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4 就職しよう

 新人冒険者っぽい服と装備一式を買った後、多分ブレイズ王国の首都だと思われる城下町をテレポートで後にし、やってきたのは王国内にある田舎と都会の中間みたいな雰囲気を持った特徴のない街。

 その近くの森の中。

 テレポートを何回か繰り返して、条件に合う街を探し当てたのだ。

 一度行った事のある場所ならどこにでも飛べるテレポートはやっぱり超便利。

 さすが、空間魔法レベル5以上を持ってないと習得できない超高位魔法。

 空間魔法自体の難易度が高いから、これを使える人は今の人類でも百人いなんじゃないかな?

 人前では絶対に使わないようにしないと。


 そんな事を思いながら、森を出て街の入り口に近づいていく。

 そこで門番さんに止められた。


「止まれ! 見ない顔だな。お嬢ちゃん、冒険者かい?」

「いえ、冒険者志望です。それと、僕は男です」


 割とよくあるんだよね、女に間違われる事。

 勇者時代も度々あったよ。


「ああ、そいつはすまなかったな。じゃあ坊主、通行料は銀貨5枚だ。冒険者カードがあればタダになるから、早めに登録する事をオススメするぜ?」

「はい。わかりました」


 門番さんに通行料を支払い、街の中に入る。

 事前に確認した通り、あんまり特徴のない街だ。

 ただ、規模は結構大きい。

 小さな国なら主要都市扱いされてもおかしくないくらいだ。

 もっとも、僕の時代で見てきた小さな国なんて、もれなく壊滅寸前だったから当てにならないかもだけど。


 あと、もう一つの特徴として、武装した人がかなり多い。

 格好からして、兵士とか騎士じゃなくて冒険者だと思う。

 何か、冒険者達を惹き付ける要素がこの街にあるのかな?

 ダンジョンでもあるとか?

 冒険者登録の時にでも聞いてみよう。


 そんな感じで街を歩き、道行く冒険者の人に場所を聞き、やって来たのは全ての冒険者が所属する一大組織『冒険者ギルド』。

 ファンタジーのお約束の代名詞とも言える場所だ。

 数多の異世界ファンタジーにおいて、いきなり柄の悪い冒険者に絡まれてそれを返り討ちにしたり、ステータスの鑑定とかでとんでもない結果を出して驚愕されたり、そういうテンプレートなお約束が発生しまくる場所。

 まあ、それは所詮フィクションの話だから、そんなトラブル早々ないと思うけど。

 ちなみに、世紀末だった僕の時代でも潰れてなかった骨太の組織でもある。

 潰れない就職先って、それだけで当たりな感じがするよね。

 その分、ふるい落としが凄いんだろうけど。

 命の。


 そんな物騒な事を考えながらギルドの門を潜り、建物の中へ。

 お約束と違って、僕に注目する人は誰もいない。

 別に幻惑魔法を使ってるとかじゃなくて、単純に冒険者の出入りが激しくて、こんな新人っぽい格好の奴を誰も気にかけないだけだ。

 しかも、僕と同じような格好した新人っぽい人達だって結構いるし。

 余計目立たない。


 幻惑魔法を使った時と同じくらいの空気っぷりを発揮しながら、僕は受付カウンターに向かった。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか?」

「冒険者登録をお願いします」

「かしこまりました。では、登録料お支払の後、こちらに手を置いてください」


 カウンターに座っていた受付嬢さんに登録をお願いすると、どこからか見覚えのある水晶玉みたいな物体を取り出して、そう言ってきた。

 多分これ僕の予想通りの代物だと思うけど、一応なんなのか聞いておこう。


「これは?」

「これは鑑定水晶という魔道具です。これによってあなたのステータスを確認し、それに応じてあなたのランクを決めさせていただきます」


 ああ、やっぱり鑑定水晶か。

 触れた相手のステータスを強制開示させる魔道具。

 何年経っても、ギルドにはこれがあるのね。

 この分だと、昔と同じように冒険者ギルド以外のあらゆるギルドにも置いてありそう。

 モグリ防止の為に。


 そんなモグリ防止魔道具に、僕は登録料を支払った後、なんの躊躇もなく右手を置いた。

 この一見、僕にとっての特大の地雷に見える鑑定水晶だけど、対策さえできてれば恐れるに足りないのだ。


━━━


 人族 Lv10

 名前 ミユキ


 HP 433/433

 MP 350/350


 攻撃 400

 防御 388

 魔力 344

 抵抗 366

 速度 411


 スキル


『剣術:Lv2』

『水魔法:Lv1』


━━━


「おお、中々に見所のあるステータスですね。お若いのに素晴らしいです」

「ありがとうございます」


 鑑定水晶が映し出したのは、本来のステータスとは比べ物にならない、新人にしては有望という程度の虚偽のステータス。

 それを見て受付嬢さんが褒めてくれたので、無難にお礼を言っておく。


 これを成してくれたのは、ここに来る前にアイテムボックスから取り出して装備しておいた、ダンジョン産の便利アイテムの一つだ。

 テレレッテレー『鑑定妨害リング~』。

 その名の通り、装備すると鑑定された時に事前に設定した嘘のステータスを表示してくれる腕輪型アイテムである。

 こんな物が世の中に出回ったら鑑定水晶が産廃扱いされそうだけど、これは当時の僕ですらかなり苦戦するレベルの高難度ダンジョンの奥深くで手に入れた物だから、早々同じ物は出てこない筈だ。

 これがあれば突然の鑑定も怖くない!

 テンプレ恐るるに足らず!


「それでは、この鑑定結果を基に、あなたの冒険者カードを作成しますね。ランクは下から二番目のE級となります。実績を積み、ステータスを上げれば、どんどん上のランクへと昇格できますので頑張ってください」

「はい」

「それと、カードが出来上がるまでの間に、冒険者についての基礎知識についてお話しします。よく聞いておいてくださいね」

「はい。わかりました」


 受付嬢さんの話を神妙に聞く。

 正直、冒険者に関してはふわっとした知識しかないし、そもそも世紀末時代とは制度自体が変わってる可能性もあるんだから、ちゃんと聞かないと。

 職場のルールと業務内容みたいなものだしね。


「まず、冒険者の主な仕事は、魔物の討伐やダンジョンの攻略をはじめ、そちらにあるクエストボードに張り出されたクエストの中から好きなものを選んで頂き、それをこなしてもらう事です。それによってクエストの難易度に応じた報酬が支払われます。更に、クエストの達成回数がそのまま昇格基準の一つである実績になりますので頑張ってくださいね。レッツお仕事です」


 レッツお仕事って……。

 社畜にかける言葉みたいだ。

 でも、ここまでは僕の知ってる冒険者そのものだね。


「クエストには冒険者のランクと同じS~Fのランクが設けられており、それに応じて難易度が設定されています。当然、難易度の高いクエスト程達成が困難だったり、命の危険があったりするので気をつけてください。その危険を少しでも避ける為、冒険者は自分のランク以下のクエストしか受けられません。いのちだいじに、です」


 いのちだいじに、って……。

 今度はド◯クエみたいな事言い出した。

 この受付嬢さん、結構茶目っ気があるのかもしれない。

 

「そして、これが最重要。冒険者のランクについてですが、さっきも言った通り、クエストと同じS~Fのランクがあります。完全な見習いから始める人はF級、最低限の戦闘スキルがあると判断された人はミユキさんのようにE級からスタートし、クエストをこなした回数による実績と、昇格に足ると判断されたステータスに達すれば、上のランクへと昇格できます。ランクが上がれば上がる程尊敬され、フリーターから英雄になれるのです。ちなみに、高位の冒険者は結構モテ……」

「頑張ります!」

「今までで一番いい返事ですね!?」


 そりゃそうですよ。

 だって、僕はその為に冒険者になったんですから!


「ミユキさん可愛いんですから、そんな必死にならなくても簡単に男の人と付き合えそうなものですけどねぇ」

「あの……僕、男です」

「え!?」


 ああ、この人も勘違いしてたのか。

 今回のは結構ダメージ入ったよ。


「ちなみに、僕を恋愛対象として見れそうですか?」

「ええっと……女友達としてなら凄く好きになれそうなんですけど……。それに私、恋人いますし」

「くっ!」


 僕は泣いた。

 男泣きだ。

 これは泣いても許されると思う。


「ああ!? な、泣かないでくださいミユキちゃん! ほ、ほら、説明続けますから! 泣き虫じゃ冒険者にはなれませんよ!」

「……はい」


 僕は頑張って涙を引っ込めた。

 さりげなく、ちゃん付けされた辺り、これは完全に年下の女の子みたいにしか見られてない。

 完全に脈なしだ。

 まあ、恋人のいる人に手を出すつもりは最初からなかったけど、それでも悔しいものは悔しい。

 ちくせう。


「で、では、ランクの大まかな基準ですけど……」


 そうして受付嬢さんが再開した説明によると、冒険者のランクは、それぞれこんな感じで世間と同業者から見られてるらしい。


 F級、E級……駆け出し。

 D級……一人前。

 C級……中堅。

 B級……一流。

 A級……超人。

 S級……英雄。


 ちなみに、A級以上はギルドや大手の依頼主から直接の指名依頼を受ける専属みたいな扱いになる事が多いらしく、在野の最高位はB級という認識らしい。

 B級以上になれば絶対モテる! と受付嬢さんは励ましてくれた。

 それ逆に言えば、B級以上にならないとモテないという意味では……。

 うん。早急にB級を目指そう。

 A級以上は面倒事の方が増えそうだし、B級到達をひとまずのゴールとしておこうかな。


 そんなやり取りをしてる内に冒険者カードが完成し、若干哀れむような目になった受付嬢さんが手渡してくれた。

 冒険者カード。

 これは冒険者としての身分証であり、現在のランクや最後に計った時のステータス、達成してきたクエスト、討伐してきた魔物の種類などが表示されるらしい。

 絶対になくすなと言われた。

 なくしたら、最後にギルドで読み込んだ時以降のデータが紛失するんだとか。


 あと、手に入れられるようになるのはまだまだ先の話だろうけど、アイテムボックスの機能がある魔道具の中に入れると機能不全を起こすから気をつけろとも言われた。

 ちょっといい事を聞いたかもしれない。

 つまり、明らかにランクに見合わない魔物とエンカウントしちゃった時、アイテムボックスに入れておけば戦った記録を抹消できるって事だろうから。


 その後、泣かせた負い目を感じてるのか、受付嬢さんにやたら丁寧に冒険者としての必需品の話とか、この街周辺のダンジョンについてとか教えてもらい、いざ最初のクエストを受けようかとクエストボードに足を向けた瞬間……ギルドに併設されてる酒場の方から大声が聞こえてきた。


「おい! このクソガキどもぉ! 今なんつったぁ!?」


 まるでチンピラのような叫び声。

 咄嗟に声の方を見ると、背が低くてずんぐりむっくりしたドワーフっぽいおじさんに、新人っぽい冒険者三人が絡まれていた。

 ……チンピラ冒険者に絡まれる新人とか、テンプレートそのまんまじゃないか。

 直接の被害を避けたというのに、まさか僕と関係ない所で巻き起こるとは。

 恐るべし、テンプレ。

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[一言] 男の娘かよ!歓喜 元の方も男の娘なんかな
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