14 フラグ回収は現実でも
――司会に名前を呼ばれ、俺は席を立ち返事をする。そしてステージ中央に設置されている演説台へ向け歩みを進める。
そして、台の前へ到着し大きく一礼。約3秒ほど頭を下げ口を開く。
「皆さんこんにちは。今回、後期生徒会――
(あ……ヤバい)
散々練習してきたお陰か、はたまた予想だにしないハプニングのせいか、少しスローモーションの世界に入りながら、俺は思考を始めた。いや、始めざるをえなくなった。
散々、直前の練習はしてきた。礼のタイミングも視線の誘導の仕方も。
――だが、ただ1つだけ、家でやれなかった練習があったと、その時俺は気付いた。
全校生徒の目線が怖い?
ノンノン。そんなありきたりなハプニングではない。では何が問題だというのか。
それは―――
(マイクのスイッチ押すの忘れたぁぁぁぁああァァァ!!!)
背中にいやな汗が流れるのを感じる。
俺のシチュエーションに『マイクのスイッチを押す』というのをまったく入れていなかったのを今さらながらに気付くとは――最悪だ。
トップバッターにはこういうデメリットがあるのだとどうでもいいことを考える。
(落ち着け、とにかく考えろ。まだ始まって数秒程度。自己紹介の段階だ)
勝手に動く口をありがたく思いつつ、俺は2つの選択肢を天秤にかける。
即ち、今からマイクを起動し最初から始めるか、このままマイクを無しでいくか。
まず、前者。恐らくこれが一番ベターな考えだろう。途中で謝りつつ最初からやれば、皆さん笑って許してくれるはず。多分。
だが、その場合。
生徒1(あれ? あの人マイク起動してからもう一回やるのか。勘弁してくれよ、話長くなるのはよ)
生徒2(初めてで緊張してるのかな? 流石に生徒会長になる人がマイクのスイッチを押し忘れるのは、ちょっとなー)
生徒3(もう一回やり直すとか、恥ずかしくねぇの? 俺は投票しないぜ)
絶対にダメだ。少なくとも俺なら、マイクのスイッチを押し忘れた人に投票などしない。
それにこの作戦にはもう一つ、致命的な弱点がある。
――なんと俺は、マイクのスイッチがどこにあるのか分からないのだ。
ならばもう、やるべきことは1つしかないだろう。
このままマイク無しでいく。
幸い、声の大きさには自信がある。
あとは、あたかも『俺は最初からマイク無しでやる予定だったんだよね~』という態度を取る! 全力で!
もうすぐで自己紹介パートが終わる。
これしかネぇぇぇえええエ!!!
――生徒会長に立候補した村山 陸です」
(この間6秒)
よし、そこまで騒ぎにはなっていない(少しは騒ぎになってる)。このままやり通す。
「私が生徒会長になったらテスト中の教科書の置き勉を許可出きるようにします。
最近行われた中間テストで、使わない保健体育や家庭科の教科書を皆さん持ち帰ったと思います。
無駄だと思いました。
確かに勉強を促すために教科書を持ち帰るのは効果的です。しかし、テストで使わない教科の教科書を持ち帰るのは意味がありません。
なので、私が生徒会長になったら使わないテスト教科は置きっぱなしに出きるようにします。
次に部活動のマネージャーです。
『力のある男子マネージャーが欲しい』、『同性で気兼ねなく話せるサポーターが欲しい』、『将来はスポーツトレーナーになってアスリートを支えたいから今のうちに経験しておきたい』等と思っている方はいるんじゃないでしょうか?
なので、私が生徒会長になったら僕自身がマネージャーになり、男子もマネージャーになりやすい風潮を作ります。
他にも卒業していく先輩方とのレクリエーションを企画したり学年の垣根を越えたイベントもやりたいと思っています。
ご清聴ありがとうございました」
最後に大きく一礼をし、前をみる。
そして、大きな拍手が沸き起こった。
まるで全員が俺に対して打ってるような(実際そう)大きな音で、思わず笑みが溢れてくる。
しかし、最後まで気を抜かずに自席へと戻る。
極論を言ってしまえば、席で待機しているときに居眠りでもしようものなら、生徒会長になどなれない。だから、皆が投票を完了するまで隙は見せない。
「次に篠田 千波さん。よろしくお願いします」
「はい」
(さて、この人の演説の善し悪しで俺の勝敗が変わる)
篠田さんは深々と礼をすると、しっかりとマイクのスイッチを入れて口を開く。
「皆さんこんにちは。生徒会長に立候補した篠田 千波です。
私は前期生徒会会計として、この学校に貢献してきました。
そこで、私が学んだのは笑顔が大切だということです。
私は1、2、3年生がなんの……えっと……
なんのしがらみもなくお互いに手を取り合えるような学校にしていきたいと思っていま……す。
だから、皆が仲良くなれるように常に笑顔を欠かさず、笑い溢れる学校にしていきたいと思います。
こんなに頼りない私かもしれませんが、学校を変えたいと思う気持ちは人一倍です。
どうか私に清き一票をよろしくお願いします」
マイクをオフにして篠田さんは頭を下げる。
そして拍手が巻き起こる。途中噛んでしまったり、セリフが飛んだところもあったが、本人的には大満足なのか、悠々とした足取りで自席に戻る。
この後、副会長や書記の立候補者の演説が終わり、司会の人が解散を促す(この辺は興味なかったので内容は覚えていない)
「――これで、後期生徒会選挙を終了とします。生徒の皆さんは選挙管理委員の指示に従って投票を完了してください」
投票用紙の記入は教室で行われるので、生徒達は体育館シューズを履き替え教室へと向かう。
俺も、出口は違うが教室へと歩みを進める。
その途中、偶然にもクラスメイトの1人に会った。松田 太郎。学年1の成績を持つ人だ。
「あっタロウ君」
「あっ、陸」
別に普段からよく話す関係ではないが、俺を見て歩みを止めてくれる。
「演説、めっちゃ良かったよ」
タロウは、至極真面目な顔で俺の演説を称賛してくれる。
その時、なぜか胸がスッと軽くなった気がした。
正直、マイクなしでやったので、知らないうちになにかしら不安を持っていたのだろう。
それを、こうして直に言葉にして良かったと言ってくれると、自分の心が軽くなる。
「――ありがとう!」




