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6 はじめてのクエスト

「おう、さっきぶりだな坊主。冒険者登録はできたか?」

「はい。おかげさまで」


 レイさんと遭遇した後、僕は改めてE級のクエストを請け、街の外へと繰り出した。

 その時、必然的に門番さんともう一度会う事になり、今回は冒険者カードのおかげで通行料免除となった。

 うん。

 ちゃんとした資格を手に入れた感じがして嬉しい。

 前の職業みたいに堅苦しくないのもグッドだ。

 勇者時代なら、身分を明かした瞬間に狂喜乱舞され、土下座されながら涙目と涙声で「この街をお救いください……!」って言われるのがデフォルトだったからなぁ。


 昔を思い出してちょっとしんみりしながら街の外を歩く。

 ちなみに、この街の名前は『アルゴス』といい、近くに三つのダンジョンがあるらしい。

 一つは絶賛攻略中のC級ダンジョン。

 もう一つは、かなり難易度の高いA級ダンジョン。

 最後の一つは、駆け出し冒険者育成の為にあえて残してあるというE級ダンジョン。

 それがあるせいで、この街は冒険者が多かった訳だね。


 このダンジョンのランクもクエストのランクと同じ扱いで、A級ダンジョンに入るにはA級冒険者以上の資格がいる。

 ただし、パーティーを組んでるなら、そのパーティーのランクで判断される為、低いランクの冒険者が紛れ込んでても大丈夫なのだ。

 例えば、ボヴァンさんはB級冒険者だから単独ではA級ダンジョンに入れない。

 だけど、ボヴァンさんが所属してるパーティー『天勇の使徒』は、あのレイさんを擁するS級冒険者パーティーなので、他のパーティーメンバーと一緒ならボヴァンさんも入れる。

 こんな感じ。


 そして、ダンジョンというのは、この世界における諸悪の根源である。

 地脈からエネルギーを吸収し、侵入者を殺す事によってエネルギーを吸収し、そのエネルギーで進化しながら人類の天敵である魔物を生み出し続ける悪夢の生産拠点、それがダンジョン。

 魔物は自然繁殖せず、その全てがダンジョンから生まれてくる。

 そうやって、ダンジョンから魔物が溢れ続ければ、あっという間に人類を滅ぼしてしまう訳だ。

 伝説の武器で武装した全盛期の僕が相討ちになってようやく倒したあの魔王ですらダンジョン産の魔物と言えば、その脅威がよくわかると思う。


 魔王とは、ダンジョンの最終進化系だ。

 より正確に言えば、魔王の拠点だった『魔王城』が最凶のダンジョンであり、その核であるダンジョンコアが変異して生まれた最強のダンジョンボスこそが魔王。

 ダンジョンが長い長い年月をかけて少しずつ力を増していき、それが一定水準を超えると、ダンジョンコアの変異が起こって魔王が誕生する。

 この現象をダンジョンの魔王化と呼び、それが発生する周期が大体数百年なのだ。


 魔王城の攻略難度は、人類の設定した基準で言えばSSS級。

 S級冒険者パーティーですら立ち入る事も許されず、いかなる軍隊をもってしても攻略不可能と断定され、勇者を呼ばないと対処できない難易度。

 ちなみに、僕が伝説の武器を求めて攻略しまくったダンジョンの多くは、魔王化一歩手前のSS級ってところかな。

 その一歩を踏み越える事は早々ないとはいえ、時間をかければ魔王化に至っていた可能性は高い。

 そういう意味でも、僕はかなりこの世界に貢献した訳だ。

 マジで命の恩一回分くらいの対価は余裕で支払い終えてると思う。


 とにかく、そういう事情があるからこそ、この世界の人達は必死になってダンジョンを攻略するのだ。

 魔王が誕生する確率を少しでも下げる為に。

 まあ、大半の人はもう一つの即物的な理由でダンジョンアタックしてるんだろうけど。

 ダンジョンの中には、侵入者を誘き寄せる為の撒き餌として、不思議な効果を持ったアイテムが数多く眠ってるからね。

 僕の鑑定妨害リングみたいなやつが。

 

「きゅ!」

「おっと」


 そんな事をつらつらと考えてる内に魔物と遭遇した。

 角の生えたウサギの魔物、ホーンラビットだ。

 駆け出し冒険者でも狩れるくらいの雑魚だけど、角による突進の一撃は安物の防具くらい貫通するので、注意する必要がある。

 だって、僕が今着けてる装備は、もろその条件に当てはまる安物だからね。


「よっ」

「きゅ!?」


 ホーンラビットの突進を半歩横にズレて避け、すれ違い様に腰から引き抜いた安物の剣を一閃。

 それだけでホーンラビットは絶命し、魔物特有の現象として弾ける光の粒子になって消えた。

 つまらぬものを斬ってしまった……。

 でも、ちょっと気を付けないといけないかも。

 実際に振ってみて気づいたけど、この安物の剣、思った以上に脆い。

 感覚としては、発泡スチロールの剣でも振ってる気分だ。

 本気どころか、ちょっと力加減をミスっただけで砕け散りそう……。

 早く冒険者ランクを上げて、もう少し良い武器を持ってても不自然に思われない状態にしたいなぁ。


「きゅ!」

「きゅきゅ!」

「きゅぅ!」

「「「きゅきゅきゅ!」」」


 そうじゃないと、近い内どころか、この戦闘で折っちゃいそうだ。

 僕の周りには、グルリと僕を囲むように展開したホーンラビットの群れ。

 ……ちょっと多過ぎじゃない?

 感知のスキルのおかげで最初から気づいてたから驚きはしないけど、これ普通の駆け出し冒険者だとパーティーでも苦戦するくらいの数だよ?

 

「きゅ!?」

「きゅぅ!?」

「きゅぁ!?」


 まあ、僕は普通じゃないから問題ないけど。

 一斉に迫るホーンラビットの群れを剣一本で斬り倒していく。

 振り下ろし、薙ぎ払い、突き刺す。

 剣を折らないように気をつけながら、一匹ずつ丁寧に倒す。

 魔法は使わない。

 どこで誰が見てるかわからないからね。

 それに、普段から意識してないと、咄嗟の時にうっかり全力出しちゃうかもしれないし。


「む……」


 でも、ちょっとうざったいな。

 一番嫌なのは、斬った時の血脂が付いて剣の切れ味が落ちていく事だ。

 業物とかだったらこんな事にはならないんだけど、安物だからなぁ……。

 それでも、僕の剣術レベルならこのままでも問題なく斬れるけど、今の僕は駆け出し冒険者って事になってるし、剣術のスキルレベルも2しかない事になってる。

 このままだと、その内スキルレベルの範囲を逸脱しちゃいそうだ。

 ……うん。

 なら、こういうのはどうかな?


「《ウォーターソード》!」

「「「きゅきゅ!?」」」


 僕は、剣術スキル以外で唯一、表向きにも取得してる事になってる水魔法のスキルを使い、剣身に水を纏わせた。

 昔、聖光魔法でやってた魔法剣だ。

 その聖光魔法は光魔法の完全上位互換なんだけど、勇者と聖女専用のスキルだけあって、魔物相手に効果抜群というチート魔法だったんだよね。

 もう攻撃手段はこれ一つあればいいんじゃないかなってくらい強くて、他の魔法は補助くらいにしか使わなかった。

 火魔法は火起こし、今使ってる水魔法は飲み水の確保にしか使ってなかったくらいだ。

 だからこの二つは、僕のスキルの中では珍しくスキルレベルが低い。

 唯一、土魔法だけはちょっとした思惑があってそれなりに鍛えたけど、結局それもポシャッちゃったし。


 って、今はそんな事どうでもいいか。

 僕は水を纏った剣でホーンラビットの一体を斬り伏せた。


「きゅう!?」


 さっきまでと同じように、一撃で光の粒子となるホーンラビット。

 おお、これ思った以上にいいね。

 血脂は付かないし、纏った水がウォーターカッター的な感じで敵を切り裂いてくれるから剣への負担が軽くなるし、傷口が水で洗われて、返り血が必要以上に飛び散らないのもいい。

 見た目も、某鬼狩り漫画の主人公が初期に使ってた技みたいでカッコいいし。

 それに、


「《ウォータースラッシュ》!」

「「「きゅ!?」」」


 水を飛ばせば遠距離攻撃や広範囲攻撃ができる。

 剣術スキルだけでも斬撃を飛ばす事はできるけど、それはレベル2以降の話だからね。

 表向きのステータスで使えるこの技は需要あるよ。


 そんな使える新技によってホーンラビット達は全滅し、周囲には飛び散った血液と水が残るのみとなった。

 よくある異世界ファンタジーだったら兎肉とか角が素材として手に入るところなんだけど、この世界の魔物は死ぬと消滅するので、手に入るのは経験値と冒険者カードに記録される討伐記録だけだ。

 そのくせ剣をダメにしかけた血脂とかは残るんだから、魔物が百害あって一理なしの害悪と言われるのもわかる。


 さて、今日請けてきたクエストは、常駐クエストの魔物討伐だ。

 種類を問わず、倒した数が多い程、報酬が多くなって実績に加算される。

 高ランクの魔物を倒せれば、報酬と実績更にドンッ! なんだけど、E級冒険者には無縁の話だ。

 わざわざステータスに見合わない魔物倒して怪しまれる必要はないしね。


 という訳で、この後は初心者ダンジョンに行って、もう少し魔物を狩ってから帰るとしよう。

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