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三洲華大学クトゥルフ神話探偵部  作者: 向陽日向
第三章 地上の太陽と原初の魔王
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主に誓って

 キャンパス南に建つ研究棟Bは今日も心地よいくらい静まり返っている。

 三階の物置と化した部屋で華奢な体を震わせた男子学生は、ポツポツと話し出す。

「――――とのことです」


「ほう。よくやった。これは褒美だ」

 私は懐から黄色い装丁の本を取り出す。みるみる内に学生の目が光り輝いていく。

「本当にいいのですか?」

「ハスターも君のような優秀な学生の来訪を心待ちにしているだろう」

「あ、ありがとうございますっ……」


 《沈む谷》を胸に抱え、学生は立ち去った。異分子が消え、元通りの静寂が立ち込める。埃だらけのブラインドの隙間から夕日が差し込み、床にこびりついた汚れを鮮明に照らしている。

 ゼミナール中の研究室に戻る前に、懐からスマホを取り出す。


「もしもし――私だ」

 クトゥグァを乗せた飛行機はもう間もなくN空港に到着する筈だ。仕留めた気でいる奴はどんな顔をするだろうか。

『はい。忍川です』

 私は奴の不手際を説明した。


『――なっ!? まさか、そんな……』

 驚愕を浮かべる奴の顔が浮かぶようであった。昔からこの男は想定外の事態が起こるとひどく取り乱すのだ。今頃自らの炎で身を焦がしているだろう。

『確かにこの手で……ニャルラトテップもろとも……』

 そして、つまらぬ御託を並べよる。


「それを確認したのか?」

『いえ……燃え尽きたものだと』

「それは確かか? ハスターに誓ってそう宣言できるか?」

 言い訳が尽きると沈黙する性質も健在らしい。


「奴らは再び【夢の国(ドリームランド)】に姿を現すだろう。任せてよいな?」

『……お、仰せのままに』

 飛行機が奴の憤怒で墜落しないことを祈るばかりだ。


 それにしても、報告を聞いた限りでは学生連中に逃げ場はなかったはずである。

 ニャルラトテップとの間で取引があったのだろうか……いや、現に奴は死んでいる。自らの主にさえ嘲笑する奴のこと、ヒトの子を逃がし自らは死を受け入れるなど、全宇宙がひっくり返ってもそんな真似しないであろう。


 蛇人間か……? 奴の介入を防ぐためにわざわざ実習時を狙ったのだが、何か秘策を受け取っていたのだろうか。こうなればいっそのこと私が直接――。


 いや、今はいい。どうせ魔術越しのコンタクトしかできない。

 そんなことより、クトゥルフよりも先にハスターを復活させるという責務がある。


 R県のどこに身を潜めているか知らないが、本土の土を踏ませる前に息の根を止めればいいだけのこと。多くの者がカルコサに集結している。星辰正しきときは近いのだ。

 全ては我が主、【名状しがたきもの】ハスター復活のために。

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