13 へぇ――良い度胸じゃん
職員室前の流れ確認が終わり、俺はクラスへと戻る。
教室の皆は昼飯を食っていた。
俺も自分の弁当を取り出すが、あまりにも食欲が湧かない。それどころか吐きそうだ。
「え? 村陸大丈夫?」
「……いやなに、これからの俺の覇業を思うと武者震いがさ。まったく強者は辛いね。篠田にも気を遣わないといけないんだから」
そう。ここで弱気な態度を見せてはいけない。このクラスが俺の一番の投票源だから。
ここで、高校の生徒会選挙の特性について軽く説明する。
まず、選挙の時に誰に投票するかという問題だが、大多数の人は知らない人へ投票することになる。だから、選挙時の公約や実績で判断するわけだ。だが、それ以外にも判断材料がある。
それが、クラスメイトが立候補していた場合。
簡単な話、自分のクラスメイトが選挙に出ていたら投票したくなる。つまり、このクラスの人たちこそが俺の一番の投票源なわけだ(堀田さんが立候補したときにビビってたのはそういう理由)。
そんな人たちの目に、俺の弱気な姿を見せたらどうなるか。
俺なら絶対に投票したくない。
だから、ここは嘘でもブラフでも自信に溢れた態度を取るしかない。いや取り続けることが重要なのだ。
5限目
英語の授業中、俺は先生の言ったことなどそっちのけで、ひたすら小声で原稿を読んでは復唱していた。
そして、なぜか徘徊する先生が近くにきたら、咄嗟に教科書で隠して――というムーヴを繰り返し直前まで備える。
近くの席に座る女子から変人を見る目を向けられるが、別に今さらだ。
(俺は、生徒会長になると宣言した日からずっと、変な目で見られてるからな!!)
そんなわけで授業が終わり、皆が体育館へと移動する準備に入る。俺は最後の最後まで身だしなみを確認する。
「ねえ、マサル。寝癖とかついてない? 服のしわとか、ボタンの掛け違いとか」
「ないない。村陸、頑張ってね」
そして、体育館へと到着する。
ここで、クラスの皆とはお別れだ。
皆は演説を聞くためにクラスの列へと行き、俺は体育館横の――立候補者が集まるところへと行く。
見れば、皆が集結していた。堀田さんや篠田さんも既にいる。
ちゃんと原稿を読んだり、身だしなみを確認したりと良い緊張感だ。
(さて、俺も最後まで原稿を読み込ん――)
「ちゃんと原稿持ってきてるんだね?」
しかし、そこで隣から声がかけられた。
目を向ける。
そこには忘れるはずのない顔、俺のライバル篠田 千波がいた。
だが、実に引っ掛かる言い方だ。
「……持ってきてる? そっちは持ってきてないの?」
「うん。だって必要ないし」
屈託のない笑顔をこちらに向けてくる。
(あっ……へぇー)
「お互い頑張ろうね」
なにか緊張してる感も気負ってる感じもなく、ただ、普通にエールを送ってくる。
一応言っておくが、昼休み中の流れ確認の段階で俺の顔は知ってる筈である。
それを知ってて、この態度。そして、演説直前に自分から話し掛けつつ、原稿は持ってきてないアピール。
――良い度胸だな。
この時、俺は一つ決めた。
この女をただ普通に負かすのは実につまらないと。
俺が勝つのは当然だが、俺の神経を逆撫でしたことは後悔させてやろうと。
「ははっ、すごい自信だね。めっちゃ余裕じゃん」
だから、あえて俺は笑顔を向けることにした。
(おめでとう、篠田 千波。今からお前は、ライバルから敵にジョブチェンジだ)
「――では、これより生徒会選挙を始めます。立候補者の方はステージ上に上がって下さい」
例の3年生の司会が選挙を始める。それにあわせて、俺を先頭に計7人がステージの上へと歩き、用意してある椅子へと歩みを進める。
そして、全員が着席を完了した。
「これより、後期生徒会選挙、立候補者演説を始めます。まず、生徒会長立候補者、村山 陸さん。お願いします」
「――はい!!!」




