ここはどこ?
風の章や炎の章と分けられて、シリーズで出される予定のゲームを購入した。プレイしてみると天使や悪魔が出て来て中二病心(当時)を随分とくすぐられた。しかし一枚のディスクで一攻略キャラしか出てこず、プレイ時間も二時間ほどで終わった。価格は3000円くらいだったと記憶している…高い。全部の章を集めるとなると万札越えになりそうなので…やめておこうと思って様子見していたら、特装版なるものを出してきて全キャラ攻略出来ます!お値段たったの一万円!と発表してきました。
クソめっ……ディスクはフリスビーしました。
クソゲーハンターの皆様宜しくお願いします
「制服…これ、制服じゃない!?えっどういうこと?」
自分が着ているブレザーの腕を触り、スカートを引っ張ったりして感触を確かめた。確かにトトメーラ学園の制服に間違いない。そしてブレザーのポケットを探っていて、手に当たったモノをポケットから引っ張り出した。
お気に入りのリップグロス…しかも使いかけ、リップグロスを持つ手が震える……間違いない私のものだ。
兎に角、トイレから出よう。
トイレから出て私は更に驚愕した。廊下には談笑している学園生がいる…だが皆、見知った顔なのだ。つまり…廊下にいる生徒は私と一緒に数日前に学園を卒業したはずの卒業生なのだ。
頭が混乱する…どういうことだ?私はトイレから自分が三年生の時に在籍していたクラス、三年月組に向かった。
月組には……制服を着たビュイルワンテ殿下がいた…その横にユメカもいる。
教室に入ろうとした私に気が付いて、ユメカがビュイルワンテ殿下に囁いている。ビュイルワンテ殿下が私を顧みた。
その振り向いた顔には私に対する侮蔑と激しい怒りが浮かんでいた。
あまりの衝撃に眩暈がして、すぐに廊下に出た。更に廊下に貼りだされているポスターを見て血の気が引いた。
「卒業記念パーティー開催まで後一週間……日付!?…そんな…」
卒業パーティーの開催日は“あの断罪イベントの日”になっていた。
呼吸が荒くなる…落ち着け、落ち着くんだ。先程の光りが原因じゃないか?もしかしてここは過去なのか?あれが時空を超える魔法?そもそも本当に過去なの?幻覚とかそれこそ魅了魔法じゃないのか?
膝に力が入らないまま震える足でなんとか廊下の角を曲がり、もう一度トイレに行こうとしたところで、肩を掴まれた。
「っひ!」
「フィリデリア嬢…」
この声は…!慌てて後ろを向くと、制服を着用したザッティルーテ殿下が私の肩を掴んでいた。
声が出ない…恐怖と混乱でブルブルと震えていることしか出来なかった。
ザッティルーテ殿下は何度か息を吐き出した後、小声でゆっくりと話し出した。
「貴女は憶えているか?婚約破棄のことを…」
「!」
声が出ないけれど、何度も何度も頷いた。するとザッティルーテ殿下が私を抱き締めて来た。
「良かった……本当に良かったっ俺一人だけがここにいるのかと思っていた!クラスの皆も、卒業もその後の婚約破棄の事も知らないとばかり言うし…」
「…はい、私は憶えています…破棄されて、ザッティルーテ殿下と婚約しました…」
「そうだっそうだよ…あっ!すまん!令嬢に抱き付くなんて…」
パッと体を離したザッティルーテ殿下は顔を真っ赤にしている。その時、授業開始のベルが鳴った。思わずザッティルーテ殿下と顔を見合わせた。
「授業に出てみよう…」
「そうですね…」
因みに、私とビュイルワンテ殿下とユメカは同じ三年月組だ。ザッティルーテ殿下は星組だ。更に言うとビュイルワンテ殿下とザッティルーテ殿下は同い年だが数ヶ月、ビュイルワンテ殿下が先に産まれたのでザッティルーテ殿下はビュイルワンテ殿下を“兄”と呼んでいる。
正妃の御子なので継承権は一位なのだが、アイマジガチ勢からゲームの世界に潜り込んだ私から言わせてもらうと、実はザッティルーテ殿下の方が優秀だと思われる。
設定ではビュイルワンテ殿下が眉目秀麗の第一王子殿下とゲームでは紹介されていたが…学園の中間試験と期末試験…学年末試験では、いつも僅差でビュイルワンテ殿下が学年一位を獲得しており、二位はザッティルーテ殿下なのだが…これが意図的に行われているようなのだ。
ある時、試験終わりに解の答合わせをザッティルーテ殿下にお願いしてもらったのだが、簡単な設問の所で…答えを何度か言い直して私に伝えてきたのだ。その時は答えを憶えていないのかな?と思ったけれど、よくよく考えてみたら…そんな簡単な設問を学年二位の方が記憶していないわけがない。
ワザと間違えて点数を下げているのでは?という疑問が浮かんだのだ。そしてザッティルーテ殿下を調べた。
そうして調べていると…ワザと点数を下げていても、ビュイルワンテ殿下の方が点数が低くなってしまった時はわざわざ職員室に忍び込んで、自身のテストの答えを書き直して低い点数に改ざんまでしている、念の入れようだった。
そこまでして正妃の第一王子殿下を盛り立てて、自分は二番手にならねばいけないのか?
私は表面上は一番上でご満悦の、ビュイルワンテ殿下の後ろに静かに控えているザッティルーテ殿下のことをゲームの中に入って、うちの推し最高だ!と更に好きになったのだが…
結果はザッティルーテ殿下にも毛虫みたいに嫌われちゃったけどさー
さて…始業ベルと共に教室に戻った私はやはり…と確信を得てしまった。三年生なので科目授業は無く、卒業式の説明と卒業パーティーの参加時の注意事項の配布物を配ったり…で今日は終わりという事だった。
私はホームルームが終わるや否や、すぐに教室を飛び出した。星組からはザッティルーテ殿下も同じように飛び出している。
「こっちだ!」
ザッティルーテ殿下と連れだって歩き、廊下の角を何度か曲がって空き教室に飛び込んだ。
「俺の記憶が正しければこの後…帰宅しかけていたフィリデリア嬢を捕まえて、兄上と俺達が嫌味を言っていたはずだ。ここに隠れていれば兄上達も捜しには来ないだろう」
「あ…そういえばそんなことありましたね~あの、やはり…ここは過去、なのでしょうか?」
私は唾を何度も飲み込みながら、ザッティルーテ殿下に聞いてみた。殿下は顎に手を当てて暫く考え込んでいたが
「もし…過去だとして、このままいけば一週間後に卒業式で卒業パーティーだな…」
と、言ってきた。私が頷くと殿下は何度か頷いた後にこう告げた。
「フィリデリア嬢には申し訳ないが、卒業式までの間…俺と行動を共にしてくれないか?」
「えぇ!?」
「確か…ラデンリング公に婚約破棄の件を事前に打ち明けていたと言っていただろう?少し時期が早まるが、俺が婚約破棄の後にフィリデリア嬢と婚約することを前もって話しておけば、貴女と共にいてもラデンリング公は訝しがらないだろう?」
いやあの?父は訝しがらないだろうけど…周りが良しとしないんじゃあ…
私が狼狽えていると、ザッティルーテ殿下は更に畳み掛けてきた。
「では、前倒しで婚約破棄を先にしてしまうのはどうだろうか?何も卒業パーティーの日までのんびりと破棄を待たなくてもいいだろう?兄上は既にユメカと恋仲だし…どうだ?」
「…っ!そう、ですわね…」
確かにそうだ。何も卒業式の日までご丁寧に待っていなくてもいいじゃないか。こうなったら”断罪イベント”そのものを無かったことにしてしまうのも、アリかもしれない。
私からイベントを起こさないように動く……もう覚悟を決めた、シナリオを掻き回してやる。
「はい、事前に破棄の手続きをお願いします!」
私が力強く頷くと、ザッティルーテ殿下も笑顔で頷き返してくれた。
しかしザッティルーテ殿下が憶えていてくれてここにいてくれて、本当に良かった…こんな訳の分からない状況に私だけの独りぼっち状態だったら、オロオロするばかりで怖くて何も出来ずに泣いていたかもしれない。
ザッティルーテ殿下は私を促すとすぐに王城に足を向けた。
そしてその足で国王陛下に謁見し、過去に戻って云々は伏せておいて…兄上とフィリデリア嬢の婚約破棄をすぐに行って欲しい、そしてすぐに自分とフィリデリア嬢との婚約を結ばせて欲しいとお願いをした。
行動が早い…そして国王陛下も即決するとすぐに、ビュイルワンテ殿下を呼び出した。
呼び出されたビュイルワンテ殿下は、この急展開に怒ったり怒鳴ったり…をしていたが、国王陛下に叱られて状況を重く見たのか、渋々だが婚約破棄に応じてくれた。
そして破棄の後、すぐにザッティルーテ殿下と私は婚約誓約書に署名をした。
素早い破棄&婚約だった。ドライブスルー並みだった…いや比べるのがおかしいけど
「これで卒業式の日まで破棄だなんだと、気鬱にならないで済むよな!」
ザッティルーテ殿下は何だか上機嫌だな…まあ最推しが嬉しさのあまりか、キラキラのエフェクト効果を体中に纏ってくれているのは非常に尊くて、先程から心のスクショを連写して止まらないし、心の推し攻略アルバムにロック付きでその笑顔のスチルを厳重保存させてもらうほどの有難みだけど……あのぉ?聞いてもいいかな?
「殿下…」
「なんだ?」
王城からラデンリング公爵家までザッティルーテ殿下と私だけで、徒歩移動していることも問題ありだけど、殿下の手が、ね?手が私と恋人繋ぎをされていらっしゃるのだけれど、どういうことだ?
「どうして手を繋ぐのでしょう?」
「婚約者だろう?」
「はあ…まあ…そうですが」
そうして公爵家のタウンハウスに帰って来て、手を繋いだ私と殿下を見て父は…なんとか悲鳴をあげずに踏ん張っていた、うん。
今、王都のタウンハウスには父のみが滞在している。母と兄妹は公爵領に住んでいる。婚約破棄の事を連絡したら、すぐに帰って来いと言ってくれて心配してくれているのだけど、今度は第三王子殿下のザッティルーテ殿下と婚約したと伝えたら…お兄様は怒るだろうなぁ
「…という訳で、卒業パーティーは私がエスコートするので、宜しく頼む」
公爵家のタウンハウスの客間に案内されたザッティルーテ殿下は、ご機嫌な様子で父に破棄&婚約の説明をしていた。
「は…はぁ…フィリーえっともう婚約を済ませたのか?」
父は一応、私にも再確認をしてきた。
「ええ、国王陛下立ち合いの元、ザッティルーテ殿下と婚約致しました」
父は顔を引きつらせながら頷いている。
「確かに娘は醜聞に晒されるところでした。殿下、ご配慮頂きありがとうございました」
父は膝を突いて殿下に頭を下げた。私も父に倣って淑女の礼をした。
ザッティルーテ殿下はやはり行動が素早かった。その日はすぐに帰られたのだが、次の日の夕方に再び公爵家のタウンハウスを訪れて
「卒業パーティーの時に付けて欲しい」
と、コバルトブルー色のイヤリングとネックレスを贈ってくれた。
こっ…これはぁぁぁ!!!好感度が最高値に達した時に攻略キャラから贈って頂けるレベルアップ記念のアイテム!?
推しに贈り物を頂いてしまった!!
「ハァ…ハァ…」
鼻息が荒くなってしまった。
「大丈夫か?」
「はひぃ……」
推しの贈り物の威力が半端ない……




