聖なる祈りとは…
不良品を生み出す制作会社の名称が…まさに、やじられ空耳してしまう某〇〇〇ーから発売された大正だか明治だかをオマージュした恋愛シミュレーションゲームがある。
とあるシーンで「お好み焼きパーティーだ」と騒ぐキャラ達。大正、明治時代にお好み焼きなんてあったか?なんてツッコミながらスチル絵を見ると、ソース塗り過ぎや!な真っ黒なお好み焼きしかテーブルに乗っていない、お好み焼きパーティーもどきスチル。粉もんだけではしんどいですわ…
しかしそんなスチルは序の口だった。
別の攻略キャラルートで「今日は豪華な食事だ」わーーい(*^▽^*)スチルが表示された……
お好み焼きのスチルやんけ!スチルを使い回しするな!
今考えると剣が擬人化したり(人間が剣にだったかな?)と刀〇乱〇のハシリでもあった気がする。内容は無いようだったけれど…
ツッコミ過ぎて胸やけしました。クソゲーハンターの皆様宜しくお願いします
「“聖なる祈り”が伝承通りではない…」
この世界には聖なる祈りを習得した乙女の伝承が残されている。“邪気を払い清めてくれる祈り”伝承ではこうだが、ユメカのアレは傀儡魔法?とか魅了魔法の類だと考えている。
それがゲームの力だよ!と言われたら、そうですか…と言わざるを得ないけど、詳しいことはユメカに聞けとしか今は言えない。
少なくとも今の段階で言える事は無事に断罪イベントも終わり、本来ならフィリデリアが暴れて捕まってそのまま国外へ放り出されるイベントを終え、そして時は流れて…のモノローグの後に、いきなり攻略キャラとユメカの結婚スチルが出てEDを迎えるシナリオだったはずだ。
つまりフィリデリア…私の出番はもう終わった訳だ。
しかしよく考えたら、断罪イベントが終わってから攻略キャラと結婚に辿り着くまでの恋愛の過程をプレイしてみたかったよ。
それに今思い出したけど…どういう訳だか、フィリデリア=ラデンリングの断罪イベントと追放シーンのイベントが、やけに力の入った美麗スチルが多くなかった?悪役令嬢のスチルに力入れるなんておかしくない?
そりゃ主人公の絵的にスチルに力入れても平凡ぼーーんな顔だから、美形のフィリデリアたんに力入れちゃお♡とか作画スタッフが思ったのかもしれないが…ゲームの外の大人の事情なので真相は闇の中だ。
何だか段々腹が立ってきたな…
製作会社も変な祈りとか主人公に盛ってる暇があるなら、思いが通じ合った後の主人公と攻略キャラのイベントをもっともっと充実させて欲しかったわ。まあ今の私には関係ないけど。
目を閉じて妄想に浸っていたが、ザッティルーテ殿下に「フィリデリア嬢…」と声をかけられたので、目の前に座るザッティルーテ殿下とシースリア=クルト様を見た。瞬きをして息を吐き…そして私を見詰める目は生きている人間の瞳だった。
そう彼らは攻略キャラではない…この世界に生きている血の通った方々だ。気持ちを切り替えよう。
「もう少し聖なる祈りを調べてみよう。それと…どうやらフィリデリア嬢は…あ、いやこれも決まってからでいいか…」
帰られるザッティルーテ殿下とシースリア様をお見送りしようと玄関先に移動中、そんなことを言いかけて…何故か途中で止めてしまったザッティルーテ殿下。
言いかけて止めるのすごく気になるわ…
ザッティルーテ殿下は言いかけて止めた後、私の方をジッと見てくる。
「……なんでしょうか?」
「いや…フィリデリア嬢は普段はあまり化粧をされないの…だな」
「!」
断罪イベントも終わったし、国外追放にならなくても公爵領に引っ込んで、のんびりしようと思っていたので……油断してましたのよ。そこへ急に尋ねてくるあんた達が悪いんだよ?
……とは言えないので
「外に出かけない時は化粧はしませんのよ…ホホホ」
とだけ返しておいた。
そんな攻略キャラ達が帰った次の日に、早速王城からの呼び出しがあった。
『婚約破棄の正式手続きとその他諸々、今後の話もあるので王城に登城されたし』
そうか、うっかりしていた。破棄申請?の署名をしないといけないんだった。こんなところだけしっかりしたシナリオなのが、また恨めしい。
日常イベントは適当でいいから恋愛イベントに注力して欲しいもんだ。
「フィリデリア、準備出来たかい?」
ここで初登場の父である。ゲームではラデンリング公爵は立ち絵もないモブキャラだけど、実際の父はアラフォーのカッコイイおじ様だ!ちょっと強面顔なのもいいよね!
そんな私、ちょっと父に顔が似てますが……断じて強面顔ではありません!
「はい、お父様」
という訳で強面顔(私は断じて違う)親子で王城に登城した。
案内された大広間には国王陛下、国王妃(ビュイルワンテ殿下の母)、側妃(第二王子ソシャルーデ殿下とザッティルーテ殿下の母)、そして新たな婚約者候補のミレンダ=カヴァーゲル様、ビュイルワンテ殿下、ザッティルーテ殿下が揃っていた。
因みに第二王子のソシャルーデ殿下は病弱で寝込んでいる為に不参加だそうです。
ユメカがいないのは、ビュイルワンテ殿下の「恋人」だからだろう。正式な婚約者でもないのにこの場には入れない。
フト、視線を巡らすと新しい婚約者候補のミレンダ様と目が合った。
あんたは上手く逃げたわね
ミレンダ様はそんな目をしている……ような気がする。
そう、この広間にいるビュイルワンテ殿下以外の皆様は、物凄く警戒している。またビュイルワンテ殿下が何か言い出すのではないかと…
そして一同が席に着席したと同時に国王陛下が口を開いた。
「此度はビュイルワンテがフィリデリア=ラデンリング令嬢に多大なる心痛と謂れなき咎を…」
ん?
「恥ずべきはビュイルワンテのほうで…」
んん?
国王陛下は一介の貴族子女の私に向けて謝罪を口にし始めた。前代未聞じゃないかな…陛下がジロジロとビュイルワンテ殿下を見ながら、初めボソボソ今激高状態になって…いつの間にか私への謝罪からビュイルワンテ殿下への説教に変わっている。
これ…いつまで聞いてなきゃいけないのかな…と、ビュイルワンテ殿下をこっそりと見てみると、唇を噛み締めて俯いているではないか。
てっきり陛下に言い返したり、私に罵声を浴びせてくるとか…そういう暴れかたをするかなと思っていたのだが、拍子抜けだ。
更にビュイルワンテ殿下の隣に座るザッティルーテ殿下も見てみると、目が合って苦笑いをされた。
これは頑張って耐えよ…ということか?
「いいかっ!分かっておるのかっ!?」
一層声を張り上げて国王陛下が怒鳴った。
「はい…深く反省をしフィリデリア嬢にも謝罪し…ミレンダ嬢を迎え、日々精進してまいります」
な……なんと!あれほどユメカーユメカーと叫んでいたビュイルワンテ殿下がしょぼんとしているし、私に謝るだってぇ!?
ビュイルワンテ殿下は私の方を向くと
「フィリデリア嬢…今まで済まなかった。ユメカ=サザンス男爵令嬢と…上手く説明は出来ないが、何かに取り憑かれていたかのようにあのような非道な行いをし、今でも自分が信じられない。謝っても済まされることではないが許して欲しい」
私はビュイルワンテ殿下の謝罪を聞きながら血の気が引いていた。
今、ビュイルワンテ殿下は何て言った?何かに取り憑かれていたようだったって言ったよね?それにザッティルーテ殿下も言ってたよね?何故あんなに執着していたのか分からない…時間が過ぎれば過ぎるほど不可思議に思えてくる…と。
もしかしてそれも“聖なる祈り”の力なの?
私はゲームの中の主人公しか分からない。今ここにいるユメカ本人はどう思っているのだろうか。
「うむ…今更嘆いても仕方があるまいな、ではビュイルワンテとフィリデリア嬢の婚約破棄の手続きを行おう…そして新たにザッティルーテとフィリデリア嬢との婚約手続きをしよう」
…………ほわっ?ええ?なんて言った…?
あまりの衝撃に茫然とする私に構うことなく、ビュイルワンテ殿下は婚約破棄の書類に署名してしまった。
「フィリデリア嬢…」
テーブルを回って来た、ザッティルーテ殿下が座っている私に手を差し出したので、殆ど無意識にその手のひらに指先を乗せてザッティルーテ殿下に導かれて立ち上がっていた。
ザッティルーテ殿下は爽やかで美しい笑みを浮かべていた。キラキラしてる…今エフェクト効果がかかっているのかな?
「驚かせて済まないね、兄上と破棄した後…私と婚約するということで貴女の醜聞が広がらないようにしようという話になってね。兄上と共にフィリデリア嬢を辱めた私にも責任がある…貴女の助けになるつもりだ、その為にも婚約を申し入れたい」
エフェクト効果に目がシパシパしている間に、別の書類…婚約誓約書なる書類を渡されていた。
あ…ああ、なるほどね。王族の恥を晒さない為にもビュイルワンテ殿下(第一)→ザッティルーテ殿下(第三)に私をスライドさせるってことなのね。
政略婚だね、ビュイルワンテ殿下の時だってそうだったけどね。はあ…まあいいか。元々推しメンだったザッティルーテ殿下だし、ゲームとは性格は違う感じだけど…顔面はそれでも最推しだし、もうお顔を愛でて楽しむしかないよね。
ザッティルーテ殿下に手渡されたペンを受け取り、誓約書に署名を書き入れるとザッティルーテ殿下は私の手の甲に口付けを落とされた。
「これで婚約成立だ…」
「はい…」
その時、大きな音をたてて大広間の扉が開かれた。
ユメカだ!
ユメカは大広間に居た一同をグルリと見た後に、ミレンダ様を見て叫んだ。
「なんであんたが婚約者になるのよっ!もうすぐエンディングだったのにぃぃ!何か間違えたの?選択肢?時間?場所…もしかしてイベント起こす順番とかあったっけ?ああっもうっもうぅ!!ちゃんと好感度上げたはずなのに…どうしてよっ!!!」
一気にそう捲し立てると、部屋に入ろうとしたユメカを近衛が止めに入った。
「下がれっ!王族方以外は立ち入りを禁止だ!」
ユメカは近衛に押されて廊下に押し戻されようとしていた。
「ちょ…ちょっと!ビュイルワンテ!ザッティルーテ!私を助けてよっ!ビィー!ザック!」
興奮し過ぎて、ゲーム攻略のことを叫びまくり、王子殿下二人を愛称で呼び、私は内心ガクブルしていた。そして…恐る恐るビュイルワンテ殿下を見ると、怖い顔でユメカを睨んでいた。
どういう原理かは分からないが“聖なる祈り”の効果のようなものが無くなり、ユメカへの想いも消えたのかも…
「ユ…ユメカ=サザンス男爵令嬢は、今後一切王城に出入り禁止だ!」
ビュイルワンテ殿下が叫んだ。ああ…とうとうエンディングが起こらずに…バッドエンドかどうかは分からないけれど、別のエンディングに行くのか…
そのビュイルワンテ殿下の言葉を聞いたユメカは、目を見開き暫く固まっていたが、また大声で叫んだ。
「こんなの…こんなのダメ…リ…リセットそうよ、リセットよぉぉぉぉ!リセーーーーーット!」
ブツブツ言っていたユメカが何か言葉を叫んだ瞬間、辺り一面を光りが覆った。
「…っ!」
あまりの眩しさに目を伏せようとした時に、ザッティルーテ殿下が抱き寄せてくれた気がした。そしてザッティルーテ殿下の胸の中で何か起こるのかと身を硬くしていたが、暫く待っても何も起こらないので目を開けて……驚愕した。
「ここ……どこ?」
いや…どこかはすぐに判明した。上を見て横を見てトトメーラ学園のトイレの中だと分かった。
学園のトイレ?
そんなばかな、トトメーラ学園はもう卒業したじゃないか…それなのに何故トイレの中?もしかして転移魔法でも発動した?
慌ててトイレから出ようとして、トイレの洗面台の鏡に映った自分の姿にギクッとなった。
私…トトメーラ学園の制服を着ている
ザッティルーテの一人称で補足を…公的な場面で『私』私的な場面などでは『俺』となっております。