ユメカはどこに?
学園でヒエラルキーのトップになる為に、カーストの最下位の学生を苛めて…とかいう恋愛ゲームなのに苛めが主体になっているような胸糞鬱ゲーを買ったことがありました。
はっきりと「いじめを助長するようなシーンが満載です」とか「これは胸糞展開が満載です」とでも表記しておいてもらったら避けようがあったのですが、見事に地雷を踏み抜いてしまいました。
私の掲載作品全般を見て頂いたら何となくお分かりかと思われますが、鬱系や残酷系や仄暗い感じのお話がそんなに得意ではありません…苛めシーンのスチルを思い出して胸糞悪かったです。そんな系統が好きな人がいるのは理解しております。買った自分が悪かった
クソゲーハンターの皆様宜しくお願いします
ザッティルーテ殿下は私をビュイルワンテ殿下の元へ連れて行ってくれた。貴賓室で待っていたビュイルワンテ殿下の隣にはミレンダがいたぁ!ミレンダは私を見ると、パッと笑顔になった。
「フィリ!」
「ミレンダ!」
走り寄ってミレンダに抱き付いた。子供のミレンダも可愛い!
「揃ったな…皆に報告がある」
ビュイルワンテ殿下がそう切り出したので、私達はビュイルワンテ殿下を見た。ビュイルワンテ殿下もプニプニのモミュモミュで可愛いな(再び語彙力低下中)
「ユメカ=サザンスの件だが…今はユメカはサザンス男爵家にいない」
「え?」
ビュイルワンテ殿下はそう言って資料の様なものに目を落とした。もしかして私が夏だ、おばあちゃまだ!と遊んでいた間に殿下達はユメカの事を調べてくれていたのかな…すみません。
ビュイルワンテ殿下の話の続きをザッティルーテ殿下が引き継いだ。
「俺は前に過去に戻った時に、サザンス男爵家を調べた。ユメカは10才の時に男爵家に引き取られている。ユメカは元々は妾の子供だ」
「10才…もしかして…」
私が呟いた時にザッティルーテ殿下が「そうだ」と私の肩に手を置いた。
「俺達が10才の時に戻ったことがあっただろう…俺達にしてみたら何故そんな年の頃に戻ったのか、疑問だったけれど…ユメカにして見れば男爵家に引き取られて男爵令嬢になった年なんだ」
「だからその時代に戻った…そうなんですね!」
そうか…10才なんて中途半端な年令に戻ったな~と思ってたけど、ユメカにはちゃんと理由があったんだ。
これは私が検証していた
その①ユメカは何故デビュタント前まで過去に戻したのか?
これの答えが分かった気がした。
「ユメカは男爵令嬢になった時から戻ってやり直そうとしていた…とか?」
ビュイルワンテ殿下は手に持っていた資料の紙を何枚か捲って、頷いている。
「現在、男爵家には正妻とその嫡男がいる」
ザッティルーテ殿下がその後に続けて言った。
「このまま行けばユメカが10才の時に馬車の事故で正妻と嫡男は事故死するはずだ…ユメカは何か目的があって7才のこの時に戻って来たのだと思う」
目的…そうだ、ユメカの立場になって考えよう。
あくまで、ユメカが愛と星のマジワートを攻略をしたい!ということを前提に動いているとして…
一回目のリセット→18才…卒業の一週間前【結果】攻略失敗
ニ回目のリセット→16才…編入初日【結果】攻略失敗
三回目のリセット→10~12才…男爵令嬢になる【結果】?
四回目のリセット→18才…三回目と同じ時間軸【結果】?
五回目のリセット→18才…断罪イベント直前【結果】攻略失敗
三回目と四回目以外は私とザッティルーテ殿下がぶっ潰しているので失敗した…とはっきり分かるのだが、やはりユメカは移植版をプレイしたいという感じがする…それを考えて
ユメカの推しはずばり、カフェのオーナー、レリオット=スシリスだと思われる。
つまり…三回目のリセットの時にカフェのオーナーに会いに行って、大人になってから来いや!と追い返されたので四回目のリセットで18才になってオーナーに会いに行った。そして何らかの理由で…オーナーに向かって“聖なる祈り”を使った。仕方なく使ってしまったのか、何か目的があって使ったのかは謎だ。
そして四回目のリセットでも、自分の望むシナリオじゃなかったと判断して五回目…そして六回目の現在のこの状況だ。
ザッティルーテ殿下とビュイルワンテ殿下は共に腕を組んで唸っている。
「今の段階でユメカ=サザンスは法を犯している訳じゃない。おまけに私達を害する魔術を使って来る訳では無い…困ったな」
ビュイルワンテ殿下はそう言って私の方を見た。いやぁ~見られても妙案が浮かぶ訳ではないけど…
「過去に戻っているだけで、こちらの被害なんて実際は無いものな…敢えて言うなら、何度も勉強やらなきゃいけないのが面倒…とか?」
「ザックの言う通り、それだな!苦手科目の試験を何度も繰り返すのは困るな~」
こらこら王子達?論点がズレてますよ?
結局…時々ユメカの現状を探って、報告させるのが精一杯という結論に至り、私達は通常通りの生活をすることにした。
ビュイルワンテ殿下はミレンダと婚約を…ザッティルーテ殿下は私と婚約を…この時間軸でも殿下方の想いはブレないらしい。
私もミレンダも勿論、それで良いし…寧ろその決断をしてもらって嬉しい。私達は面倒ではあるが…再びまずは10才を目指して成長していくことになった。
両親も祖母も兄姉達も皆、私とザッティルーテ殿下の婚約を喜んでくれた。
そう、リセットをされて良いことの一つに、おばあちゃまが亡くなる前にザッティルーテ殿下を
「将来の私の旦那様です」
と紹介出来たことがある。おばあちゃまは初秋には体調を崩して寝込んでいたが、枕元に見舞いに訪れたザッティルーテ殿下のプニプニな可愛い顔を何度も撫でていた。
「ありがとうございます殿下…孫を末永く慈しんであげて下さいませ」
「ああ…勿論、私の妃はフィリデリアしかいない」
もうすぐ8才が口にする台詞じゃねーーー
おばあちゃまは嬉しそうにニコニコ笑っていた…そうかもう耳が良く聞こえないんだね…確実に死へと近付いている。
シナリオには無い流れでも、祖母は以前亡くなった時と同じ日に亡くなった。変わっているようで変わっていない世界だと改めて思った。
そんな私達の元にユメカが動き出した…という情報がもたらされた。
ユメカは公共の転移魔法陣を使ってザレという街に向かおうとしていたらしい。だが、転移魔法陣は12才以下の子供は親、または成人した保護者同伴でないと陣を使うことは許可されないのだ。
転移陣乗り場で揉めて、保護されたユメカと話をする為に皆で会いに出かけた。
因みに私とミレンダはかなり離れた所からの様子見しか許可されなかった。
「また魔法を発動されたら困るだろう?術式の効果範囲外で待機!」
ザッティルーテ殿下にそう言い付けられてしまった…悔しいっどんな話をしてるんだろう?
遠くから望遠鏡を覗き込みながらユメカの様子を窺う。
「何か…興奮して言い募ってるわね?」
ミレンダは上品なオペラグラスを持って見ている。私だけ〇本野鳥の会みたいな、いかつい望遠鏡ですが、なにか?
ユメカは怒ったり、俯いたりした後…急に笑顔になって何度も頷いている。そして…ユメカはビュイルワンテ殿下の部下の方と数名の近衛を連れて転移門に乗って転移して行ってしまった。
「あら?転移しちゃったけど…どういうことなの?」
ミレンダと見詰め合って首を捻った。
ザッティルーテ殿下達はすぐに私達の所へ戻って来た。詳しい話を聞きたい!と、うずうずしている私とミレンダの顔を交互に見てニヤリと笑って見せた殿下達。そして
「一度あそこへ行って話をしよう」
と、そう言って誘ってきたのだが…あそこってどこだ?
ニヤニヤ笑う殿下達と共に転移陣で王都に戻って来て、案内されたのは…
「カフェ・マジワート!」
あの問題の…カフェ・マジワートの店内に私達は踏み込んでいる………あれ?
まだ若いイケメーーンなオーナー(移植版攻略キャラ)の横に可愛い女性が、エプロンを着けて微笑んでいた。その女性の後ろから私達と同じ年位の男の子が顔を覗かせている。
窓際の席に座ったちびっ子の私達の所へ、オーナーが笑顔でオーダーを取りに来てくれた。
「うちのエイバンと同じ年くらいかな?」
「うちのエイバン?」
思わず私がオウム返しをすると、オーナーがカウンターの中からこちらを覗き見している男の子を指差した。
「息子のエイバンだよ」
「えぇ!?」
息子のエイバン…え?移植版でバリスタとしてカフェマジワートで働いていた攻略対象のエイバン君がオーナーの息子?
そう言えば…私は移植版はプレイをしたことがない…事前情報として移植版の発売前に発表された新キャラクターの、オーナーの年令と職業…エイバン君の年令と職業しかしらない。
もしかすると…攻略が進むと実は二人は親子だった!というようなシナリオが出て来るのかもしれない。ちょっと待てよ?じゃああのエプロン姿の可愛い女性は誰なの?
「あ…あの方は?」
私がエプロン姿の女性を見ると、私の声が聞こえたのか…その可愛い女性は笑顔を向けてくれた。
「ああ僕の奥さんだよ」
なんだってぇ!?
衝撃で固まっている私を無視して、ビュイルワンテ殿下とミレンダはケーキと飲み物を頼んでしまった。
「フィリは何を頼むの?」
ミレンダにメニュー表を見せられて、まだ茫然としている私は今月のお薦めと書かれていた、ジャンボミックスフルーツロールケーキとココアを頼んでしまった。
「それ本当に食べるのかい?」
オーナーに聞かれて、気もそぞろに返事を返して…大皿に乗せられた特大ロールケーキが目の前に置かれたことで正気に返った。
しまった…大き過ぎた。
「フィリ…俺も手伝うよ?驚かせてしまったみたいだしね…」
ザッティルーテ殿下が苦笑いを浮かべながら、チラリとオーナーの方を見ている。
そうか…殿下はオーナーのことを事前に調べていたって言ってたっけ。当然オーナーが結婚していて息子さんがいることも知っていたんだね。
「今…ここでは詳しくは話さないが、ユメカは何か勘違いというか思い込みが凄すぎておかしなことになっているようだ。おまけに彼女の話している言葉の八割は…俺には異国語に聞こえるくらい何を言っているのか分からなかった」
「え?」
ザッティルーテ殿下が大きな溜め息をつきながら、ビュイルワンテ殿下を見た。ビュイルワンテ殿下も苦笑いを浮かべながら、魔石?を手に乗せて私とミレンダに見せてくれた。
「女性の方がユメカの話す言葉が分かるかな~?いや性別は関係ないか…兎に角、フィリデリアが近付けないからユメカの話の内容が気になるかと思ってな、先程の会話を魔石に記録しておいた」
「まあ、良かったわ!気になってたの~ね?フィリ」
「うぇ?お…おうぅ…はい」
驚いでミレンダのフリに変な受け答えをしてしまった。会話を記録?録音かな?いやぁ便利だね!これでユメカが何を喋っていたのか後から確認出来ると分かって、安堵した。
さて、そうと決まれば…
私は意気揚々と目の前のロールケーキを口に入れた…美味しいっ!!
…但し勢いがあったのは最初だけだった。三分の一ほど食べ進めた辺りで、ゲップが込み上げてきた。
ザッティルーテ殿下もおまけにビュイルワンテ殿下までもが、ロールケーキを切り取って食べてくれている。
私は思い切って手を挙げた。
「はい~」
オーナーの奥様が笑顔でテーブルに来てくれた。
「ロールケーキ持って帰ります!包んで下さい!」
私が声高らかに奥様にそうお願いすると、王子達が体を仰け反らせた。
「嘘だろっ!」
「ええっ!?」
「包む?え?」
ザのつく王子とビのつく王子とミのつく貴族のご令嬢には「食べ残しを持ち帰る」という勿体ない精神は無いようでした。
少々時間が過ぎていても美味しく頂けるよ!私的には明日食べてもOKなくらいだ。
鼻息も荒く包んでもらったロールケーキを受け取った。奥様はそのロールケーキをオレンジ色のカフェマジワートのロゴ入り紙袋に入れてくれて、更に更にお土産に焼き菓子までプレゼントしてくれた。
「まだお腹が小さいものね?食べ過ぎちゃだめよ?」
そう言ってオーナーの奥様は慈愛の籠った目で私を見て微笑んでくれている。
ユメカってばこんな素敵な奥さんがいるのに、オーナーを攻略しようとしていたの?ナイナイ!
……ナイよね?
誤字ご報告ありがとうございます。毎年言っている気もしますが、梅雨の時期は誤字レーダーが狂いますね〜アハハ……申し訳ありません_(._.)_
 




