとは。
その子どもの名はシュリュセル・アクアレギアスと言い、何と一国の王にして、人ではなく竜なのだという。
そしてこの私、佐藤千希――享年十七歳と数カ月は、シュリュセル曰く『王の巫女』と呼ばれる存在であるらしい。
………全くもって、意味がわからない。
というか、これは異世界トリップなるものなのでしょうか。だとしたら私幽霊っておかしくないでしょうか。いやいやいや、死ぬぐらい経験しないと現実じゃ来れないのか?って、そんなわけあるか。
ちょ、責任者出てこい。
主人公は海に向かってバカヤローと叫びたい気分のようです。