あがり症過ぎて、脳内会話が饒舌過ぎるオタククラスメイトちゃん
突然だが、僕は超能力者だ。
しかし、物を動かしたり、瞬間移動をするなんてことはできない。僕にできることと言えば、相手の心の声を聞いたり、思念を感じたりすること。
だから、子供の頃からさまざまな心の声や思念を感じて生きてきた。
いつもニコニコとしているサラリーマンからは、横暴な上司や態度が大きい後輩への愚痴が止めどなく聞こえたり。
いかにもラブラブなカップルの彼女の方からは、彼氏が中々エッチなことをしてくれないから欲求不満で桃色の思念が飛んで来たり。
とにかく普通じゃない。
だから、僕は自然と口数が少なくなり、ポーカーフェイスも自然と会得していた。
ちなみに、僕の能力を応用すれば色々とできたりする。
相手の行動なんかを先読みしたり、不意打ちを受ける時も僕へ向けられる思念を感じて回避することだって。
僕は昔から異質な存在だったため、虐められることが多かった。
けど、その度に返り討ちにしてきた。
まあただこちらからは攻撃はしなかった。普通に相手の攻撃を避けたり、誘導させて自滅させたり。
ゆらゆらと無表情で動くからゾンビなんて言われたこともあったかな。
ともかく、僕の人生は輝かしいものではなかった。
そんな僕、無藤新は今や高校生。特に将来の夢もないので、無難に自宅から近い高校を選び、今も普通に通っている。
が、普通じゃないのがひとつ。
(それでですね! 先日放送された魔法少女革命エムルの二期第一話なんですが! これがもう一話から作画崩壊していまして! あ、崩壊と言っても逆作画崩壊。つまり映画レベルと言っても過言ではないほどのスーパー作画だったんです! 日常パートだけでも凄かったのに、終盤の戦闘シーン! もう映画か!? ってほどにめちゃくちゃテンションが上がりまして! 深夜だったのにうおおお!! って叫んじゃいましたよ! しかもその時の)
現在、授業と授業の間の休憩時間なのだが。
僕の脳内には、テンションがおかしい少女の声が響いている。
声の主は、廊下側の席で一人にやにやとしている黒髪の少女。小柄で、子供っぽい感じだが意外と胸はある。というか大きい方だろう。
周囲が生徒同士で話し合っている中、自分の席から動かずにいる。ちなみに、僕の席は彼女から結構離れている窓側の席。
(やはりPVの時点で神!! と絶賛されていましたからね。個人の感想としては、初動はぐっ!! 後は、そのまま作画が崩壊しないことを願うばかりです。一期から監督は変わっていませんし、話のほうは大丈夫だと思うんですが。原作漫画から考えて二期からは一期以上に百合要素と戦闘要素が多くなりますからね。はー! 早くあのシーンをアニメで観たいです!!)
彼女の名は、大咲輝子。名前と違って、暗いというか他人と話すのが苦手で、話そうとすると視線がめちゃくちゃ泳いだり、声が上ずってしまう。
彼女自身も、そんな性格をどうにかしたいと思っているようなのだが、なかなかうまくいかず。
誰かとオタクトークをするためにと長年脳内で会話の練習をしていた。
そのせいか。
口より脳内の方が饒舌になっている。とあるきっかけで、彼女は僕が脳内で会話ができることを知ってしまい、こうして脳内で会話をしつつあがり症をどうにかしようと協力をしているのだ。
(ちなみに二期で追加された声優さんなんですが、無藤くんはどう思いますか!)
(……まあいいんじゃないか)
(ですよね! 特に主人公の新たなライバルの声優さんは、今イチオシの新人声優さんなんですが。彼女を知ったのは、アプリゲームなんですが)
こうやって相打ちを打っていても彼女は喜んでいる。
まあ、リアルで会話をするとなると。
「で、ですから……せ、せい、ゆうがですね……」
こうなってしまう。声が極端に小さくなり、視線をあっちこっちに泳がせ、最後には俯いて沈黙してしまう。
そうなったら決まって、爆発したかのように後々に脳内会話で僕へともの凄い勢いで念を送ってくる。
ちなみに脳内会話は、俺が許可しないと何か念を送ってきている程度にしかならない。
僕が念を送っているのに反応しないとしゅん……とあからさまに落ち込むので、僕は仕方なく脳内会話をできるようにするわけだ。
あーあ、僕はそこまでお節介じゃないって思っていたんだけど。
「ねえ、大咲さん」
「ひょっ!?」
授業がそろそろ始まろうとしていた頃。
クラスメイトの女子生徒が大咲に話しかけた。ずっと僕へ念を送っていた大咲は、突然リアルで話しかけられ妙な声を上げる。
それに対して、話しかけた女子生徒も周囲に居た生徒達もぽかーんっとする。
「えっと、これ大咲さんのだよね?」
そう言って何かを手渡していた。
どうやら消しゴムのようだ。
「あ、ひ、ああ、えっと」
お礼を言おうとしているのだろう。
ちなみに現在の脳内はこうなっている。
(ありがとうございます!!!)
いや、それ伝わってないだろ。
「ここに置いておくね」
結局リアルでお礼を言えず消しゴムを拾ってくれた女子生徒は自分の席に戻っていく。その後、先生も来て授業が始まった。
(おい)
(は、はい!?)
(もっと頑張れよ)
(うぅ……善処、します)
こんな関係も一か月以上続いている。
大咲との関係は高校から。
どうやら今の自分を変えたいと県外から来たらしく、通っている間は叔母さん夫婦のところにお世話になっている。
ちなみにその叔母さん夫婦の家というのが……僕が住んでいる家の隣だったりする。
(いつまでも僕が一緒に居ると思うなよ)
(は、はい……)
明らかに落ち込んでいる。
そんな大咲を見た僕は。
(まあ、お前のおかげでアニメに詳しくなってきたし。今の関係もそこまで嫌じゃない)
(ほ、本当ですか?)
(ああ。本当だ)
実際、ただただ特にやることもなく毎日を過ごしていた僕だったが、大咲と今の関係になってからは、それなりに楽しく毎日を過ごしている。
(……それで?)
(へ?)
(さっきの。お前のイチオシの新人声優についてだよ)
授業中にも拘らず、僕は先ほどの続きを話せと言う。
すると大咲は嬉しそうにまた饒舌に脳内で会話を続けた。
(―――それでです! そのアプリで彼女は声優としてデビューしたんですが。その後の別アプリでこのキャラが彼女!? って驚くほど違う声音で出ていたんです!!)
(へえ、凄いな。オタクのお前でも聞き分けられなかったなんて)
(それほど声優さんは凄いということです!! そうだ! 私の家にボイスドラマのCDがあるんですが、聞きに来ませんか?)
(なんだ。自宅デートの誘いか?)
思わぬ誘いに、僕は少し意地悪な返しをした。
(でででデート!? あ、ちが、そんなつもりは……!)
僕の言葉に動揺した大咲は恥ずかしくなり体を大きく動かしてしまい、ガタガタと机を揺らす。
「どうした? 大咲。急に」
「あ、う……」
教師もクラスメイト達も、いつも大人しい大咲が騒ぎ出したのでどうしたんだと視線を向ける。
「……」
が、大咲は首を横に振るだけ。
その反応でなんでもないと理解した皆は、再び前を向く。
(うぅ……)
(悪かった。少し意地悪をしようと思ったんだが、まさかそこまで動揺されるなんて)
(だ、だってぇ……そ、そもそも私のような地味で暗くてちびでオタクな女が、無藤くんのようなかっこいい人とデートをするだなんて)
大咲に言われ、僕は首を傾げる。
別に自分がかっこいいだなんて思ったことがない。目つきは悪いし、周囲からは避けられてるし。
(……ま、悪い気はしないな)
(無藤くん?)
(それじゃ、学校が終わったらお前の家にお邪魔するぞ)
(へ? な、なんで?)
(自分から誘っておいてそれはないんじゃないか?)
(ででででも! 無藤くんにも予定とか)
(そんなものないって。知ってるだろ? いつもお前と一緒に登下校してるんだから。僕が暇人だってことは)
そういうとしばらく無言の時が続き。
(じゃ、じゃあその……が、学校が終わったら)
(ああ。それまでもう少し詳しく教えてくれ。その新人声優のことを)
(は、はい! じゃあ、次は初めて少年役に挑戦した時のエピソードなんですが!)
これは今の僕の日常。
放っておけば、消えてしまうんじゃないかと思うほど危うい少女との……少し変な。