三回目ですか
クソゲーとは違うが当時、特典付きのゲームを購入した際に特典グッズがどのゲーム会社様も缶バッチが付いていることが多かった。
缶バッチをつけて見せる性格ではないので、せめて一人静かに愛でる特典のどちらか選べるようにして欲しいなと当時は思っておりました。今は貰えるものならなんでも頂きます。
クソゲーハンターの皆様宜しくお願いします
まさか教室にまで乗り込んで来られて、ましてやザッティルーテ殿下に怒鳴られるなんて思ってもみなかったのだろう…ユメカは一気に顔色を悪くして、目をウロウロとさせていた。
「戻す…?」
「そうだっ全ての理を元に戻せ!お前のしたことは理を乱し、世界を混乱させる所業だ!」
ザッティルーテ殿下は随分と壮大なことを言い出してきたね…まあユメカがゲームの理を乱しているのはその通りだけどさ
ユメカは体を震わせてると、また体を発光させてきた!?うそーーっ??
「ええっ…まっ…」
「リセットーーー!!!!」
…
……
………
まさかのリセット三回目だった。正直、目を開けるのが怖い…息を吸い込んでみたが、特に変な匂いはしないようだ。いきなり森の中に放り出されたりしていないのが分かっただけでも良かった。
ゆっくりと目を開けて、手を挙げて見て今度こそ困惑した。さらに右を見て左を見て…頭を抱えた。
ああ…やだもう…抱えた頭がやけに小さいことに気が付いたのだ。
ベッドから降りようとしても、絨毯まで足がすぐに届かない。
嘘でしょう?ホントやめて欲しい…
フラつく体をなんとか動かして、全身が映る鏡の前に立った。
「ちびっ子じゃない……」
鏡に映るのは子供の姿をしたフィリデリアだった。
はあぁぁぁ……自分自身なんだけど、正確な年齢が分からない。多分、10才くらいかな?日付が分かるもの…と机の上を見たけれど、生憎と卓上カレンダーは無かった。
…ということは学園に入学する前じゃないかな?…やっぱり10才前後だね。
ユメカめぇぇぇ…なんでこんな子供時代まで過去に戻してくるのよぉ。
でも何となく理由が分かってきたぞ。
ほんの少しリセット→修正効かず結局ビュイルワンテ殿下と婚姻出来ず
もう少し多めにリセット→ザッティルーテ殿下に詰め寄られて慌てる
これならどうだの多めのリセット→今ここNEW
だろうね、うん…こんな所だと思う。
そうこうしている間に若い頃のナリカが私の部屋にやって来た。
ナリカ若っ!髪型おさげスタイルじゃないか~そうだったね!
「お嬢様、さあ着替えましょうね」
「着替え?」
はて?今日はどこかへ行く日だったのか?
「お忘れですか?今日は王妃殿下主催のお茶会ですよ~王子殿下方もご出席されるはずですよ」
王子殿下……え?もしかしてちびっ子王子達が見れるの!?ええっ推しの子供時代!?はぅそう言えば茶会で会ってたっけ?もう昔過ぎて忘れてた。そうかそうかっ!
「それは…じゅる…さぞかし可愛かろうよ…」
へへっ思わず涎が出てしまったわ。さっきはユメカをボロカスに貶していたけれど…
ユメカも(たまには)良い仕事するじゃない!
そうして私はフリルの沢山ついたお子ちゃま用のドレスに着替えて…茶会に突撃した。
ええもう、王城に着いてからずっとソワソワしてますよ。早う、わらわにちびっ子王子をみせてたもれ~~!
暫く茶会の会場である中庭に設置されたお菓子コーナーで、焼き菓子を口に入れながら待っていると侍従の男性が声を上げた。
「王妃殿下、側妃様並びに、王子殿下方入られます」
きたーー!人垣の向こう側を一生懸命に覗いていると…可愛いビュイルワンテ殿下と第二王子のソシャルーデ殿下とザッティルーテ殿下がトコトコと歩いて来るのが見える。
やべぇ可愛い!ぷにーーっとしてるじゃないか~
「…」
ん?覗き込んでいてビュイルワンテ殿下の横に立つザッティルーテ殿下と目が合った時に、私を見て頷いているのが見えた。
ありゃ…もしかして?
そして、ザッティルーテ殿下は迷わずに私の方へ歩いて来た。ああ……周りにいる令嬢達を蹴散らしている気がする。
私の目の前にやって来た、推定年令10才くらいと思われるザッティルーテ殿下、めっちゃ可愛い。
「憶えてるか?」
やっぱり!!!
「憶えております」
ザッティルーテ殿下は私の手を両手で包み込んだ。それを見た周りのご令嬢方から悲鳴が上がった。
「良かった……ふたりきりで話がしたい」
おーーいザッティルーテ殿下ぁ?忘れていないかい?あんたまだデビュタント前だよ?こんなちびっ子王子の時に女子と二人きりになりたいだなんて…怒られやしないかい?
そうしたら案の定…
「殿下っこのような場所でご令嬢のお体に触れるなんて…」
ほーーら、お目付け役かな?の侍従のお兄さんが走り込んできたじゃない。
ザッティルーテ殿下は子供のくせに(中身は大人だけど)キリッとした眼差しを侍従のお兄さんに向けた。
「だったら正式にフィリデリア嬢に婚姻を申し込む。これで文句は無いだろう」
ひえええっ!?
その後は阿鼻叫喚だった…ご令嬢方は集団ヒステリーを起こしちゃうし、王妃殿下も側妃様も何故だか大笑いしていたけど…結局、後日改めて…という形でその日は家に帰った。
そして次の日…早速、国王陛下から呼び出しを受けた。おまけにザッティルーテ殿下から手紙も届けられた。
手紙には早く会って話がしたい、とだけ書かれていた。了解でーーーす。
確か通常のシナリオではビュイルワンテ殿下と婚約したのは14才の時だった、今回はザッティルーテ殿下が言い出したことだけど…シナリオから逸脱したこの状況が上手くいくのだろうか…
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………と思っていた時期が私もありましたよ。
私とザッティルーテ殿下の婚姻は前向きに検討されて…無事に婚約という運びになった。そして12才になった今も、婚約は継続中だ。そしてビュイルワンテ殿下もミレンダ=カヴァーゲル公爵令嬢と婚約中でございます。よく分からないけど、リセット前と奇しくも同じ状況だね。
ユメカという異分子がいなければ本来はこういう感じで婚約者が選ばれて、特に問題もなくそのまま婚姻していくのだろうね。
そうそう私が言うのもおかしなものだけど、ビュイルワンテ殿下とミレンダ様って気が合ってて、仲良い感じがするのよね~正直、私と婚約するより絶対こっちの方が良かったと思うよ?
私の方の婚約関係は…というと、まあ…ボチボチかな?ザッティルーテ殿下はこの過去に来たばかりの頃は周りを警戒していたみたいだけど、あれからユメカが現れる気配も無いし、今では普通に私の良き理解者であり良き婚約者という立ち位置だ。
そんな私とザッティルーテ殿下は月に一度、未来への検証として周りにおかしな現象が起こっていないか、不審な令嬢の報告は無いか…などの報告会を開いている。それ以外は普通の婚約者として一緒に観劇に出かけたり、湖にデートに出かけたり、別荘に保養に出かけたり…本当に普通の婚約者の付き合いだ。
そんな私とザッティルーテ殿下は今日はお忍びデートの日だ。
普通の婚約者のように……手を恋人繋ぎなんてのにして、商店街に向かって歩いている。でも恋人繋ぎは必要かな?
「今日は新しく出来たロールケーキを販売している菓子店に行こうと思う」
ロールケーキか…さすがゲーム、なんでもありだね。
デビュタントの話やその時に着るドレスの、ここに拘ったんだ~というザッティルーテ殿下の私のドレス自慢の話を聞きながら大通りを歩いていると、ザッティルーテ殿下が急に立ち止まって身を屈めた。
「ユメカがいる…」
なぁ…なんだってぇ!?どこだっどこだ!?
ザッティルーテ殿下はキョロキョロし始めた私の腕を強引に引っ張り、路地裏に連れて入った。その後を護衛のお兄様達二人が慌てたようについて来た。
「殿下、どうされましたか?」
ひええっ!護衛のお兄様達の表情が険しいぃ…違う違うっ刺客とか暗殺とかそんな怖いものじゃないんですっ!
私がワタワタしているとザッティルーテ殿下が先に返事をしてしまった。
「フィリに嫌がらせをする悪辣な令嬢が居たんだ。もしやまた悪辣な企みでもしているのでは…と思ってな、あの令嬢の後を尾行する」
すごーーーーい!あっという間に適切な(か、どうかは分からないが)言い訳をして、近衛のお兄様達を納得させてしまった。お兄様達は深く頷いて、私の方に憐憫の眼差しを向けてくれる。
いやいやっ苛められて無いし!寧ろ私の方が真の悪役令嬢だから!
という訳で…商店街のど真ん中で尾行ですよ……でもまあ相手はユメカだし?ただ距離を置いて後を付いて行っても全然気付かれている感じはしない。
まあ普通のご令嬢なら近衛や王子に尾行されるなんて夢にも思わないだろうしね。
それにしてもどこに行くんだろう…
ユメカの足取りに迷いは無い。ユメカは細い路地に入ると、一軒のお店の裏木戸をノックしている。
「あの店なんだろう?」
「裏口ですよね?」
私と殿下がコソコソと話している間に、裏口の扉が開いた。裏口から顔を出した人物を見て、私は叫びそうになるのを何とか堪えた。
イケオジーーー!あれっあれは!“カフェマジワート”のアラフォーイケおじオーナーだ!!
「……で……なの……だから……」
ユメカの声は小さ過ぎて聞こえない。その代わりマジワートのオーナーの声は良く聞こえた。流石、声優さんは活舌が良くてお声がよく通るね。
「何度も来てもらって申し訳ないけど、今は手は足りてるんだ。それに君はまだ小さいでしょ?うちの店は16才以上じゃないと雇わないことにしているんだ。もう少し大きくなってからおいで」
なんとっ!ユメカは“カフェマジワート”で働こうとしていたのか!それにしてもだね、ユメカっててっきりビュイルワンテ殿下推しだと思っていたんだけど、違うのか?
もしかしてビュイルワンテ殿下とオーナーの股がけプレイをするつもりだったとか?
ユメカは無情にも閉じられてしまった裏口の扉の前で暫く立ち尽くしていたが、ゆっくりと踵を返すと…
「っざけんなよ!」
と叫んで、路地裏のゴミ箱を蹴り飛ばした。
「っ!」
私の横でザッティルーテ殿下の息を飲む音が聞こえました。今ユメカさんに対する好感度が地の底まで落ちたように感じます、はい。
「なんだよっなんで上手くいかないんだよ!くそっ!」
「……」
ユメカはブツブツと罵り言葉を呟きながら路地を抜けて、大通りへと戻って行った。
私達も潜んでいた横の路地から出て来ると、ユメカの後ろ姿を見送った、私は大通りの店の看板を見た。
cafe Majiwart…間違いない。英語表記なのもツッコんでいいのか分からない。
「貴族子女がカフェで働きたいとは…変わってるな…」
ザッティルーテ殿下が唖然とした様子で呟いたので、ああそうか…と改めて気が付いた。
「そうですね…サザンス男爵家はユメカ様も働きに出なければいけないほど、困窮されていらっしゃるのでしょうか?」
私から見れば早くマジワートで働いて、移植版の追加キャラの好感度を少しでも上げておきたいんだね…と考えるけれど一般人?の殿下達から見れば、ご令嬢が市井で働く→生活困窮…これくらいしか思いつかないんじゃないかな?
「そうか…サザンス男爵を探ってみるか…」
いやあの、私が言った言葉は口から出まかせ…ってほどじゃないけど、ユメカは自分の欲望のままカフェに行ってるだけだと思うよ?
探るって言っても軍の諜報部を動かすんでしょ?税金の無駄遣いだからさ…それ…とは言えなくて、困ってしまった。
そんな私とザッティルーテ殿下はもうすぐデビュタントの予定です。