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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の心の色

作者: まふゆ

 ———————————————————————————

 私には感情がない。

 そんな私の心は雪のように冷たく白い。

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 『1』


 道徳の授業はとてもつまらない。

 教科書にある物語を読むまでは良いがその後は意見を発表し合うだけの地獄の時間が始まる。喜怒哀楽を感じない私は登場人物の気持ちなんて分かる訳もなくいつも暇していた。

 ボーっとしていると周りが騒しくなり始めた。授業が終わったようだ。今のが最後の授業なのでみんな帰宅の準備をしている。少しも笑わず質素な返ししかしない私は中学校でも友達は1人もできず遊ぶ約束や、雑談を楽しんでいる人たちを横目にすぐ帰った。

 

 一人で廊下を歩き玄関に着く、靴を履き替え玄関の扉を開けるとモアっとした空気が私を包み、薄い水の膜に覆われたような感覚が襲った。ギンギンに光る太陽が私の皮膚を焼いた。

 学校の階段を降りようとした時誰かに肩を叩かれた。驚いて振り向くと同級生の陽奈がいた。

 学級委員だったのでよく覚えている。小柄で笑顔が絶えない少女だ。学級委員を決める時だれもやりたがらず半ば押し付けるような形になってしまったが、陽奈は笑顔で引き受けくれていた。

「ねえ、小雪さん」

 陽奈は夏の青空のような笑顔で話しかけてきた。人に話しかけられたのはいつぶりだろうか。

「なに?」

 無機質な声で私が返すと少し怯えたように半歩下がった後、また笑顔に戻り。

「今日一緒に帰らない?」

 弾んだ声で陽奈言った。

 なんでこんな私と一緒に帰りたいのか訳が分からない。それに冷やかしかもしれない。私は無視して帰路についた。

 そうすると陽奈は少しその場で停止した後、私の後ろに着いてきた。無言=承諾とでも思っているのだろうか。私は気にせず街頭樹の陰に隠れながら進んだ。


 長すぎる通学路にうんざりしていると陽奈が声を上げた。

「あたしね、少し前までは違う人と帰ってたんだ」

 私が返答に困ってい陽奈は影のある表情で続けた。

「凄く仲良くて毎日一緒に帰ってたんだけど、ちょっとしたことで喧嘩しちゃって……これその子と一緒に作ったんだよ」

 カバンには『愛莉』と相手の名前が書かれたキーホルダーを着けていた。かなり前に作ったのか所々色落ちしている。

 少し気まずい空気が流れた後、先ほどのどんよりとした空気が嘘かのように「小雪さんは友達いないの?」と明るい声で尋ねてきた。

「居ないよ、できたことも無い」

 私が相変わらず無機質な声で返した。

 「じゃあ私が初めての友達だね」

 そう陽奈は満遍の笑みでこちらに振り向きながら言った。

 予想外の言葉に驚き、その場に止まってしまった。不意をつかれた気分だ。

「えっ、あ……」

「あたし、家こっちなんだ。また明日ね」

 私が狼狽えていると陽奈はを大きく振り、そのままその方向にかけて行った。

 頭の中で何度も陽奈の言葉が再生される。そして真っ白だった私の心に一滴の黄色い絵の具が落ちた。

 私はしばらくして再び歩き出した。不思議とその足取りは軽かった。


 『2』


 あたしの人生最大の後悔は唯一の親友愛莉と些細なことで喧嘩してしまったこと。

 愛莉以外に友達と言える人が居なかったあたし愛莉に嫌われないようにいつも気を遣っていた。それで少しずつ溜まった不満が爆発してしまい喧嘩になってしまった。

 これで気を遣わなくて済むという解放感はあった。でも愛莉以外に友達が居なかったあたしは1人ぼっちになってしまった。1人で帰る事がこんなにも寂しいとは思いもしなかった。


 寂しくて仕方がなかったあたしは小雪と帰る事にした。無口で常に話しかけにくいオーラを放っていたが、高い背と整った顔立ちに惹かれた。

 一緒に帰らないかと聞くと無視されてしまったが、『無言の承諾』という言葉をあたしは知っていたので、気にせずついて行った。

「小雪さんは友達いないの?」と聞くと、「できた事もない」と答えたのであたしは「じゃああたしが初めての友達だね」と返した。

 言ってみるとすごく恥ずかしくて、「また明日」とだけ言いあたしはすぐに別れ走り去ってしまった。

 

 家に帰るとすぐに部屋に入ると私は椅子に座った。静かな場所で気持ちの整理がしたかった。

 愛莉と話さなくなり、寂しくなった時には愛莉のことばかり考えていた。でも今のあたしには一緒に帰る人がいる。

 少し考えた後、椅子から立ち上がり両手を大きく広げ大きな深呼吸をし、気持ちを切り替えた。

 そしてカバンに取り付けてあったキーホルダーを捨てるようとしたが流石にできなかった。まだ少し迷いがあるようだ。

 どうしようか迷った後あたしはキーホルダーを押し入れの奥に閉まった。もう関わることの無いであろう友へ別れを告げるように。


 『3』


 夏本番が始まり暑さもより一層増してきた頃、私は相変わらずつまらなさそうに授業を受けていた。

 あの日から私は毎日のように陽奈と一緒に帰っていた。クラスが別な事もあり私たちが関わるのは短い帰り道だけとなっていた。

 最後の授業が終わり私はソワソワしながら教室の椅子に座っていた。そろそろ陽奈が誘いに来るはずだ。

「…………」

 来ない。いつもだったら下校の時間になった途端、隣の教室からかけて来て、「一緒に帰ろ」と言ってくれるはずなのに。

 不安になった私は教室でた。

 すると廊下で陽奈と愛莉が話していた。私は咄嗟に扉の影に隠れた。

 内容を盗み聞きすると、どうやら愛莉が「一緒に帰らないか」と誘っているようだった。もし陽奈が了承した場合、私はもう陽奈と一緒に帰れなくなるんのではないか。私の不安は増すばかりだった。

 このまま盗み聞きを続けるのも悪いと思い私は2人とすれ違わないように、反対の扉から教室を出た。

 不安を残しつつ、しばらく歩くと騒がしい足音が聞こえてきた。陽奈だ。

「先行ってたの?一緒に行こ」

 と私の隣にダイブしながら言った。不安が一瞬で吹き飛んだ。が疑問もあったので聞いてみる事にした。

「愛莉とは帰らなく良かったの?」

 私は問う。すると。

 「うん、大丈夫。ちょっと迷ったけど小雪と帰りたかったから!」

 夏の青空のような笑顔で言った。

「そっか」

 私はいつも通り返したが顔は真っ赤に染まっていた。私は恥ずかしくなり顔を下に向けた。

 前は自分の気持ちがわからなかったが今ははっきりと分かる。

『私を選んでくれて嬉しい』

『笑顔で話してくれて嬉しい』

『一緒に入れて楽しい』

 私の心はいつの間に黄色の絵の具で満たされていた。帰り道がこんなに楽しいならつまらない授業を受けるのも悪く無いかもと思った。

 私たちは雑談などをしながら帰った。沢山一緒に居られるように私達はゆっくり歩いて帰ったがあっという間に別れる所まで来てしまった。

「また明日ね!」「うん、またね」

 と言い、手を振ってお互い帰路についた。


 陽奈と別れて家に帰る途中、愛莉が後ろから早足で近づいてきたと思ったらそのまま通り過ぎて言った。今まで気づかなかったが家が近いらしい。

 下を向いていたので顔は見えなかったが後ろ姿を見て悲しみを感じた。陽奈とのお揃いのキーホルダーがまだバックについていたからだ。


 『4』


 もう昼時だと言うのに私は自室のベットの上に居た。

 夏休みが始まって10日経つが毎日こんな感んじだ。何もする気にもなれず(勉強しろよ)ダラダラと過ごしていた。

 陽奈とは不仲になったわけではないが、携帯を持っていない私は連絡手段が無く終業式以来会えていない。


 だらけているとリビングから。

「小雪ー、ポスト確認してくれる?」

 という母の声が聞こえた。

 最近私が笑うようになったので母は凄く喜んでいた。私を育てるのにはとても苦労しただろう。

 

 母への感謝を感じつつ私は重い体を動かし、家を出てポストの中を確認した。数枚あり、その中には『小雪へ』と書かれた手紙があった。

 おそらく陽奈からだ。胸を高鳴らせながら家に入り中身を開けた。手紙には今日の『2時から公園で会いたい』と書いてあった。私は久しぶりに陽菜と会えるのが嬉しかった。

 時計を確認すると一時半を過ぎていたので私は急いで支度をし公園に向かった。

 公園に着き時計を確認すると針はちょうど2時を指していた。なんとか間に合った。陽菜はまだ来ていないようだ。

 急いで走ってきて疲れたのでベンチに座って休んだ。この公園は周りが木々で囲まれているので日陰が多く、休むには最適だ。しかしその木が太陽の光を遮り少し薄暗く不気味なのであまり人気がない。

 少し待つと陽奈が歩いているのが見えた。手を振ると気付きこちらに向かって走ってきた。

「久しぶり!こんな偶然あるんだね」

 相変わらずの夏の青空のような笑顔で言った。

「陽奈が手紙で呼んだんじゃないの?」

 私は疑問をぶつけた。

「?私手紙なんか出してないけど」

 陽奈は不思議そうに首を傾げた。

 おかしい。嫌な予感がする。私は直感でここを離れた方がいいと思った。

 それを陽奈に伝えようとした時、入り口の方から人の気配を感じた。振向くと愛莉が立っていた。こちらを見つめている。

 少し気まずくて目をそらそうとしたその時、愛莉がカバンから大きな包丁を取り出しこちらに向かって突進してきた。急な出来事に私は動けずにいた。愛莉はどんどん近づいてくる。目の前まで来た所で怖くなり私は目を閉じた。

 

 グサっと包丁が体に刺さる音が聞こえ、ドロっとした液体が私にかかった。恐る恐る目を開けると私の目の前に血まみれの陽奈が倒れていた。首に包丁が突き刺さっている。

「え……なんで」

 状況が飲み込めずにいたが、陽奈が私を庇って刺されたと分かるのにそれほど時間は掛からなかった。私の心は青い絵の具で染まり涙が頬を伝い垂れ落ちていた。

「そんな……やだよ、もっと一緒に「゛ア―――――― なんで陽奈が」

 私の震えた声は愛莉の叫び声によって打ち消された。この世のものとは思えない声を私に向けた。

「あんたを殺すつもりだったのに!私から陽奈を奪いやがって!あんたさえ居なくなれば陽奈が私の所に戻って来るのに!」

 それを聞いた途端、涙が止まり腹のそこから何かが込み上げてきた。

 さっきまで青く染まっていた心が嘘かのように一瞬で赤く染まった。深くどす黒い赤に……。


 それからのことはあまり覚えてない。ただ、もう誰の血か分からないほど大量についた返り血と救急車のサイレンの音が頭にこびり付いて離れなかった。

 それにしても今日は朝から外が騒がしい。当たり前だ。同じ学校の生徒が二人亡くなったのだから。


 『エピローグ』


 私には感情が無い。

 そんな私の心は雪のように……いやもう違う。私の心は鮮やかでいろんな色に溢れている。


 あれから私は施設に行った。帰れるようになるにはかなり時間がかかりそうなので親にはまた苦労させてしまう。

 時計を見ると午後四時を回っていた。そろそろ行かないと。これからカウンセリングの時間だ。

 私は立ち上がり長い廊下を歩いた。途中窓から空を見ると綺麗な夏の青空が広がっていた。私はその空に向かってまだぎこちない満面の笑顔を返した。


 最後まで見ていただいてありがとうございます!

 小説を書くのは初めてのことなので色々至らぬところがあると思いますが精一杯執筆したのでコメントやアドバイスで感想を書いていただけると幸いです。


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