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3 人生設計

 勇者召喚の間から飛び出し、気配を消したまま城の中を歩く。

 廊下を歩いてる一般兵の人達もレベル高いなぁ……。

 僕の時なんか、強い人達は軒並み戦いに駆り出されてたから、城に残ってるのなんて、新兵とか老兵とか負傷兵とかばっかりだったのに。


 またしても格差を感じながら城を抜け、門から堂々と外に出た。

 何気なく、その城を見上げてみる。

 その立派な造形には見覚えがなかったけど、城の上に備え付けられ、誇らしげに風になびく国旗には見覚えがあった。

 立派な剣と鎧を身に纏った青年の横顔を紋章とした国旗。

 聞いた話によると、この国の初代国王である、僕よりも随分前の勇者をモデルとしてるらしい。

 予想はしてたけど、間違いない。

 ここは、前に僕を召喚したのと同じ国、ブレイズ王国だ。


 変わったなぁ。

 立派になった城と、活気に満ちた城下町を見て、そんな感想を抱く。

 昔から世界最大の大国とは呼ばれてたけど、あの頃は表面だけなんとか取り繕っただけの、崩壊寸前の崖っぷち王国って感じだったのに。

 僕の時代から何年経ったのか知らないけど、僕が魔王を倒したおかげでこういう光景が生まれたんだと思えば、結構感慨深い。


 そんな城下町をキョロキョロしながら歩いてると、ふと広場みたいな場所に出た。

 その中央には、国旗に描かれている初代国王と同じ格好をした人物。

 立派な鎧を身に纏い、剣を地面に突き立てた姿をした、中性的な絶世の美少年の銅像が建っている。

 そこはかとなく嫌な予感を覚えながら台座に刻まれてる文字を読めば、そこにはこう書かれていた。


『歴代最高の勇者 カンザキ・ミユキの像』


 は、恥ずかしい……。

 しかも、美化され過ぎてて似てない。

 いや、まあ、確かに、僕の功績を考えれば銅像の一つくらい建っててもおかしくないけども。

 だからと言って羞恥心を覚えないかと言われれば、答えは否だ。

 カー◯ルサンダースさんは、きっとこんな気持ちだったに違いない。


 おまけに、僕の目の錯覚じゃなければ、銅像の前にとてつもなく見覚えのある物体がある気がするんですけど。

 美化され過ぎた僕の銅像が持ってるのと全く同じ造形をした、一振りの直剣。

 剣身の色は、神聖さを感じさせる純白。


 勇者専用装備である伝説の剣、通称『聖剣』だ。

 僕が世界中を回って大捜索し、超高難度ダンジョンをいくつも家捜しした末にようやく見つけた最強装備が、当たり前のように始まりの街の地面に突き刺さっていた。

 多分、近日中に後輩くんがなんの苦労もなく引き抜いていくんだろう。

 聖剣は勇者以外には引き抜けないし、どんな事をしても動かせないけど、逆に言うと勇者なら見つけさえすれば苦労なく手に入れられるからね。

 この分だと、伝説の鎧の方も簡単に見つかるんじゃないかな。

 アッハッハ。

 ……ない。

 いくらなんでも、これはない。

 本気で僕の苦労はなんだったんだ。


「ハァ……」


 盛大に精神力を削られたせいで、思わずため息を吐いてしまった。

 ダメだ。

 当初はこの街を拠点にしようかとも思ったけど、この銅像を見る度に悲しみのオーラが蓄積されてしまう。

 それに、勇者の力を隠し通すなら、もう少し人の少ない田舎に行った方がいいだろう。

 とりあえず、今は一刻も早くこの銅像から離れたい。


 再び城下町の中を歩きながら、そこで見聞きした情報を元に、今後の人生設計を立てる。

 一応、お金とかの心配はない。

 昔は報償金とかを貰う機会が結構あったからね。

 その時のお金が殆ど使われずに、今も空間魔法のアイテムボックスの中に眠ってる。

 ダンジョンで手に入れた、色んな便利アイテムと一緒に。

 通貨が昔と変わってないのは、この街の市場で行われてる買い物風景を見てればわかる。

 これは大陸共通通貨みたいな感じだったから、他所の国でも問題なく使える筈だ。


 だけど、だからと言ってニートになるのは論外。

 僕の最終目標は、可愛いお嫁さんと温かな家庭を築き、平凡な幸せを手に入れて大往生する事だ。

 お金だけあるニートの所に可愛いお嫁さんが来るか?

 そこに愛はあるのか?

 否!

 断じて否!

 故に、僕は普通に仕事をする必要があるのだ。

 働かざる者、幸せを手に入れるべからず!


 で、その仕事だけど、願望としては非戦闘系の仕事に就きたい。

 だけど、僕って戦う事しか脳がないんだよなぁ……。

 あんな世紀末の世界に召喚されたんじゃ仕方ないけど。

 そして、この世界で仕事に就き、見習いの下っ端ではなく一人前として認められる為には、それ関連のスキルを取る必要がある。

 『料理』とか『鍛冶』とか『裁縫』とか。

 そこら辺の村人ですら『農業:Lv1』とか持ってる。

 スキルのない奴は下っ端かモグリ扱いだった。

 時代が変わってその基準が変わってる可能性もあるけど、世紀末ですら遵守されていた基準が、この平和な時代に撤廃されてる可能性は低いだろう。


 スキルを取るのも簡単じゃない。

 この世界のスキルは、ゲームみたいにスキルポイントを払えばポンッと手に入るようなものじゃなくて、ひたすら努力しないと手に入らないのだ。

 

 スキルは、その分野で一人前と言われるくらいの力を身につける事で、ようやくレベル1のスキルとして手に入る。

 レベル2で上級者、レベル3で一流、レベル4は達人って感じだ。

 レベル5にもなると人外じみてきて、レベル6なら当代最高を名乗れるレベル。

 上限であるレベル10なんて、勇者か聖女でもなければ到達できないだろう。


 ただし、ここで落とし穴。

 勇者の成長補正が働いてくれるのは、戦闘関連のスキルだけである。

 暗に戦いに専念しろと言ってるんだと思う。

 勇者の仕事は魔王を倒す事だからね。

 つまり、僕が非戦闘系の仕事に就こうと思ったら、下積みからコツコツやって、普通の人と同じ成長速度で一人前を目指すしかないのだ。


 さすがに、それはキツイ。

 何がキツイって、一番の問題は僕の年齢だよ。

 普通の人は子供の頃からスキルを鍛えるので、17歳の僕が一からそれに追い付こうと考える事自体が割と無謀なのだ。

 それでも死ぬ気で頑張ればどうにかなりそうだけど、一人前になるまで最低でも十年以上かかるだろう。

 そう最低でも(・・・・)十年以上だ。

 下手したら婚期を逃してしまう!

 却下!

 絶対に却下!


 じゃあ肉体労働で稼げとなるけど、あれは給料が安い。

 アイテムボックス内に隠し財産があるから、それでも問題ないといえばないんだけど、確実に女性人気が高い仕事ではないよね……。

 僕の最終目標を考えると、肉体労働は目的にそぐわない職業と言わざるを得ない。

 却下。


 そうなると、やっぱり戦闘系の仕事しかないかぁ……。

 その中で一番手っ取り早くて目的にコミットした職業となると……あれかな。

 あの職業なら誰でも、それこそ孤児でもチンピラでも落伍者でもなれるし、力さえあればかなりの名声が手に入る。

 目立って勇者の力が露見する可能性もあるけど、気をつけてればそれも回避可能だろう。


 その職業の名は、『冒険者』。

 仕事内容は、魔物退治やダンジョン攻略を中心とした何でも屋。

 たとえ何百年経ったとしても、人類が魔物を脅威に思っている内は絶対になくならないだろう職業だ。

 もう殺伐とした戦いは嫌だからあんまり気は進まないんだけど……それが一番マシな就職先か。

 身寄りもない世界で生きるには、結局、取り柄を活かすしかないって事だね。

 それも活かせる職場があるだけ恵まれてると思わないと。


「よし、決めた」


 僕は冒険者として今回の人生を送る事を決めた。

 目立ち過ぎない程度にそこそこの地位を手に入れて、婚期を逃す前にいい相手を見つけて結婚するんだ!

 そして、平凡な幸せを手に入れてやる!


 その為にも、まずは冒険者登録から始めよう。

 この街で活動する気はないから、空間魔法のテレポートでどこか適当な街に飛んでからだけど。

 ああ、その前に冒険者っぽい服とか装備とかを手に入れないと。

 幻惑魔法のおかげで不自然に思われてないとはいえ、今着てるのは学校の制服だし、アイテムボックスの中にある装備は目立ち過ぎる。

 という訳で、あそこの服屋と、向こうの武器屋にレッツゴーだ!

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ3話までしか読んでないので、設定的に出来ないのなら恐れ入りますが、鑑定活かして就職とか出来ないの……? 冒険者ギルドの鑑定士とか、商人の鑑定係とか。
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