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暗闇に黒猫ー第二章ー  作者: Rask
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師匠と弟子

とある一室での事、椅子に座って誰かを待っている近衛神無はとても緊張していた。

ついさっきに黒との通話を終えて、嬉しい告白を受けたのと共に自身の決意の高まりを感じていたが、此れから自分がどうするのかと考えたら緊張せざるを得なかった。

そんな様子で待っているとノックの音が響きドアが開く。

「失礼しまーす」

「失礼する…」

部屋に入ってきたのは二人の女性隊士、未雲暖と未神零だった。

「あっ神無様!既に居られましたね」

座っていた神無が会釈で返すと、暖は嬉々として反応した。

二人が対面に座ると、早速暖の方が自己紹介を始める。

「私は未雲暖と申します副隊長を務めていまして、此方の未神隊長の補佐兼小姓の様な事をしています、技術を学ぶ弟子でもあるので此れからは神無様の姉弟子ですね!」

「よ、宜しく御願い致します!」

自己紹介を聞いた神無は、慌てて姉弟子となった暖に挨拶をする。

「神無君と私は既に面識があるし紹介は省略しよう」

暖とは対照的に零は淡々と言を発した。

「それと、暖」

「はい!何でしょう?」

「此れから彼女は私達の元にて学ぶ徒弟となるのだ、様付けはよせ」

「ええー!?」

「此れからの修行・学業生活に於いて、それでは周りに示しが付かない、そうだろ?」

「私からも御願い致します」

神無からも重ねて言われ、暖は少し戸惑いながら承諾する事となった。

「ううー…では神無"ちゃん"で」

徒弟関係で言うところの兄弟子と弟分となるところだが、本来の立場で考えれば口が裂けても言えない程の不敬であったからだ。

「最優先事項として君には自身に宿る神力の制御を覚えて貰う、神道術は魔術とは毛色が変わり専門外だが多少の心得ならば私でも師事出来よう」

そして未神が暖の方へ視線を投げると、暖は急いで書類を取り出した。

「貴方の父、清源様からは『本人の意思を尊重してくれ』と承諾を頂いてます、なので本人直筆で師弟関係の申請書と居住申請書を御願いします」

「居住申請ですか?」

「ああ、君は現在末神黒の住居に同棲しているのだろう?」

「ええーッ!?黒君とッ!?神無様が…!?」

衝撃の事実に暖が驚きの声を挙げる。

「はい、そうです」

「暫くの間だが、君には志士の寮に滞在し制御の術を身に付けて貰わなくてはいけないのだ」

「分かりました!」

衝撃の事実に驚いた暖を横に神無は強く同意した、それを聞いた未神は了承すると一言添えた。

「なぁに…基礎は早ければ数ヵ月、遅くとも半年有れば完璧にこなせる様になるだろう、そうすればまた帰れるさ」

「はい!」

そうして、神無は諸々の書類に記入し処理をした。

「大昔なら一筆に血判や、下手すれば口約束だけで済んだのだろうがね、昨今は何かと口厳しく、管理し管理される物が多く感じられるよ」

署名が済んだ書類を暖がせっせと回収する。

「では、ゆこうか…」

未神と暖の後に付いていく神無。

部屋を出て廊下を通っていると何人かの隊員達と擦れ違う、神無は妙に何度かチラチラと見られた気配を感じていた。

そんな心中を察してか未神が口を開く。

「此の時期に志士に入って来る者が居る事は珍しいが、神無君…君の場合は一重に『近衛』と言う名前が起因する事だろう」

「私の家名ですか…」

「君の個人的な事情よりも先に名が周知されていると言う事さ」

「私自身は、自分の出自について此れまで一度も気にした事はありませんでした…」

無力な自分に対しての周りの過剰な扱いに、神無は只々戸惑うだけだ。

「己がどうであれ周囲は思い通りには動き考えてはくれまい」

「…はい」

「だからこそ…だからこそだよ神無君、君は私の元で学び、力を付けて周囲の目を変えてやるが良い…」

「わ、私も全力でサポートします!!」

未神の言葉に慌てて追いかける様に暖が付け加える。

「さて、此処が志士用の女子寮だ、寝具や家電など生活に必要な物は一通り揃っているし、食事は食堂があるから自炊で無くとも良い」

「分かりました」

暖が『203号室』と刻まれたプレートを括り付けた鍵をポケットから取り出し、神無へと受け渡す。

「生活時間に関しては各々のプライベートですので、特に門限等は有りませんがセキュリティの為にも22時頃には帰宅した方が良いと思います、黒君も心配すると思いますし!」

寮の門限に付いて、暖が付け加える。

「はい、分かりました!」

「まぁ此の辺りは機関の施設敷地内だ、下手に外地に出るよりは余程安全だがな」

「102号室には私が住んでいますので何か有ればお訪ね下さいね」

「はい!」

神無の新しい住居の紹介が済み、既に夕陽が出始めていた頃だ。

三人は未神の医務室へと場所を移す、今回は神無への最初の修行の行程となる。

此れから始める事が分かり易い、に少し照明を落とした医務室。

「さて、まず神無君には神力(しんりき)を扱う者として大前提の動きを修了して貰わなくてはならない」

「はい」

神無の表情は至って真剣だ。

「私の右の手を見ていてくれ(たま)え」

未神がすっと右腕を出し掌を上にして開く、その様子は神無は凝視する。

その掌から仄かに青白く揺らめく光が発せられた。

「厳密に言えば、此れは君が物にしようとしている力とは違うのだが系統は同じだ」

「簡単に言えば麺類の食べ物の中でラーメンかうどんか蕎麦か!みたいな感じですね」

暖が補足する。

「暖君の例えで一気に俗っぽくなったが…意味は(あなが)ち間違ってはいまい」

更に未神は掌の青白い光を(くゆ)らせる様に左手で少し翳すと、メラメラと燃え上がるように熱を放つ。

「先程の魔力の可視化の動きを"放出"とすれば、此の状態は"形成化"若しくは"現象化"と呼ばれる、暖君…」

未神が暖へ呼び掛けると頷き、彼女も同じ様に掌から光を放つ。

しかし、暖の放つ光は未神の物とはまた違い赤橙色に近かった。

「凄い…」

眼前の光景に、只々驚くしかなかった。

「最初に放たれた光は魔力の根源の形だ、此れは扱う人間の素養によって色が変化し、それを魔色(ましょく)と呼ぶ」

「確かに、先生と暖さんのは違う色でした」

「神無君は五行思想と言うものを御存じかな?」

「えーっと…木火土金水の」

「ああ、其れで合ってるとも、我々には個々に特性と言うものがあり向き不向きがある、暖君のと私の魔色を見ていて何か気付いた事はあるかな?」

「先生のは青白く寒色なのに対して、暖さんのは赤っぽくて暖色だと思いました」

「正解だ、暖君頼む」

未神が再度暖に声を掛けると、彼女は「はいッ!」と強く答えて掌の光に変化を与える。

赤橙の光から「シューッ」と、微かな隙間風が吹くような音がする。

「神無さ…ちゃん、此の光の側に手を近付けてみて下さい」

「!?冷たい風を感じます」

「此の様に、私は青白く水行の特性を持つが魔術の形成化や現象化を加えることで火行寄りの魔術を扱え、逆に火行の特性を持つ暖君は水行寄りの魔術を扱う事も可能だ」

「とは言っても、特性によってその人の得意な魔術は左右されますけどね!」

両者が掌の術を解き、暖が付け加えて補足すると、神無は理解したと頷いた。

「報告に依れば、神無君は自分が神力を行使した時の記憶が無いのだとか」

「はい、私の持つ『神依』って言うものが原因なのでは、と言われました」

「ふむ…」

神無の話を聞き、未神は顎元に手を当てながら一瞬考える。

「此れは私の憶測だが、神衣によってでは無く、神衣で顕現した天照大神によって起きた影響では無いかと思っている」

「神様によってですか…?」

「無論、神無君に意地悪でしている訳では無いだろうさ、寧ろ君の身を案じての行動だろうね」

「!?」

「君は此れまでに神力の扱い方を知らず、またその力を行使する為の身体を作ってきた訳でも無い、その状態で神の意識と同化して動くのは自殺行為に等しい」

その話を聞いていた暖も興味深気に加わる。

「精神の二分同一化、確かに心身への負担は重そうですねぇ」

「やっぱりそうだったんですね…意識が薄れていく中でも不思議と温かい感覚だったので、悪いものでは無いのかなと思ってました」

「まぁ、いずれ神無君が成長すれば状況も変わるだろう」

「が、頑張ります!!」

神無はそう言って、両腕を引いて腹の前に出す様に拳を握りしめ気を改める。

「良い心意気だ…前置きが長くなってしまったが、先ずは初歩の初歩、神無君の魔力を放出出来る様になる事だ」

「私の魔力…」

「掌を此方に向ける様にして、手を出してくれるかな」

神無が従って掌を前に出すと、未神はそれに合わせる様に掌を重ねる。

「良いかい?目を瞑って感覚を研ぎ澄ませるんだ、此れから私は君の奥底に眠る魔力を引っ張り上げる」

「はい!」

未神は合わせた手に集中し魔術を行使する、先程の様に青白い光が纏い神無の掌をも覆う。

「どうだい?」

「何だか、フワフワと手の感覚だけが浮き上がっていく様な奇妙な感じです…」

「感覚的にはそうかもしれないね、だけどそれはまだ()()()()()()()()だけさ」

未神はふと壁掛けの時計を見て時刻を確認すると、静かに言った。

「今日はここ迄にしておこうか」

「はい」

「さっきの感覚を覚えておくと良い」

「魔力放出は基礎中の基礎ですからね、いずれ神力を使いこなせる様になる為にも頑張って下さい」

横に居た暖も付け加える。

「そうだ!神無ちゃんは携帯持ってますか?」

「持ってます!」

「おおー、では連絡先の交換しましょ!」

「そうだな、何かあった時に便利だ」

暖の提案に未神も同意し、三人で連絡先を交換する事となった。

そのやり取りの中で、赤外線やアプリを使った便利な交換のやり方を教わり、神無を驚かせた事は言うまでも無かった。

三人が施設の扉から出る頃、既に夕陽も沈みきり辺りは暗くなっていた。

「もうこんな時間か、新居に移って神無君も忙しいだろう、何処かで食べに行かないか?」

未神がそう提案する。

「良いですね~、歓迎会みたいなのも含めちゃいましょう!」

未神の車に乗り三人は繁華街の方へと出た。

適当なコインパーキングに駐車し繁華街を練り歩く。

「色々なお店が有りますよねー」

神無が話し掛けると暖が元気に返事をする。

「ですです!たまに先生と色々食べに来るんですよー」

「神無君は、今何が食べたいかな?」

未神の問いに神無は悩んだ。

「んーそれが…自分で言うのも何ですが、私は所謂(いわゆる)世間外れと言う者らしく…」

そんな神無の言葉に、全てを聞かずとも理解した未神は小さく笑って答えた。

「で有れば、私と暖君オススメの中華料理店にでも行こう」

そして三人は『招燕軒(しょうえんけん)』と言う中華飯店に入る事となった。

「今日の支払いは私がするから、君達は好きにすると良い」

「本当ですか!?やったー!」

暖は無邪気に喜びメニューを広げた。

「神無ちゃんはどれにしますか?」

「どれにしましょうー?」

二人が仲睦まじくメニューを見て、未神は少し安心していた。

餃子や油淋鶏、回鍋肉や海老チリ等々、幾つかの注文を適当にする。

料理がどんどんと運ばれると、テーブルの上は豪勢に飾られた。

「す、凄いですね…」

圧巻の光景に神無は驚くしか無かった。

「此れに合わせて、神無ちゃんのラーメンと私のチャーハン、未神先生の肉饅頭が来ますからね!」

神無は、何時も黒が大量の食事を摂るのを思い出した。

「そう言えば、黒君も良く食べてました」

「そうですよ!我々にとって身体は資本なんです、沢山食べて栄養を蓄えて働かないといけないんです!」

誇らしげに胸を張って言う暖。

「ふふっ、それを除いても暖君は良く食べる方だと思うけどね…」

少し笑って付け加える未神。

「そうなんですね!」

「うう…其処(そこ)()となく食いしん坊扱いされてる気がします」

「そう言えばお酒は頼まなくて良いのかな?私は車で来てるから呑めないが」

「遠慮します、先生が呑めないのに私だけなんて」

「そうかい?私は暖君が美味しそうに呑むのが好きなのに」

「じゃ、じゃあ頼みます!」

暖は急いでウェイターを呼ぶと梅酒を頼んだ、そんなこんなで三人は美味しく食事を摂った。

「ですかられ!わらし達は世の人々の平…おンのためにッ!!」

「ふふっ、暖君の御酒も、中々に回ってきたようだね」

料理を食べ始めてから数十分、暖はビールや梅酒、炭酸水で割った紹興酒等、十杯以上は呑み完全に()()()()()()いた。

「だ、大丈夫なんでしょうか姉弟子」

「大丈夫、暖君は酔うが回復が早くてね、明日の仕事には支障あるまい」

「は、はぁ…」

暖の様子に心配になった神無が尋ねるが、「何時もの事だ」と言わんばかりに未神は心配していない。

「神無ちゃん様!どうれすか?がんばれそですか!?」

トロンとした目で問い掛ける。

「はい!」

「よろしい!!センセもがんばれそですか!?」

今度は未神だ。

「ああ」

「んんーー、よろしい!!」

「姉弟子、お水を…」

「んんー、飲む!!」

神無から差し出された水を豪快に掴み、ゴクゴクと飲み干す。

「良い頃合いだ、そろそろ帰るとしようか」

「はい」

「はぁーい!」

眠そうにフラフラする暖に未神は肩を貸す。

「神無君、済まないが其処の壁に掛けてある暖君の得物を運んでくれないか?」

「はい、分かりました!」

神無はずっしりと重い刀袋を抱える。

支払いを済ませて一行は車に戻る、行きとは変わって神無が助手席に座り、暖を後部座席に乗せて横にさせる。

スヤスヤと寝息を起てて、暖は微睡みにつく。

「初日から慌ただしくて申し訳無いね、私としては常日頃頑張ってくれている暖君に労いを込めたかったんだ」

神無の歓迎会として来た食事だが、本来の目的と逸れてしまった雰囲気に未神は謝罪した。

「いえ、私は全然気にしてませんよ、寧ろとても楽しくて御二人と少しでも親しくなれた気がします、それに…」

「それに?」

「世の役に立とうとする、姉弟子の熱意が伝わって良かったです!」

「そうか、ならば此れからは神無君にも頑張って貰わないとね」

そう未神は優しさ混じりに言う、一見すると未神は表情の機微が殆ど無く「冷静沈着、冷酷無比」に感じられてしまう人間だが、神無は思った「此の人はとても優しい人なのだ」と。

寮へ着くと未神は暖を背負って102号に向かう、神無は暖の刀袋を抱えて後を追う、因みに神無の背では肩に掛けると地面に少し擦ってしまいそうだったので抱えて運んだ。

「神無君、刀袋を開けて口の近くに内ポケットが有るはずだ、其処から鍵を取り出してくれないかな?」

「は、はい!」

未神から言われた通りに袋を開けて、内ポケットから鍵を取り出しドアを開けた。

「有難う」

「いえいえ!」

「神無ちゃんありがろー!」

背負われた暖が起きていたらしく、御機嫌な顔で御礼をする。

「歯を磨いて、ちゃんと布団に入って寝るんだぞ?風呂は朝にしときなさい」

「んんー、分かりましたであります!」

未神が言い付けて、暖が敬礼をするとドアは閉められた。

「神無君も明日が有るから、家で休みなさい」

「はい!」

「服装は支給された隊服で来るように、寮だから迎えは要らないだろうが門前のチェックがあるから身分証はちゃんと持ってきた方が良いぞ」

「はい!先生も御休みなさい」

そうして未神は車に乗って去っていった。

神無は自分の部屋である203号室へと入る、家具は一通り揃っていたが衣類やその他の生活用品は違う。

引っ越して来る時に黒の家に置いていた幾つかの服と、父からの命で送られた食品や消耗品が段ボールに詰めて送られていた。

そして、どうやら直ぐに必要そうな物は使いの者によって封を解かれ出されている様だった。

夜と言ってもまだ九時位だった為、神無は携帯を取り出してコールする。

「もしもし、黒君?」

「うん、どうしたんだい?」

連絡した相手は黒だった。

「少し声を聞きたいと思って」

「ふふ、僕も丁度そう思ってたとこさ」

「黒君の方は何かあった?」

「んー、詳しい事は言えないけども、一緒に組んで仕事してる人がいて、それを見ているととても勉強になってるんだ」

「おおー、黒君は真面目だし飲み込みが早そうだねぇ」

「どうだろう…師匠には『御前は頭が良いが、直感的に物事を捉えるのが苦手過ぎる』って言われたことがあったよ」

「ふふっ、黒君らしいですね!」

「神無の方は、どう?」

「私は新しい環境に変わって、兎に角目まぐるしい感じかなぁ」

神無は自分が未神の元に弟子入りした事を伏せていた、黒には仕事に集中して貰いたかったし、何時か驚かせようと思っていたからだ。

「環境が変わると、緊張感が精神的負担になるからね」

「そうそう!」

「僕も新しい事をする時は何時も緊張でいっぱいいっぱいさ」

「そうなの?黒君は直ぐに何でも出来る人だと思ってた」

「そんな事無いよ手探りで行って幾つ間違えた事か、でもそれでも…」

「それでも?」

「どんだけ後悔する結果になっても、その先に進まなくちゃ行けないのさ、だからこそ少しでも良い結果に導けるように強くなりたいんだ」

「黒君の強さの秘訣が分かった気がします!」

その後、二人は世間のニュースや今度一緒に行きたい場所などを少し話して別れの挨拶となった。

「そうだ、もしかしたら数日連絡が取れなくなるかも」

「分かりました、御仕事頑張ってね!」

「うん、御休み」

「御休みなさい」

暫く神無と連絡が取れない、それは捜査の為に携帯端末を志士用に切り替え続けるからだ、そんな事情が有るが神無は特に詮索をしなかった。

翌日、朝早く起きた神無は新しい生活用にと用意して貰っていた卵を焼いて目玉焼きを作り、キャベツとトマトを切った野菜を添える、御飯は炊いた物を事前に用意出来ていなかったのでレンジで温めるパックタイプの物にした。

粉溶きのコーンスープも合わせて用意する。

(今日の帰りは、食材でも買いに行こう…)

今迄箱入りだった自分が、黒と過ごした日々で何とか自活出来ている気がする。

志士の闘服に外套を羽織り、身支度を整えて部屋から出る。

八月も終わり九月の中頃、とは言ってもまだまだ尾を引く暑さだった。

施設の裏手から回り正面入口から入る、受付まで何人かの職員を見て行った。

「あの…」

どう切り出したものかと思いながら、神無は受付の女性に呼び掛ける。

「あ、神無さんですね?」

「はい」

「御早う御座います、暖さんからお話は伺っております、身分証の提示を御願いできますでしょうか?」

「御早う御座います、御願いします」

神無はポケットから身分証を出して差し出す。

神無の顔を見て、一瞬で身分証と見比べると偽証ではないかスキャンして調べる。

「大丈夫そうですね、通ってどうぞ」

「は、はい!」

「そちらの業務用と書かれたエレベーターで地下に行けます、他に分からない事があれば御気軽に御聞きください」

「有難う御座います!」

一礼をして神無はエレベーターに入っていった。

地下一階、未神の診療室は既に記憶済みだ。

ノックをして入ると既に二人の姿があり、どうやら一日の打ち合わせをしていたようだった。

「御早う御座います」

「御早う、神無君」

「御早う御座います、神無ちゃん」

挨拶を交わし、二人の元へと寄る。

「次から此処に入る時はノック無しで構わないよ、起点とする場所で逐一確認するのは面倒だろうからね」

「はい、分かりました!」


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