爆走する主人公
クソゲーとは…発売前に発表されるCGイラストのみに全精力を注いでいて、後に発売されたゲームではシナリオがクソの場合が多い気がします(あくまで持論です)
クソゲーハンターの皆様宜しくお願いします
ザッティルーテ殿下に報告してから数日後
ザッティルーテ殿下はユメカの動向と、カフェマジワートのオーナーの近況も調べてくれていた。
ユメカはゲームの設定どおりに、高魔力保持者であることと、特殊魔法が使える乙女だと認定を受けてトトメーラ学園に編入することが決まっていたそうだ。ところが本人より体が病弱の為に学園の編入を辞退したいという申し入れがあったそうだ。
そしてカフェマジワートのオーナー、お名前はレリオット=スシリスさんは、やはりここ最近の様子がおかしく、ご近所の住人も違和感を抱いているらしかった。当然、カフェの営業にも影響が出ていていつも繁盛していたカフェは客入りも乏しく、ここ最近は閑古鳥が鳴いているらしい。因みにバリスタのエイバン君はまだお店に勤めていないらしい。
「ユメカに“聖なる祈り”をかけられていたのかしら?」
「あれは祈りじゃないよ、うちの魔術師団の団員に調べさせた。強力な魅了魔法と従属魔法だそうだ」
「従属魔法!?」
魅了魔法は何となく、ゲームや小説などの媒体で使われているから、効果が分かるけど従属ってことは命令されたら従っちゃう系の魔法よね?
「幸いにも魔法を使われてから日が浅いので魅了中毒は出ないとのことだ」
魅了中毒…そうだった。魅了魔法はかけすぎると弊害が出るのだ。魅了は勿論犯罪魔法の一つで従属魔法もそうなのだろう、後は捕縛魔法も原則、一般人は使用禁止になっている…と授業で習った。
「ユメカがその魔法を使った…という証拠はあるのですか?」
「魔力痕跡を確かめて、前科者の魔力履歴の照合をかけたが該当者無しだった、まあ…ユメカだとすればそうだろうな」
ザッティルーテ殿下の説明に溜め息が漏れた。
魔法も指紋やDNA鑑定と一緒で、魔力痕を照合して本人だと確定出来なければ罪には問えない。
今現在はユメカは犯罪を犯しているという証拠は無い。ただ、イケオジオーナー、レリオット=スシリスさんが保護され、軍の医療施設に入院していることは、いずれユメカにも知れることだ。
「ユメカ=サザンス男爵令嬢に監視をつけることにする。魅了魔法を使用した疑惑…だけでは諜報部も動かしにくいのだが、兄上達に頼んでみる」
そう“リセット”は私達しか経験していない現象だ。これを声高に叫んだ所で誰に分かってもらえない。
「それとこれ…」
ザッティルーテ殿下からペンダントトップに透明な魔石がついたネックレスを手渡された。
「魔術防御と物理防御…無駄かもしれないがな…言っておくが俺の手製だぞ?魔力も最大限に籠めた」
びっくりした、チェーンと台座の取り付けまで作ったのかと思った。一瞬ピンセットを使って一生懸命制作しているザッティルーテ殿下を想像してしまった。
「付けるよ…はい」
ザッティルーテ殿下が私の首元にネックレスをつけてくれた。魔石を伝ってほんのりと温かい殿下の魔力を感じる。
「これ…いいね。ザックの魔力を感じられる…っんん!?」
後ろを振り向いてザッティルーテ殿下に伝えようとすると、ザッティルーテ殿下に抱き締められて、唇に口付けられた。
角度を変えて…何度も口付けを受ける。
「いい加減俺だってフィリと婚姻したいよ…いつまでアレに付き合わなきゃならないんだよ」
欲求不満かな……気持ちは分かるけど…でも不謹慎だけど楽しいんだよね。
「ユメカがこの先、何度もあの魔法を使ってきたとしても、その度にザックに会って…私、ザックと一緒に居れて…実は楽しい。あっ勿論、カフェのオーナーのことは許しがたいことだけど…」
ザッティルーテ殿下は目を丸くして私を見下ろしている。
「私…ザックとほとんど接点が無かったじゃない?それが…今ではこうして一緒に居て…悔しいけどユメカに少し感謝してる…」
急にザッティルーテ殿下は私をきつく抱き締めてきた。
「うん…うん…」
うん、しか言ってないけどザッティルーテ殿下の気持ちもよく分かる。焦るよね…でも、相手は主人公だしさ…こっちの常識が主人公に通用するかは分からないんだ。
今言える事は、ユメカが凶悪な気持ちを抱いてなくて、一ゲームプレイヤーの視点で主人公としての自分をイベントを成功させることに懸命になってくれている、そういう意味で無垢で扱いやすい子で良かったということだ。
ユメカの性根が腐ってて、自分の思い通りにならなかったら周りを排除して…という極論を考えてしまう子なら“聖なる祈り”を乱発されて攻略キャラ達が阿鼻叫喚状態になっている可能性もあったはずなのだ。
ザッティルーテ殿下に早く王城に越して来て欲しいという熱望を聞かされつつ…本日は公爵家に帰宅することにした。
ナリカと一緒に帰りの馬車に乗った。馬車の外には護衛のビレルさんと御者のイモセが乗っている。
「そろそろ王城に来て~と言われてしまったわ」
「お嬢様が王子妃ですか…まだ先かと思ってましたが、もうすぐですね」
ナリカが王子妃ですか…の言葉の後に「大丈夫なの?」という雰囲気を醸し出している。はい、分かってますとも、私みたいな自由奔放な令嬢で大丈夫なのか?という心配ですよね。
「なんとかなるわ……」
と、私が話しかけた時にそれは起こった。
「リセーーーーーット!」
「!」
突然聞こえた声にびっくりして、馬車の車内で立ち上がってしまった。
え?ええ?今、リセットて声が…外の大通りから聞こえたよね?と、…思っていたら
「リセットッ…リセーーットよ!リセットだってばっ!」
という怒鳴り声が馬車と並走しながら?聞こえる。
並走だと?
流石にナリカも自分達にリセットという言葉がかけられていると気が付いたみたいだ。
「外からリセト?と呼びかけられますね?そのリセトが乗っている馬車と勘違いされているのでしょうか?」
いやいやいや?リセトじゃなくて、リセットって叫んでいるのだと思うよ?走っている馬車と並走して声が聞こえてることの方が驚きなんですが!
ユメカは馬車の横で走りながら渾身のリセットを叫んでいるようだ……
ナリカがその叫び声が気になるのか、馬車の窓にかけられたカーテンを開けようとした。
っおい!待て!私はナリカの手を慌てて押さえた。
「ナリカッ見なくていいよ!」
「ですが…声をかけていますよね?せめて誰かは確認しておいたほうが…」
「大丈夫…見なくても分かる、ユメカ=サザンス男爵令嬢よ」
「え?サザンス男爵令嬢…フィリ様のご友人ですか?」
「違うわ、どちらかと言うとザッティルーテ殿下に関しての嫌がらせをして来ている令嬢…とでもいうのかしら?」
ナリカは顔色を変えた。
だが…心配する必要は無い、と私は暫くして気が付いた。
ユメカは先程から、リセットという単語を連発しているがそれが発動している気配が無い。おまけに
「ヒィ…ゼィ…リ…リセ………っ…!」
段々ユメカ自身の体が限界を迎えたのか、声が小さくなってきて…今は完全に声が聞こえなくなった。多分、力尽きて走れなくなったのだ。
私は窓のカーテンを開けて外を見た。馬車の横の通りにはユメカの姿は無い。わざわざ振り向いて確認なんてしてやらない。
そう…これで一つ分かったことがある。ユメカの声で“リセット”が発動すると思っていたのだが、どうやらそうじゃないようだ。
“リセット”も“聖なる祈り”同様、術をかけたい時は対面でかけなければ術が発動しないということだ。つまり…ユメカがリセットをして私とザッティルーテ殿下を過去に連れて行っているのではなくて、リセットをかけられた私がユメカとザッティルーテ殿下を連れて行っているという訳だ。
んん?でもユメカの望む時間に移動しているから、やっぱり私が連れて行かれているのよね?
こういう頭を捻ってしまうシステムを作っているのが、クソゲーのおかしなところだね。
魔術発動の仕組みは兎も角、私に面と向かってリセットと叫ばなければ発動しないのなら問題無いわ。ようはユメカの顔を見なければいいんだものね。
移動は馬車、人の多い所には近づかない、ユメカと対峙してしまった時は隠れる、若しくは距離を取る。これで“リセット”の直撃?を免れる筈だ。
そうして、暫くしてザッティルーテ殿下の要望通りに、婚姻に向けて王城の離れに居を移すことになった私とザッティルーテ殿下は新居となる、離れを訪れていた。
「今、内装工事に入っているから終わり次第越して来てくれ」
「はい、で…ザック、ユメカには遭遇していないのよね?」
と、隣に立つザッティルーテ殿下に聞くと、ものすごい馬鹿にしたような顔を私に向けてきた。
「城に居て、あの娘にどうやって遭遇するんだ?俺の移動先はここか、軍の施設ぐらいだしな」
まあ…王城の中は安全でしょうね。
「先程も話したけど、面と向かわないように気を付けてね。恐らく目を合わせるのを避けて、それこそ2、3メートル離れたら術式範囲から離れるようだし…」
あくまで先日の馬車の横を爆走していたと思われる、ユメカの状態からの推測だ。ザッティルーテ殿下にそれの説明をした時に大層心配させてしまったのだ。
私が一人の時に“リセット”をされたら…と気を揉んでくれているみたいだ。
「本当に大丈夫か?護衛をつけようか?」
「命を狙われてる訳じゃないし~大丈夫よ!」
そう言って笑い飛ばしていたのだが…その日公爵家に帰ったすぐ後、攻略キャラの子爵家のナビアント様が私を訪ねてきた。
ナビアント様は顔色が優れなかった…何かあったのかな?
応接室に案内しても、心ここにあらず…という感じでぼんやりしている感じだ。
「ナビアント様、どうされましたか?」
「……」
ナビアント様は俯いていた顔を上げて私を見た。薄っすらと微笑んでいるけど…
「一緒に来て下さいね」
いきなりそう言って私の手首を掴んできた。
ナビアント様は魔法を発動しようとした!
バチィィィー!!
「きゃあ!」
「っぐ!」
ナビアント様と私の間に魔術障壁が出来ていた。あ…!これ先程頂いた殿下の魔石だわ!思わず胸元に手を置いた。温かい魔力を感じる。
魔術を弾かれてしまったナビアント様は、唖然として自分の手を見て…また私の方へ手を伸ばしてきた。
「それ以上フィリに触るな」
私の背後から温かくそして力強い魔力と共にザッティルーテ殿下が現れた。一緒にビュイルワンテ殿下とミランダもいる。ミランダが現れるなり抱き締めてきた。
「怪我はない?」
「大丈夫」
ザッティルーテ殿下とビュイルワンテ殿下の二人が私とミランダの前に立った。ナビアント様はまだ私の方へ手を伸ばしている。
「ナビアント!どういうつもりだ」
ザッティルーテ殿下の叫びにもナビアント様は薄ら笑いを浮かべたまま
「一緒に来てください」
と言ってきた。
おかしい……
ビュイルワンテ殿下が呟いていた。
「もしや従属魔法か?」
それだーー!!




