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7 安全マージン


 ここで、生徒会選挙に出張ってくる奴を考えてみたい。


 やはり、生徒会長を狙ってくる人は今までそれなりの役職に就いてきた者だろう。


 例えば生徒会や部長、委員長等々。まさか俺みたいにいきなり立候補した奴は――まあ、多分いないだろう(というかいないと信じたい)。


 そして次に人数。俺の少ない記憶のキャパシティを遡れば今までの選挙で生徒会長を目指していたのは多くても三人程度だったはずだ。そして、比較的女子率が高い傾向もある。


 ここまで来れば、嫌でも結論は見えてくる。





 ――恐らく、現生徒会の二年生が出てくる!





 当たり前すぎる結論だが、結局はこうだ。


 昨日の時点で杉原さんは生徒会選挙に出ないことは言質を取っているので残りの5人――いや3年は出られないので2年の3人が最有力候補になるだろう。


 あとは、部長とかの陽キャポジ辺りか……。




 翌日 10月4日木曜


 さて、早朝から情報を集め――



「陸、私も生徒会出るからさ、原稿って出した?」


 授業が始まる前、いきなり後ろから女の人の声がかけられた。


 思わず振り返る。そこには、俺がもらった生徒会選挙申し込み用紙と原稿の紙を持った女子生徒が立っていた。




「そう……ですね」




(いやいやいやいやいやいやいや、なんでクラスの陽キャ女子がここにいるんだよ!?)


 思わず普通に返事してしまったが、普段なら絶対に関わるはずのない陽キャ女子『堀田(ほりた) 亜里(あり)』がそこにいた。

 委員長だった経験があり、クラスでもかなりの発言力がある。しかも、彼氏持ちで他クラスにいる彼氏をよくクラスに持ち込んでいる。


 そして、先ほどの発言。まさかこいつ……。


「もしかして、堀田 亜里さんって選挙に出るんですか?」


「そうそう。私は会計で出るんだけど、陸は会長でしょ? 頑張って!」




(危っっっねぇぇぇぇ!!)




 もしこの人が、会長として立候補すると言われたらマジでヤバかった。理由は……まあ色々とあるが、とにかく会長じゃなくて良かった。


「残念だけど、まだ原稿書けてないんですよね。先生からダメ出しされちゃってて……」


「そっか~。期限は来週の火曜までらしいからお互い頑張ろうね」


 どうやらこの辺りで会話は終わりのようだ。だが、ここで選挙に出る人と繋がりが出来たのは大きい。光からは断られてしまったので、実質仲間ポジションだろう(今までに話したことないけど)。





「あっ! そういえば、6組のちーちゃんが会長として出るらしいよ」





 その言葉を聞いた瞬間、思わず勢いよく堀田 亜里さんの顔を見る。



「そ、それってどんな人ですか?」


「え? えっと『篠田(しのだ) 千波(ちなみ)』って人だよ?」


 なんだこいつ、みたいな表情をされたが、正直に答えてくれる。


 まさか、こんなタイミングでこんな情報が貰えるとは――実に好都合。


「すいません。その人について教えてくれませんか?」


 胸ポケットからメモ帳を取り出す。



Q「性別は?」


A「女の子だけど。名前で分からない?」


Q「クラスは?」


A「6組(さっきも言ったけど)」


Q「今までに生徒会の経験は?」


A「現生徒会の会計やってるよ」


Q「もしかして、公約の内容とかって知ってたりします?」


A「ごめんけど、知らない」



 まあ、こんなところか。


 並べられた情報を振り返りつつ、手帳を閉じる。


「すいません。ありがとうございます」


「全然いいよ。じゃ頑張ってね」


 そのまま堀田さんは自席に戻っていく。


(なるほどなるほど。一応、今のところのライバルはその千波って人か)


 大体予想通りの役職の人が出馬してきたな。


 一応、この人以外が会長として立候補してくる可能性もあるが、まずは彼女の対策を十全にするべきだろう。


 そして、そういった場合を想定して、俺には心強い味方がいる。


  

(昨日のうちに、協力を取り付けておいて良かった~。マジで文化祭の時の俺、英断だろ)

 

 俺が会長になるための一番の障害が現生徒会のメンバーになることは最初から分かっていた。だからこそ、ここで現生徒会の杉原さんが輝いてくる。


「あの、すいません。これ、原稿を持ってきたんですけど……」


 二限目が始まる前に杉原さんのところへ行き、既に()()()()()に持っていた原稿を渡す。


「はい。じゃ悪いところはまとめておくから」


「ありがとうございます。ところで――生徒会会計の篠田さんってどんな人か分かりますか? どうやらその人も選挙に出るらしくて」


「えー……、別に普通の人だよ」


「はあ……。なんか、こんな公約をするんだ! みたいな事は知らないですか?」


「知らないし……多分、知ってても教えないと思うよ?」


「そうですか……」



 ……ちッ! 以外とガードが固いな。



「じゃあ、原稿よろしくお願いします」


 そういって、自分の席に戻る。時間を確認しながら。



 ここで話が変わるのだが、実は俺は既に昨日のうちに杉原さんに渡すべき原稿用紙は持っていた。


 しかし、それを敢えて今日まで延ばした。



 なぜか?



 陰キャだから読んでもらうのが恥ずかしかったからだろって?


 ノンノン(それもあるけど……)。


 理由は単純。情報を守るためだ。


 俺の決定的弱点となりうるのは、あの原稿である。もし俺の公約内容がバレてしまえば、その内容を含んだ演説をするだけで簡単に生徒の心を掌握できる。したがって、俺は信頼できる人にしか原稿は見せないことにした。裕もそのうちの一人だ。


 だが、それだけでは限界がくる。


 なので仕方なく、現生徒会の杉原さんにも原稿を見せることにした。


 しかし、今回俺のライバルとなるのは杉原さんと同じ生徒会のメンバーだ。


 ()は刺しておかないといけない。



 授業が始まる一分前。既に先生が到着し、ある程度、教室に静けさがあるこのタイミング。ここで俺は席を立ち杉原さんの席へと近づく。


「あの、すいません。杉原さん」


「なんでしょう?」


「もしかして、杉原さんは生徒会選挙で誰かを応援してたりしませんか? もしそうで、杉原さんの優しさで僕に協力してくれたなら無理しないで下さい」


 教室全体に届くくらいの声量で俺は杉原さんに声をかける。


「あっ、大丈夫だよ。別に誰かを応援とかはしてないから」


「ってことは、誰かから協力してくださいって言われたり、応援してね! みたいには言われてないんですか?」


「うん。村山君だけだね」 


「そうですか。無理してないなら良かったです。あっ、恥ずかしいので原稿は誰にも見せないで下さいね?」


 以上、およそ一分前にも及ばないやり取りを教室中に聞こえるように言い終えた俺は席に戻る。



 なにをしたかったんだと。



 言いたいことは分かります。今のやり取りで、俺は杉原さんの深層心理とクラスの人たちに一つの種を植えた。


 それは、俺の原稿を他人に口外しないことと、俺以外の立候補者に協力させないものだ。


 今のやり取りをした手前、杉原さんは安易に他人に――ましてや同じ生徒会の仲間である篠田 千波さんへ協力行為をするのは難しくなっただろう。


 また、この会話をクラス全員に聞こえるように言うことで、さらなる強制力とクラスの人たちからの監視がつくことになる。もし、俺の預かり知らぬところで他の立候補者と密会でもしていればバレる可能性が高くなる。



 善意で協力してくれる人に対して失礼だろゴミが、だって?



 んなもんクソ食らえである。


 申し訳ないが、昨日今日話した女子に全面の信頼を寄せるほど、俺はポンコツではない。裕のように長い時間を共にしたこともなければ、極端にコミュニティが小さい人でもない。


 もし、裏で篠田さんと繋がっていて、俺の情報が流れでもしたら笑えない冗談になる。


 もしかしたら、ホントに優しくて品行方正な人の可能性もあるが、そんなの俺の知ったこっちゃない。


 利用できる人はとことん利用するが、安全マージンだけは取らせていただきますよ。


これは作者の実話を基にしています。結論から言うと、杉原さんポジの人はホントにいい人でした。今話の思惑は墓場まで持っていかなくては……。

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