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 教室に残された知世は、晶紀の様子からただ事ではないと感じ、佐倉に電話していた。

『どうした? 知世』

「晶紀さんの様子がおかしいのです。おそらくB棟の屋上で何かが」

『解ったすぐいく。お前もこい』

「えっ、でも晶紀さんにここに居ろと」

『教室に寄るから、儂の後に付いて来い』

 電話が切れると、知世は階段付近で佐倉が上がってくるのを待っていた。

 すると、屋上側から数人の生徒が慌てたように階段をおりてきた。

「何見て……」

 一人が言いかけると、一番、怖そうな生徒(じょし)が制止する。

「やめろ」

 するとその連中は急にゆっくりと階段をおりていくようになった。

 生徒達が去った後、しばらくすると佐倉が階段を上がって来た。

 知世は佐倉を追って上がる。

 佐倉が屋上の扉を出ると、入れ違いに石原が屋上の入口の前に現れた。

 知世が避けようとすると、石原はフラフラとその方向に倒れ込んできた。

「えっ?」

 知世は必死にその身体を支えようとする。

「な、なに、なんで……」

 重い。石原がモデルだとは言え、それほど極端な身長差はない。支えられるはずだと知世は思った。しかし、知世がしがみついて支えようする女性はまるで鉛のように重くそのまま知世は倒れてしまった。

「い、石原さん、だいじょうぶです…… か」

 目の前が暗くなり、知世の意識は飛んでしまった。




 佐倉は屋上で剣道着を着た女が、晶紀の神楽鈴を叩き落すのを目撃した。

 木刀を持った剣道着の女は、前髪を左右に均等に分け、後ろの高い位置で一つに結っていた。ただ、この見かけは信じられんな。と佐倉は考える。何かが体中を覆っているようだった。覆っているものには、姿形を変えているだけではなく、強い殺気を感じる。何か強い霊が憑依していて、それが姿形を覆い、変えているのだ。

 それより、晶紀の様子が変だ。右手をだらりと下げた様子から、怪我をしていることは感じられた。それ上に、なにか、気力を感じない…… この状態では、龍笛を吹いて晶紀を鼓舞するのでは間に合わないだろう。

「おぃっ!」

 佐倉は声をあげる。視線だけ一瞬佐倉に向けるが、道着着た女は晶紀の方に木刀を向けたままだ。

「聞こえないのか」

 佐倉は道着の女をけん制しながら近づく。

「儂のみたところ、おぬしは教師じゃな。この学園の教師」

 半分ハッタリで、半分は推測だった。

「……」

 木刀を持っている右手を離し、その手で顔を覆った。

「ちがう……」

 道着の女が、晶紀に出会ってから初めて『音声』として声を発した。その声は、合成されたようにピッチがズレて聞こえてくる。

「どうやら図星のようじゃな」

「違う!」

 ピッチがズレたケロ声が、さらに裏返って聞こえる。

「この場で本当の姿を暴いてやる」

「!」

 道着の女は、突然、走り出すと、馬跳びの要領で屋上のフェンスに手を付く。

 高く跳躍すると、あっという間にA棟の屋上へ着地した。

 さらにA棟の向こう側へと落ちていくように姿を消した。

「逃げた……」

 佐倉がそうつぶやくと、晶紀が力尽きたように倒れ込んできて、それを抱きとめた。

「晶紀、しっかりしろ」

「指が、足首が……」

「しっかりつかまれ。今、保健室に連れて行ってやる」

「なぜ佐倉には正体が分かったんだ?」

 佐倉は、晶紀を背中に背負いながら説明した。

 以前、知世と晶紀を襲った男の一件以降、学園内の警備が厳しくなっていること。であれば、術をかけられた超人的な人物だとしても、騒ぎを起こさず学園内に侵入することは難しいだろう。そこから推測すると、剣道着の女の『中の人』はもともと学園内にいた者ということになる。最初から学園内にいる人間だとすれば『教師』か『生徒』のどちらかだ。そして、相当の腕前の持ち主ということになる。

「なるほど」

「ここで何があった」

「いじめを止めにきたんだ」

「すまぬ。話しは後だ」

 そう言って、佐倉は足を止めた。

 佐倉が足を止めた理由は、話しが聞きたくないとか、そういう意味ではなかった。屋上の出入り口付近で、知世が倒れているのに気づいたからだった。

「知世!」

 佐倉は晶紀を下ろして、知世の様子を確認する。

 呼びかけても反応はない。息はある。鼓動は聞こえる。

「知世、知世、起きろ」

「知世っ!」

 佐倉が知世の背中に、気を入れると目を覚ました。

「あっ、晶紀さん」

 知世は立ち上がって晶紀を抱きしめる。

「知世、無事で良かった……」

 晶紀の様子が変だったが、同じぐらい知世も様子が変だった。立ってはいるが手足が震えているようで、どこか力ない感じがする。

「知世、ここで何があった?」

 と佐倉が割り込んでくる。知世は振り返る。

「佐倉先生の後を追って、扉を出た瞬間に、石原さんとぶつかって」

「石原さん?」

 晶紀は石原と聞いて、さっきここから下の教室に聞こえてきた会話を思い出していた。『お前、モデルだからって調子に乗りすぎ……』とか『こいつがモデルって言ったって……』などと言っていた。石原も確かモデルだと聞いている。この屋上にいて、モデルがいじめられていたのなら、石原がいじめの被害者ということになる。

「ぶつかったら、何か力が抜けてしまったようになって」

 言いかけた、知世はまだ力が入らないようにふらつく。とっさに晶紀が知世を支える。支えた晶紀の顔が苦痛で歪む。

「痛っ……」

「だ、大丈夫ですか?」

 佐倉が二人の間に入って、二人に肩を貸した。

「知世は、どうやらその石原という生徒に霊力を抜かれたようじゃな」

 三人はゆっくりと、一歩一歩歩き始める。

「どうしてそんなことが分かるのですか?」

「おぬしに触れてみた感じじゃな。体が軽い感じがする」

「えっ、もっと霊力を抜かれたらもっと体重が軽くなりますか?」

 佐倉は知世の方を見て言う。

「『軽い』というのはたとえじゃ」

「なんだ……」

「それどころか知世、霊力を抜かれるのは危険なことなんだよ。霊力をすべて抜かれれば、それは死に繋がるんだから」

「……」

 知世が怯えたように縮こまった。




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