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    竜王の巫女(3)




「や、こんばんは」


しゅたっ、と手が挙げられて、にこやかな挨拶を頂く。


『……こん、ばん、は…?』


思わず挨拶を返してしまったけれど、それでよかったのか。




アクアの中で、王都に次いで大きな街、カリダステラとフリーギダにそれぞれ訪問し、新王と新巫女の着任の挨拶を済ませた夜のこと。

王都程ではないがそれなりに友好的に迎え入れられて、ほっと安堵したらしいシュリュセルが、数日後に備えた隣国の王の訪問に関する憂いはひとまず忘れるとして、ぐっすりと眠りについたのを見守り、いつものように細くなっていく月光の下で、あの短剣に宿っているらしい銀色の栗鼠のような生物――世界には魔具と呼ばれる、特殊な魔法の掛かった希少な武具があり、時折あのような不思議な存在が宿っていることがあるのだと最近学んだ――問い詰めた所、ハルとだけ名乗った、老人のような口調の持ち主と語っていた時。

唐突に、声を掛けられた。

「君が新しい巫女?」と。

見上げた先、広い露台の手すりの向こうに人影がひとつ、あった。

闇夜に映える星を散らしたような白金の髪。愉快そうな色を浮かべた紫紺の瞳。整っていながらもまだまだ未発達な美しさを持つ――どう見ても、まだ十代に満たぬ程の幼い少年が、まるで地面に足をつけているかのように自然な動作で、空中に立っていた。

一瞬お仲間かと思ったが、明らかに相手は透けていない。

にこっと可愛らしい笑みを浮かべて、少年は軽い調子でこんばんは、と暢気に挨拶したのだった。


『えーと……どちらさまでしょう』


不法侵入者はこの城にはこれないはず。ということは、きっと城の関係者なのだろうけれど、多分面識はない。

こんな夜中に幼い少年が出歩いているのも不思議な話だが、見た目こそ子どもでも、相手からはどこか大人びた印象を受けた。


「驚いた? 驚いたなら悪戯成功だね」


ふふふ、と楽しげに笑いながら、てくてくと宙を歩き、手すりに乗ると、よいしょ、と露台の床に足をつける。

先程の千希の質問を華麗にスルーして、少年はじろじろと彼女を前・横・後ろと様々な向きから見てきた。

何なんだと呆気に取られている間に、再び向き合う位置に来て、彼は愛らしい仕草でこてんと首を傾げる。


「んー…マナの質が少し違う。界迷者か。王の巫女ウィータが異界の民とは初めてのことだね」

『え、わ、わかるんですか…』

「そりゃあ、僕はことわりの探究者の一人だし…」

『――どこをほっつき歩いとった、オルサフィーニス』


少年へ、やれやれと言いたげな声が掛けられた。先刻から何も口にしなかったハルだ。


「あれ、ハル爺。めっずらしいなー、なんでこの子のとこにいるの? エスは?」

『付き人のような者として貸し出されとるのだよ』

「えー!? あのエスが! 本当に!?」


驚愕、といった表情を浮かべた少年は、千希に視線を向ける。

がしっと肩を掴まれ、揺さぶられた。


「君、よっぽど気に入られたんだね! あの子がハル爺を人に預けるなんて!」

『は、え…!?』


ぶんぶんぶん、といつぞや自分がシュリュセルにしたような行為をされ、目を白黒させ――千希は、いくつかの不可解な点を見つけた。

この会話の流れから、彼が指す「エス」という人物は一人しかいない。

その人は罷り間違っても、幼い少年に愛称で呼ばれたり、自分のことを気に入っていたり、「あの子」なんて子どものように言われるようなひとではない。

それに、突然のことに驚いてつい、相手を止めようとした千希の手は、当然のように小さな腕を擦り抜けた。


――何故、このひとは私に触れられる。


「ああ、ごめんね。つい興奮しちゃった」


悪びれない笑みを浮かべて、手が離れていく。


「はじめまして、シュリュセル王の巫女様。僕の名前は、オルサフィーニス・グラナトス」


気付くのが遅れたが、少年は、その身に白い衣を纏わせていた。

どこかで目にしたような、と記憶をさらえば、すぐに似たような衣服が思い浮かぶ。美貌の師匠がいつも着ている司祭服を更に簡素にして、男性用にしたようなそれだ。

しかもその名前は聞き覚えがある。

優雅に衣を翻し挨拶をした後、愉快そうに彼は言った。


「オルって呼んでね。あ、こんな見た目だけど、一応ウィオラとエクエスの父親でーす」


千希は絶叫した。

その声に驚いて、エクエスが飛んできて、シュリュセルが目を擦りながら起きた挙句、どこからかウィオラもやってきた。

暫くその場が固まったことは、言うまでもない。



短くてごめんなさい!

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