ニ回目ですか
以前、クソゲーの別小説の投稿時に触れたことのある、ひょっこりEDで多方面に渡るクソゲーっぷりを晒す某ひょっこりゲー…もう一つクソゲーっぷりを晒すことがあったのを忘れていた。
そのゲームは前編、後編と分けて発売されたゲームだが、後編で何故だか中の人の交代があった。いやいや?なんでやねん?何度も言うようだが、中の人に罪は無い。後編で変わった中の人も納得の人選だったが、そうじゃない。私の中ではあの方の声はあの色っぽい声が良かったんだ!
今更言っても仕方ない、クソゲーには私の叫びは響かないだろう。
前編の中の人…個人的に大好きでした。クソゲーハンターの皆様宜しくお願いします
この過去に戻る現象のようなものに戸惑ってはいるが…今、この瞬間を楽しみたい!いや、楽しんで何が悪いんだ!
「はい、あ~ん♡」
「あ…ハァ…ハァ…あ~~ん」
苺パフェをスプーンで掬って、最推しのザッティルーテ殿下に、あ~んをして頂いているこの状況を奇跡と呼ばずしてなんというのかぁ!!
多分、顔が真っ赤になっていると思うけれど、苺パフェをザッティルーテ殿下のお手自ら、口に入れて頂いて咀嚼する。心の中で推しの美麗スチルスクショを連写した…
卒業パーティーのまでの一週間、ザッティルーテ殿下は毎日私に会いに来てくれた。そしてデートに誘って頂いてゲーム内のすべてのデートスチルを網羅する勢いで恋人気分を全力で楽しませてくれていた。
もはやゲームの内容を完全に無視した形なので、どんな弊害が出て来るかは分からない…ただ、過去?のようなものに戻るキッカケが…ユメカが叫んだ言葉ではないかと考えていた。
リセット
ユメカは確かにそう叫んでいたはずだ。彼女の一声でゲームと同じ「リセット」がかかるのかはいまだに謎だし、それが原因かは分からないけれど、取り敢えずは日常を送る分には何も問題はなさそうだった。しかしリセットにしてもおかしいなとは思う。
”愛と星のマジワート”ってアプリゲームだよね?リセットってどういう意味だろう…携帯ゲーム機にリセットボタンはあるけど…ん?待てよ…何かを思い出しそうな…
「何か騒がしいな?」
ザッティルーテ殿下がそう言って、後ろを顧みていた。すると怖い顔をしたユメカが小走りでこちらに向って来る姿が見えるではないか!
ザッティルーテ殿下はすぐに私を庇うようにして立つと、向って来るユメカと私の間に入ってくれた。
ユメカの後ろには、戸惑いオロオロしているビュイルワンテ殿下が付いて来ている。
ユメカはハァハァと肩で息をしながら私を指差すと叫んだ。
「あんたーー何やってるのよ!!あんたが婚約破棄を先にしちゃったら断罪イベントが起こらないじゃない!」
……いやぁ?どういえばいいんだろう。だって婚約破棄を先にしちゃえば?と言い出したのはザッティルーテ殿下だし…
私が言い淀んでいる間に、ザッティルーテ殿下が先に答えてしまった。
「兄上とユメカ嬢は恋仲だろう?ならばフィリデリア嬢とは婚約破棄にしても問題無いだろう?」
ユメカは顔を真っ赤にするとザッティルーテ殿下を指差してしまった…それって不敬ですが?
「な…何言ってんのよ!移植版ではザックとビィとで私を取り合うイベントがあるはずじゃない!?それなのに何やってんのよぉ!」
私は、移植版と聞いて…雷に打たれたように全てを思い出していた。
そう…”愛と星のマジワート”はアプリゲームだが人気が出て、携帯ゲーム機に移植販売されたのだ。それがアプリのシナリオにオリジナルシナリオを加筆した”愛と星のマジワート~永久の恋人~”だ。
そうだ、今の今まで忘れていたのには訳があった。それは私の記憶から強制デリートしていたからだ。
移植版は私のアイマジじゃねええええ!!!
つまり移植版は私の中では劣化版…愛と星のマジワートの良い所を全て削ぎ落したかのような、とんでもない駄作になっていたのだ。
まずは一番許せないところが、シースリア=クトル様の声優(中の人)の変更だ。
はああっ?キャラデザ変更も許せないけど、中の人はキャラクターの生命線だろうが!それでキャラに命が吹き込まれるんだろうがぁ!?新しくシースリア役に選ばれた中の人に罪は無い、全てはそれにOKを出してしまった制作会社が悪いのだ。
そしてもう一つ許せないのが、新キャラ投入の件だ。卒業パーティーの後…主人公は移植版では誰ともエンディングを迎えていない状態で移植版の追加シナリオが始まる。
主人公のユメカは何故か、貴族令嬢なのに街のカフェで働き始めるという謎設定で、更に何故かそのカフェの常連に、ビュイルワンテ殿下、ザッティルーテ殿下、シースリア=クトル様、子爵家のナビアント様、そして近衛騎士のガシュテイル様が揃っている親切設計。
おまけにアプリゲーム版の追加配信で増えた攻略キャラは移植版に一切登場させない、新規キャラファンを購買層から脱落させる篩にかけてくる鬼畜仕様で、そのくせ移植版のオリジナルキャラをぶっ込んで追加してくる誰得商法。
その問題の追加キャラは、ユメカが働き出したカフェ”マジワート”のオーナーとバリスタの男の子の二人なのだが…そのオーナーがアラフォーの、イケオジ枠なのだ。
いや…ユメカ18才という設定だし?40才くらいのお父さんの年齢の攻略キャラは正直微妙だと思う。そういうオジ様に心ときめく人もいるだろうけど、本当に誰に向けた誰得なのだ?制作会社と発売元に電凸したのは私だけじゃないはずだ!
まあ、今更言ったところで仕方ない。携帯ゲーム機の移植版“愛と星のマジワート”の売上もそこそこ良かったと記憶している。
アンチでも売上に貢献していれば立派な顧客だ。
誰かがそう言っていた気がする…
ユメカが顔を真っ赤にして私の方を見た時に、ビュイルワンテ殿下が叫んだ。
「私は陛下のご意向に添うつもりだ!ユメカとは……婚姻しない」
ビュイルワンテ殿下を見てユメカは顔を歪ませた。すると、ユメカが白く発光し始めた。
「リセットぉぉぉ!!!」
ちょっおいっまたぁ!?
私は余りの眩しさに目を閉じた。
…
……
ゆっくり目を開けた。
右を見て、左を見た。
「私の部屋だ……」
どうやらベッドに寝転んでいるようだ。体をゆっくりと起こしてみた。体に不自然な痛みは無い。私は頭を抱え込んだ。
はぁぁぁぁ…ユメカのやつ、またリセットかけてきたね…
私はベッドから降りると、勉強机に向かった。
机の上に卓上カレンダーが置いてあるので日付を確かめよう…一度深呼吸してからカレンダーを見た。
「今年の4月…だね…8ヶ月前か…どうして?」
半年以上前に戻ってるんだ…過去に戻るのも2度目なので、前ほどの驚きはない。しかしこうなってくるとやはり、ユメカが何かの能力…リセット機能だとは認めたくないが、それを使ってきたのだろうということが確信に変わって来た。
おまけに、ユメカがどこに戻るのかを自由に選んでいるのか?なんていう謎も増えちゃったよ…困ったなぁ。好き放題戻られちゃ……いや?待てよ…
ザッティルーテ殿下はどうなったの?
もしかして…私ひとりだけでここに戻って来たのかも…
「お嬢様?起きていらっしゃいますか?」
廊下から呼びかけられてビクッとなったが、メイドのナリカの声だったので
「起きているわ」
と声をかけた。
メイドのナリカが室内に入って来た。
「おはようございますお嬢様、のんびりされていて大丈夫ですか?今日から新学期…3年生ですよ?」
しまった!?今日は…そう、今日こそが”愛と星のマジワート”ゲーム開始日、主人公のユメカがトトメーラ学園に編入してくる日だった!
私は急いで登校の準備をすると、公爵家に設置してある“転移魔法陣”に向かった。ゲームの中ではこれで色んな場所へ移動する。便利魔道具の一つだった。
さて…公爵家の転移魔法陣は裏庭に設置しているのだが……裏庭に回ると、ザッティルーテ殿下がいた。何故かいた……不法侵入?いえ、それよりも前に確認すべきことが…
「憶えてます?」
「憶えてるか?」
奇しくも声が重なり…私とザッティルーテ殿下は見詰め合った。
「良かった!」
「良かった!」
これも重なった…私とザッティルーテ殿下は共に同じ心境だった。
ザッティルーテ殿下が公爵家の裏庭に不法侵入していたのは、一早く私と合流をしてこの現状の確認をしたかったそうだ。
「じゃあ…今日ユメカがトトメーラに編入して来る日なのか…」
「はい…私の記憶が正しければ、正門前でビュイルワンテ殿下とイベ……言い合いになると言いますか、目立つ行動をして…注目を浴びていたと思います」
ザッティルーテ殿下と二人で転移魔法陣に乗って、トトメーラ学園前の転移魔法陣に到着した。
ザッティルーテ殿下は私の説明に頷いた後、首を捻っている。
「俺は…ユメカにいつ会ったかな…憶えてないな」
私は得意?のアイマジガチ勢の薀蓄をザッティルーテ殿下に披露した。
「ザッティルーテ殿下とユメカが会うのは、トトメーラ学園の屋上ですよっ放課後…屋上から魔術で作ったの氷の華が降り注いできて、ユメカがそれを確認しに屋上へ上がって行って、ザッティルーテ殿下に会うんです!」
ザッティルーテ殿下に興奮してグイグイ近付いて説明してしまった。ザッティルーテ殿下は最初驚いたのか仰け反っていたけれど、話し終えた私に胡乱な目を向けてきた。
「えらく事細かに知っているんだな……見ていたのか?」
「!」
しっしまったぁぁぁ!!画面越しに見てましたっ…とは言えないので
「先見魔法で知っているんですよねぇ~オホホホホホ!」
苦し紛れの魔法…今後何かあったら、魔法で全てお見通しだぁぁぁ!と、言って誤魔化しておこう。
ザッティルーテ殿下は取り敢えずは先見魔法すげぇ!で納得してくれたみたいだった。
という訳で、私とザッティルーテ殿下は急ぎ足で学園の門扉から離れた。そして植込みの陰に移動した。
「本当に門前でユメカと兄上が出会うのか?」
「ここが私が知っている過去ならば…です、あっ!ビュイルワンテ殿下来ましたよ!?ユメカは…キターー!」
すみませんね、ザッティルーテ殿下そっちのけで興奮してしまいまして…携帯ゲーム機への移植版にはアンチギリギリの苦々しい思いを抱いていますが、本来の私は骨の髄までアイマジが大好きなのです!
ああっ門扉の所で見かけない生徒であるユメカに、ビュイルワンテ殿下が声をかけている…あああっユメカがそんな殿下を殿下と知らずに…邪険に扱い………ん?んんん?
ユメカは…ビュイルワンテ殿下と話しながらニヤついていた。重要なことなのでもう一度言うとニヤついていた。
「……」
そして、ビュイルワンテ殿下との出会いイベントを終えて、ビュイルワンテ殿下が失礼なユメカに怒りながら学園内に入って行った後…ユメカはニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてビュイルワンテ殿下の後ろ姿を見ていた。
あ………なんか分かったわ。今、急に気が付いたわ…“リセット”してゲームの開始からまた始めて、今…あそこでイベント起こしてニヤニヤしながら立っているユメカは…
私の好きな愛と星のマジワートのユメカじゃない。中身は恐らく私と同じ日本人…私の知っているキャラクターとしてのユメカじゃない。
そうか……
「フィリデリア嬢…大丈夫か?」
物思いに耽っていて、ザッティルーテ殿下の声に意識を戻した。
そうだ…全部は話せないけれど、独りじゃない…ザッティルーテ殿下に笑顔を向けた。
私はザッティルーテ殿下に手早く説明した。ユメカ=サザンス男爵令嬢は再び過去に戻って、過去と同じような出会いを作り…同じ体験を繰り返そうとしていること…そして自分の理想とする終焉に向けて動き出そうとすること。
「…で、ぶち壊すんだろう?」
「え?」
ザッティルーテ殿下は事もなげに答えた。
「どうして出会いを作って過去と同じように進めようとするユメカを待ってやらんといけないんだ?すぐに捕まえればいいだろう?」
目から鱗が落ちた……ゲームだなんだと気にしているのは私だけで…ザッティルーテ殿下にして見ればそんなものは関係ない。不可思議な魔法?を使った王族に対する不敬な所業なのだ…
ザッティルーテ殿下はそのまま勢いよく走り出して、学舎に入り3年月組に飛び込んでユメカの前に躍り出た。
「不可思議な魔法を使うなっユメカ=サザンス男爵令嬢!すぐに元の状態に戻せ!」
ド直球な言葉だった。
ユメカも驚いていたけど、何とか追いついて息も切れ切れの私もびっくりしましたよ。