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三洲華大学クトゥルフ神話探偵部  作者: 向陽日向
第二章 イタクァの夢
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憤怒

「イタクァが倒れたか。昔から詰めが甘い男だった」

 パソコンモニターに表示された活字の海の中でカーソルがチカチカと点滅している。自身が著した《沈む谷》を読みながらその者は低い声で続けた。


「して、どこで倒れたのだ?」

「そ、それが――」

 無人の筈の室内から声が返ってくる。

「附属病院にて【夢の国(ドリームランド)】へ連行されたと報告が――」


 その者は《沈む谷》から顔を上げた。

 パソコンモニター上のカーソルの点滅は止まっている。


「ほう。あやつの末路に相応しい展開ではないか」

 《沈む谷》をデスクに置き、その者は指を組む。数秒の間の後、再び声が響く。

「以前捕らえた学生二人らに返り討ちにされた模様です」

「そやつらはあちらへ連行したはずでは?」

「ええ。しかし【夢の国(ドリームランド)】で取り逃がし、捜索中でした。恐らくこちらへ戻ってきた時にイタクァと鉢合わせたのではないかと」


「ならば、イタクァはたかが学生連中に膝をつかされたというのか?」

 一瞬、その者から滲み出た憤怒を察知したのか、返答が遅れる。

「……申し上げにくいのですが、現場からアザトースの痕跡を発見しました」

「なるほどな。釘を刺されたのは我らということか。【外なる神】どもがその気なら、こちらもその気で臨むのみだ」


 何者かは声がした方向へ視線を向ける。その先には雑誌に掲載された論文の見出しのコピーが貼られた壁があるのみ。


「ただの学生連中にこのような真似は不可能。バックについている奴ら含め、いずれはハスターに首を差し出さねばなるまい」

 声は黙り込む。立ち込める静寂を切り裂くように秒針が規則的に時を刻む。

「まずは目障りな学生連中からだ。何か手はあるか? ()()()()()よ」


 呼びかけに呼応するように、何者かの視線の先の空間に、メラメラと燃える炎が出現する。その熱気に一瞬顔を引いた何者かであるが、床や壁などに燃え移った形跡はない。


 彼の名は【クトゥグァ】。

 南の夜空に見えるうお座の口にあたる一等星――名をフォマルハウト――に住むといわれる炎の神である。旧支配者(グレートオールドワン)の一員で、ハスターとは同盟関係を結んでいる。


「当該学生らは、実習でR県を訪れる予定です」

 R県は日本本土の最南端から南西に位置する唯一の離島にある県である。

「ふっふふ、そうか。これ以上の好機はあるまい」

 何者かの不敵な笑い声がしばらく響く。


「あの地には目障りなニャルラトテップの住処【ンガイの森】がある。ちょうどいい、ネズミと一緒に燃やし尽くしてやりたまえ」

「仰せのままに」


 クトゥグァは決意を示すように大きく燃え上がる。その形は不定形で、絶えず様々なモチーフを体現するように変化する。

 変化する眩い光の中で、何者かは不気味な笑みを浮かべていた。

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