3 準備段階から波乱万丈だことで
贖罪の意味も込めて、速攻でスタンプをラリると、俺達は生徒会室へと足を運んだ。
あのあと、裕と陸に協力を頼み、そのまま一緒に行動している。
俺の会話は聞かれており、とても非難されたが、まあ誤差みたいなもんだ。
生徒会室に到着すると、生徒会メンバーらしき人がおり、紙を見せるとすぐに三人分の袋を渡してきた。
もしかしたら、目の前のこの人が生徒会長なのだろうか?
まあしかし、学年も性別も違うので関わり会うことはないでしょう。
景品はボールペン一本だった。
「どう思う? これだけ頑張ってボールペン一本て」
「まあ、俺はちょうど赤ペンほしかったし丁度いいわ。お前色は?」
「水色。よりにもよって一番使いづらいし」
「フハハハハ、バカめ」
もう一人の陸は意地汚く笑う。俺は中指を立て、隣に視線を向ける。
「裕はどうだった」
「オレンジ色だった。勉強に使えるし、アタリだわ」
「え? 交換しよ?」
「するわけないじゃん。自分で買ったほうがいいよ」
まったく、無理やり参加させたのは悪かったがなんでここまでバッサリ断るというのか。
悲し。
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その後、お化け屋敷のシフトで俺が途中で抜けたり、アイスやジュースを買うために購買所に寄ったりと、色々なことを経て文化祭は終了した。
というわけで、俺にとってはここからが一大イベント。
大体の生徒が面倒だと思っている生徒会選挙に向け、やることは大体やりますかね。
来たる選挙の日は10月18日。(木曜)
そして今日は10月1日。(月曜)
さぁて、まずすべきは、立候補届けを出すところだな。
「――選挙管理委員からの連絡です。10月18日の六時間目に生徒会選挙をやります。立候補する人は明日(火曜)からの一週間以内に担当の石田先生から紙をもらって下さい」
選挙管理委員会の人が後ろの黒板に紙を貼る。俺はホームルームが終わったと同時にその紙を見に行く。
(ふむふむ、なるほど。締め切りは来週の水曜日まで。演説時の格好は制服。その他にも色々と注意書きか……)
腕を組ながら俺は紙を凝視する。
そこで、後ろから声がかけられた。
「あれ? 村陸選挙に出るの?」
「あ、マサル。そうそう、暇だから出るわ」
「キショオオォォォ」
相変わらずキショキショと痙攣しながら紙を見るマサル。
「俺、今の生徒会嫌いなんよね。なんか要領悪いし、公約も全然守らないし、無能だし」
おおう……。めっちゃ言うやん。
「村陸は書記か会計で出るの?」
うちの学校は半年に一回、生徒会選挙を行う。その関係で任期は半年だ。
そして立候補の仕方だが、自分の志望する役職で書類を取りに行き、それが被ったら投票となり票を奪い合う。
ちなみに会長1名、副会長1名、書記2名、会計2名の計6人で構成される。
「うん? 俺は生徒会長になるけど?」
「…………え? マジで」
「うん、マジ」
「うわキッショ」
いつもの痙攣ポーズではなく、変なものでも見るかのような顔面を作る。失礼な奴だな。
「え? 村陸生徒会長になるの?」
と、その時さらに後ろからもう一人声がかかる。
「ホントだよタカヤ。まあ、なれるとは思ってないけど」
「なに言ってんすか。そんな弱気になっちゃいけないないっすよ」
タカヤは陽キャと陰キャの狭間のような存在だ。あと、ナチュラルサイコであり、コミュ力が高い。休み時間に陽キャに声をかけられているのをよく目にする。
将来はこういう人間が出世するのかなーと軽く尊敬していたりします。
「まあ、確かに弱気になってちゃ、勝てるもんも勝てないわ。とりあえず、勝てる戦に行くかね」
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明日の早朝
まだ数人しか学校に登校していない時間に、俺は職員室の前に来ていた。
というのも、なんの経歴もない素人である俺が選挙で勝つには様々な準備と時間がいる。そのための第一歩が今日、この日だ。
だから、ここは通過点に過ぎない。
過ぎない……のだが……。
(はあっ……はあっ……。まずはノックを三回して、次にお辞儀と所属クラスの報告。石田先生の場所は、ここからおよそ十メートル前方。ちゃんと声でるか?)
やはり、教師ばかりが集うこの空間には本能的に入りづらいものがある。
だが、ここで怯んでいては生徒会長になどなれない。
(大丈夫、安心しろ~。俺は学校を変えたいと願う純粋無垢で真面目で生徒会長になりたいと思う聖人。だから、躊躇わず堂々と行け!)
「失礼します2年1組の村山 陸です。石田先生に用があってきました」
大きな声で挨拶し、事前に確認した机まで歩みを進める。
「あのすいません、石田先生でしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
石田先生はかなり若い男性教師だった。
「実は生徒会選挙に出たいので、申し込み用紙を取りに来ました」
「はいはい。どうぞこれね」
何事もなくすんなりと紙が手渡される。マジか。
正直、なんか覚悟とかが問われたり声が小さいなり、志望動機を聞かれたりするのかと思ったわ。
「はい、ありがとうござ――」
「じゃあ、一応クラスと名前と希望する役職を教えてくれる。予め把握しておきたいから」
やはり、そうすんなりと返してくれるわけがないか……。(当たり前のこと聞かれてるだけ)
「2年1組、村山 陸です。志望する役職は――生徒会長です」
「はい。生徒会長ね……。生徒会長!?」
すごい勢いでこちらに目を向ける石田先生。
「えっと……、一応聞くけど、今まで生徒会の経験は?」
「ないですね」
「選挙に出たことは」
「ありません」
「いきなり生徒会長?」
「そうですね」
なにか考えているのか、石田先生の手に持つペンが止まる。
「…………やっぱり、いきなり生徒会長は無理じゃない? 書記とか会計でやってみることは?」
「いえ、生徒会長でお願いします」
申し訳ないが、こちとら文化祭前から覚悟が決まっているのだ。
そっとやちょっとじゃ、絶対に変えない。
「はい、分かりました」
どこか諦めたように石田先生は紙にメモを残す。
まあ、どうせ俺じゃ当選できないだろうからいいよね~、みたいな気持ちなのだろう。
別にいいけど。
「ところで、幾つか質問したいことがあるのですけど、よろしいですか?」
「ん? なに?」
Q「まずですね、この立候補演説中の生徒達はどのような体形で並んでいますか?」
A「毎週の全校集会と同じ、学年別に分かれて座ってます」
Q「演説時間は具体的にどれくらいですか?」
A「10分くらいだけど、大体の人は3分くらいで終わらせるね」
Q「演説をする順番は?」
A「今渡した書類と原稿を早く出してきた順です」
Q「この書類には演説の原稿を予め書く欄があるんですけど、これは変えてもいいんですか?」
A「まず、原稿を担任の先生にチェックしてもらってOKが出たら、自分に渡して下さい。内容は所々で変えてもいいですが、大きくは変えないように」
なるほどなるほど。
聞いた内容を予め持ってきたメモ帳に書き記し、胸ポケットへとしまう。
「これで最後なんですけど、もしかしてもう誰か紙を提出した人っていますか?」
「いや、いないですね」
「そうですか、ありがとうございます」
先生にお辞儀をしてそのまま職員室を後にする。
(よし、まずは第一関門突破か)
書類の確保と、当日の流れ、ライバルの確認。
情報という武器を手に入れた。
俺は今までの生徒会選挙はほぼ適当に流していた。
もちろん、当日の流れなんて覚えてすらいないし、誰がどんな演説をしたかなんて、毛ほどの興味もない。
だが、いざ自分でやってみると、中々どうして情報というのが欲しくなる。
いやー、やってみるもんだな~。
多分だが、俺レベルに先生に探りを入れる人はそういないだろう。
先生も少し億劫そうな顔をしていたし、まず大丈夫だ。それに、その情報が流れようが今の俺の方が優位に立っている。
教室に戻ればちらほらと生徒が集まり始めていた。
「あ! 山さん、タカヤ」
その中には、俺の知り合いも何人かいる。
「立候補の紙、もらってきたぜ!」
「え? あの話マジだったの!?」
山さんが驚いた顔で紙に目を向ける。
さてはその表情、信じてなかったな?
「へー、村陸、選挙出るんだ。ネタだと思ってた」
まったく、俺は君たちの将来の上司だぞ。
ここは、気前よく一発言ってやろうか。
「いやいや。次期生徒会長が嘘なんてつくわけないでしょ」
満面の笑みを浮かべ、サムズアップをかましたのだった。