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三洲華大学クトゥルフ神話探偵部  作者: 向陽日向
第三章 地上の太陽と原初の魔王
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おやすみなさい

 あっと驚いた時には、関口さんは燃え盛る炎に包まれていた。

 熱波が迫り、慌てて入口に向けて後退する。炎は関口さんのみならず、次いで木製の小屋に燃え移り始めていた。


「……お……う……あ」

 関口さんは何事かを叫んでいるようだけど、うまく聞き取れない。やがてくぐもった叫び声が響き、大の字で倒れた。既に全身が真っ黒に変色し、ヒトの面影は消え失せている。ただの肉塊に成り果てていた。


 それでもなおも炎は燃え猛り、ミディアムどころかウェルダンすらも超越する勢いで肉塊を燃やし続けている。まるで存在を徹底的に凌辱しているようだ。

 炎の群れは意志を伴っているような動きで、膝をガタガタいわしている俺たちを睨むように大きくうねり始めた。


「とにかく! 逃げよう」

「でも!」

 この期に及んで関口さんのことを気に掛ける月山さんの腕を掴む。押し寄せる熱波に表情が歪む。既に天井の一部が崩壊し始めていた。

「君を火だるまにはさせないぞ!」

「丸瀬くん……ひゃっ」


 無我夢中で腕を引いて小屋から出ると、既に火の手は壁や屋根を舐め尽くしていた。モクモクと黒煙が天に昇っている。まるで巨大な炎の腕に抱かれているようだ。

 あと数分もすれば全壊するだろう。炎の腕は抱き足りないとばかり、小屋周囲の木々へアプローチを開始し始めていた。


「ニジュウ、残念ながらゲームオーバーかも」

 こんな時に弱音を零すホームズ野郎を叩き起こしてやろうと思ったとき、奴の眼鏡に反射した橙色の炎たちの乱舞を見た。


 右も、左も、背後も、正面も、既に紅蓮の炎に包まれている。

 小さな火球が宙を舞い、炎の宴は佳境に入っているかのようだ。舐めるというより覆い隠すようにして炎のドームを形成し、俺たちを閉じ込めようとしている。

「【ンガイの森】……ニャルラトテップ……炎……まさかクトゥグァの仕業か?」


 互いに身を寄せ合い、不吉な結論を導き出す前内だったが、逆転の一手についてはノーコメントだ。開き直ったかのように続ける。

「うん……やっぱりダメだ。この状況、どう考えても打破できない」

 お手上げとばかりに首を振るホームズ野郎だった。


「そんな! らしくないじゃん! イタクァを召喚するとか出来ないの!?」

「無茶言わないでよ。召喚の呪文は知っているけど、物品が明らかに足りないよ」

「そんなぁ」

 月山さんの嘆きは小屋の崩壊音にかき消される。


 さすがのクトゥルフ探偵も神話世界の通説は覆せないということだ。

 神話世界においてニャルラトテップの住処である【ンガイの森】は、何を隠そう炎の神である旧支配者(グレートオールドワン)クトゥグァに焼き尽くされる運命なのだから。

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