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7 弱者との遭遇、強者との遭遇

「ギャアアア!?」

「死ぬぅうう!?」

「もう駄目だぁああ!?」


 初心者ダンジョンの監視や、出入りする冒険者の管理をする関所みたいな場所を通り、中に入ってからしばらくした頃。

 襲いくるゴブリンやコボルト、スライムなんかの雑魚モンスターの代名詞を蹂躙して先に進んでる内に、前方からそんな悲鳴が聞こえてきた。

 ダンジョン内の壁に遮られると感知のスキルが上手く働かなくなるので、気づくのが遅れた。

 声の感じからして、かなり切羽詰まってそう。


 慌ててダンジョンの壁をぶち抜けば、感知のスキルが危機に陥ってるっぽい三人の人の気配を捉えた。

 その後ろから猛スピードで三人を追いかける魔物の気配と一緒に。

 急いでダッシュし、その人達が視界に入る位置まで来れば、彼らが何に追い立てられていたのかよくわかった。


「ブモォオオオオ!」


 彼らを追いかけているのは、黒い牛だ。

 ミノタウロスとかそういうんじゃなくて、姿形は大きめの牛にしか見えない完全な牛型。

 でも、ダンジョンにいる以上、あれはただの牛じゃない。

 ブラックモームという魔物だ。

 人類が定めたランクでいえば、危険度D。

 つまり、D級の冒険者パーティーが相手をするのに相応しい魔物。

 この初心者ダンジョンでは、ダンジョンボスを務めていても不思議じゃない強さの魔物だ。

 あと、暴れ牛という事でボヴァンさんを思い浮かべたけど、当然、無関係である。


 あ、いや、よく見たら無関係でもないかもしれない。

 暴れ牛に追いかけ回されてる三人組に見覚えがあった。

 さっき、ボヴァンさんをチビハゲデブの三重苦だとバカにしてた人達だ。

 暴れ牛の異名を持つ冒険者をバカにした人達が、暴れ牛に追いかけられて死にかけるなんて。

 なんという皮肉。

 どうしよう。

 助ける気が失せてきた。


「あ、人だ!?」

「おーい! 助けてくれぇ!」

「死ぬ! 死んでしまうぅ!」


 まあ、死に値する程の罪かと言われたら微妙だし、目の前で死なれるのも後味悪いから助けるけども。

 どうせ、僕の悪癖を考えたら、見捨てられずに体が動いちゃうだろうし。

 という事で、暴れ牛に向かってダッシュ。

 そのまま走り幅跳びのように地面を蹴って三人組を飛び越し、空中で体を捻りながら、暴れ牛の首筋に向かって水を纏った剣を一閃した。


「ブモォ!?」


 魔物とはいえ、弱点は普通の牛と一緒だ。

 僕の一撃でHPが尽きたらしく、暴れ牛は盛大に地面をスライディングしてから光の粒子となって消滅した。


「ふぅ。大丈夫ですか?」

「た、助かったぁああ!」

「ありがとう! ありがとう!」

「君は俺達の女神だ!」

「いや、だから僕は男ですって」


 今日だけで、このやり取り何回目?

 そんなに女に見えるの、僕?

 そういえば、家族との折り合いも悪かったし、友達もいなかったし、勇者時代も仲間いなかったから、自分の容姿に関する客観的な意見なんて聞いた事がないような……。

 ちょっと待って。

 え? もしかして僕って、自分で思ってるよりずっと女っぽい?

 むしろ、一発で男認定してくれたレイさんが特殊だったの?

 ……嫌な事に気づいちゃった。


「おお!? よく見たら、君はさっきも助けてくれた子じゃないか!?」

「ホントだ!? 二度も命の危機を救ってくれるなんて!」

「やっぱり君は俺達の女神だ! 結婚してくれ!」

「……だから、僕は男だって言ってるでしょ」


 喧嘩売ってるんですか?

 今ならボヴァンさんの分も含めて言い値で買いますよ。

 ああ、いや、違う、落ち着け。

 ストレスで思考が殺伐としてきてる。

 こんな時こそ平常心だ。


「いや、本当に助けてくれてありがとう! 俺達に恩を売れたのはかなりラッキーだったぜ!」

「そうだ! 何せ俺達は!」

「いずれ世界最強の冒険者にして、世界最高の英雄になる男達なのだから!」


 心を静めてる内に、なんか三人組が変な事を口走りながら、変なポーズを取り出した。

 もしかしたら、アドレナリンでハイになってるのかもしれない。


「俺の名はタロウ! いずれ世界最強の剣士になる男だ!」

「俺の名はジロウ! いずれ世界最強の剣士になる男だ!」

「俺の名はサブロウ! いずれ世界最強の剣士になる男だ!」

「「「三人合わせて! 冒険者パーティー『スリーボンバー』!」」」


 ドッカッーーーン! と背後で爆発でも起こったらそこそこカッコいいかもと思わなくもないポーズを取る三人組。

 無音だから、思いっきりスベってるけど。

 でも、本人達は自分に酔ってるのか、全然気にした様子がない。

 違う意味で大物になりそう。

 というか、全員剣士ってバランス悪いな。


「えっと……ご兄弟ですか?」

「いや、違う! だが、同じ村で同じ時に生まれた同志ではある!」

「古の勇者の名を授けられし三人が、同じ時、同じ場所で生まれた……これは運命の出会いだったのさ!」

「同じ宿命を背負った俺達の絆は、血の繋がりよりも強いのだ!」


 ああ、そうですか。

 どうやら、彼らは病に感染してるらしい。

 中二病という忌まわしき病に。

 この世界には勇者というわかりやすい象徴がいる上に、英雄という、なまじ頑張れば手が届きそうな特別な存在がいるから、この病の発生率も相応に高いのかもしれない。

 まあ、見たところ、この人達の年齢は僕と同じくらいだし、若い内は夢を見ててもいいんじゃないかな。


 ちなみに、この人達みたいに日本人っぽい名前の人達っていうのは結構いる。

 歴代勇者って、どうも日本人の比率がかなり高いみたいで、その歴代勇者と似たような名前を、有名人の名前をつける感覚で子供につける親が結構いるのだ。

 僕がわざわざ偽名を名乗らない理由もここにある。

 つまり、この人達が日本人っぽい名前を持ってる事は、割と確率の高い偶然なんだけど……言わぬが花かな。


「とりあえず、英雄を目指すなら人の事をハゲとか言うのはやめましょうね」

「「「すみませんでした! うっかり口が滑っちゃっただけなんです!」」」


 おお、一言一句違わずにハモった。

 あながち、血の繋がりよりも強い絆があるって部分は間違ってないのかも。

 だって、外見は大して似てないのに、三人共そっくりだもん。

 誰がタロウで、誰がジロウで、誰がサブロウなのかわからないくらいに。


 でも、中二病とはいえ、素直にごめんなさいできる辺り、悪い人達じゃなさそうだ。

 ボヴァンさんの件は、本当にうっかり口が滑っちゃっただけなのかもしれない。

 村出身って言ってたし、大きな街に出てきて初めてドワーフを見て、変なテンションになっちゃったとか?

 ありそう。

 まあ、この件に関しては僕がどうこうする事じゃない。

 後で彼らからボヴァンさんに謝ればそれでいいんじゃないかな。


 とりあえず、この人達はそんなに悪い人達じゃなかった。

 なら、ここで見捨てる理由はないよね。


「三人共、戦う準備をしておいてください。何か来ますよ」

「へ?」

「何か?」

「どういう事?」


 困惑する三人をよそに、ダンジョンの奥から何かがやって来る。

 さっきから感知のスキルに引っ掛ってた何かが。


 突然だけど、ここはダンジョンの中間辺りだ。

 受付嬢さんに聞いた情報が元だから間違いない。

 そして、ダンジョンというものは、基本的に奥に進む程強い魔物がいるものだ。

 その強い魔物が奥地から出てくるのは、奥地に魔物が溢れたとか、自分より圧倒的に強い魔物に追い出されたとか、そういう場合に限る。

 さっきの暴れ牛は、このダンジョンにいるにしてはかなり強い魔物。

 そんなのがこの中間地点に来るって事は、それ相応の理由があったという事。


 その理由は、すぐに僕達の前に現れた。

 凄まじい咆哮と共に。


「ウッホォオオオオオオ!」


 ただの雄叫びが衝撃波を発生させる。

 その魔物は、一言で言えば巨大なゴリラだった。

 体長5メートルはある巨大ゴリラ。

 その筋肉は駆け出しどころか中堅の冒険者ですら容易く屠りそうな程に発達し、その体毛は業物の剣ですら弾きそうな程に固そうで、端的に言えばかなり強そう。

 というか、強い。


━━━


 パワードコング Lv31


 HP 4455/4455

 MP 12/12


 攻撃 4555

 防御 4066

 魔力 11

 抵抗 3188

 速度 3999


 スキル


 なし


━━━


 物理系の平均ステータス四千。

 人間で言えば、英雄級に片足突っ込んでるレベルのステータス。

 スキルはないし、知能も低そうだから、同格の人間よりは全然弱いだろうけど、間違っても駆け出し冒険者が相手にするような魔物ではない。

 パワードコング。

 危険度B。

 どう考えても初心者ダンジョンにいる訳のないゴリラが、僕達の前に現れた。


「あ、これヤバイ」


 それを見て僕は思った。

 ダメだ、これは勝てないと。

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