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三洲華大学クトゥルフ神話探偵部  作者: 向陽日向
第三章 地上の太陽と原初の魔王
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秘伝のレシピ

『みんな無事かしら? 今さっき夏美ちゃんから事情は聞いたわ。本当にあなたたちはカルコサに縁があるようね』


夢の国(ドリームランド)】から帰還してから気が気でない時間を過ごしていた時、祈るように手で抱えていたスマホが突然震えた。震える指で応答し、広野先生の声がまるで聖女の囁きとなって内に流れ込んできて、張り詰めていた緊張の糸がほぐれるのを感じた。

 二人とガッツポーズを交わす。フェリスはうまくやってくれたようだ。


『ひかるん! ちゃんと食べてる? 心配したんだからぁ!』

 生憎、カルコサ産の食物にはまだ手をつけていない。長期戦ともなるとそれもやむを得ないことになりそうだ。特産品がありそうもないので腹の虫を無理やり黙らせる。


 青地さんと連絡が取れないことを月山さんも悔いていたので、ホッとした笑みを浮かべている。

 二人の談笑が一段落したのを見計らって、前内が切り出す。

『で、早速なんですがここから出る方法はありますか?』

『単刀直入に言うとね――』しばしの沈黙。『ないわ』


 遠慮なしに突き付けられた宣告に冷や汗がドッと吹き出す。しかし広野先生は慈悲深い声音で『このままではね』と続ける。

『蜂蜜酒もなし。星間空間を移動できるビヤーキーもなし。お手上げね。はっきり言って生きているだけでも儲けものよ』

 ただし、と広野先生。


『蜂蜜酒をつくり、ビヤーキー、あるいは他の星間移動が可能な生物を使えば望みは見えてくる』

 蜂蜜酒をつくる。前内が言っていたが製法がわからないと棄却された提案だ。

「秘伝のレシピを是非ご教授願いたいですね」

 前内は深く頷き、さらに前のめりになる。

「蜂蜜づくりでも何でもする所存ですっ!」


 違うスイッチが入ったらしい月山さんに『飲み過ぎないでね』と釘を差す青地さん。

『光生君なら【セラエノ断章】を知っているのではなくて?』

 そのワードに軽く頷き、先回りして答える。


「そこに蜂蜜酒の製造方法が記載されていることも勿論、知っています」

『さすがクトゥルフ探偵さんね。それならもう答えは出ているじゃない』

「しかし具体的な製法については残念ながら」

 細かいことは知らないが、前内が頭を捻るのだからそうなのだろう。


『まあ無理もないわね。確かに詳しいレシピは失われて久しいわ。でもね、一族の間で伝わっている秘伝のレシピがあるの。丸雄君に渡したものは、それを参考にして昔拵えたものなの。特殊な力を内包している故、地球の素材で作れるような代物じゃないわ』

 素材の在り処を問うと――なんと【夢の国(ドリームランド)】だという。


「それなら大丈夫です。先程まで訪問していましたから、少し時間を置けばまた訪問できそうです」

 月山さんは自信満々に頷いたが、前内はやや不安げに俯いた。

『良い夢になることを祈っているわ』


 その後、広野先生は一族相伝のレシピを教えてくれた。

 どの素材もファンタジー小説に出てくるような名前だった。これらは無理やり日本語に訳されたもので、正式名称を知るのは一族の長を中心とした長老会のメンバーに限るという。


「フェリスなら何か知っているかもな」

 またもやフェリス頼みの案件だ。高級缶詰めセットと引き換えに頑張ってもらおう。

 そのときだった。


『――きゃあっ! 誰っ!?』

 突然、スマホから青地さんの叫び声が聞こえたのだ。

「なつみん!?」

 スマホ越しから誰かが身動きを取るようなノイズ音がした後、『まずいわね』と広野先生は言って、小さく舌打ちをした。

『何者かに盗み聞きされたみたい』


「まさか――」と前内。「ハスター陣営の者ですか?」

『可能性は高いわね』

『ゴメンね前内さん。後ろ姿は見えたけど顔までは……。男の子だと思うけど』


 電話越しに手を合わせる青地さんの姿が脳裏に浮かぶ。

 仮にハスター側の人間だとして、俺たちが生きていることがバレたらどんな手を打ってくるかわからない。俺たちは今、奴らのテリトリーで息を潜めているのだから。


「二人とも、くれぐれも気を付けて!」

 無責任な言葉だと重々承知している。しかし今、これ以上言えることがない。

『ええ。夏美ちゃんのことは任せて』と広野先生。『今度ゆっくり冒険譚を聞かせてもらうわね。あっ、それはそうと――』


 通話が切れる間際、耳を疑うことを口にした。

『カルコサにいるのよね? そこに昔馴染の子がいるの。私の名前を出したら協力してくれるかもしれないわ。あ、ちょっと変わった子だからあらかじめ覚悟しておいてね?』

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