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再召喚勇者は平穏を望む! ~前回魔王と相討ちになって死んだので、今回は勇者とか絶対にお断りです!~  作者: 虎馬チキン


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『不死身』のジュラゾーマ

 ジュラゾーマが最初に狙ったのは、ガイアドレイクを倒して目立っていたレイだった。

 鎧のような大腿四頭筋に包まれた足で力強く大地を蹴り、一気に距離を詰めてくる。


「デビルパ~ンチ!」


 そして、ジュラゾーマは大きく拳を振りかぶった。


(……遅い?)


 それを見たレイはそんな事を思う。

 確かに、普通の魔物に比べれば速いのだが、今の強化されたレイはおろか、普段のレイにすら劣る。

 魔王軍最強の魔物、十二天魔の一角というには名前負けだ。

 しかも、これは技術のぎの字すらないテレフォンパンチ。

 避ける事は容易い。


 レイは拳の下を潜るように前へ駆け抜ける事でジュラゾーマの拳を避けた。

 その拳は空振った後、地面に突き刺さり……地面にもう一つのクレーターを作り出す。

 大地を抉る程の剛力!


(スピードはないが、パワーはかなりのものだな……!)


 当たらなければどうという事はないが、当たれば致命傷になるだろう。

 だが、拳を振り切って残心の一つもない姿は無防備そのもの。

 図体もデカく、いい的だ。


(もらった!)


「《ボルトスラッシュ》!」


 すれ違い様、カウンターのように放たれた雷を纏った一閃が、ジュラゾーマの体を斬りつけた。

 今のレイの攻撃と魔力のステータスは、聖女の支援によって約九千にまで上がっている。

 『剣術:Lv6』と『雷魔法:Lv5』のスキルを有し、人族としては最高峰の技術を持つレイの魔法剣技は、上昇したステータスを見事に使いこなし、強烈な一撃をジュラゾーマに叩き込んだ。

 格上であっても一刀の元に両断するであろう至高の剣技。

 それを食らったジュラゾーマの体には……


「何っ!?」

「ハッハッハ! 痒いわ!」


 傷一つ付いていなかった。

 明らかに硬そうな骨のような外骨格を避けて斬りつけたというのに、その肌ですらレイの剣を完全に防ぎ、肉どころか皮すらも切れていない。

 尋常ならざる防御力。

 なるほど、これがこの魔物を十二天魔に列席させた力かと納得した。

 『不死身』を自称するのも頷ける。


「ふん!」

「くっ!」


 今度は、ジュラゾーマの方がカウンターを放つ。

 さっき地面に叩き込んだ腕を横に振り回し、地面を削りながら背後のレイを狙う。

 レイは振り返って剣を盾に拳を受け流しつつ、勢いに逆らわずに後ろへ飛ぶ事で、ダメージを最小限に抑えた。


「かはっ!?」


 にも関わらず、優に数百メートルは吹き飛ばされ、バリケードに叩きつけられて、それなりのダメージを負う。

 戦闘継続に問題はないが、拳を受け流した腕は痺れ、剣にも少しヒビが入っている。

 殆ど完璧に受け流して尚、このダメージ。


(直撃すれば一巻の終わりだな……。しかも受け流す事すらほぼ不可能な怪力。全て避けるしかないか)


 冷静に戦い方を模索しつつ、即座に態勢を立て直して戦闘に復帰する。

 早く戻らなければ、仲間達に動揺を与えてしまうだろうから。

 その程度で瓦解する程弱くはないと信頼しているが、確実に少しは心が乱れる。

 遥か格上を相手にするなら、その心の乱れは致命的だ。


「このクソ悪魔ぁああ! 先輩の仇っすぅうう!」


 ……約一命、既に心が乱れきってるのがいた。

 新人故に精神力も未熟なハナが、レイと同じ雷剣を振り回してジュラゾーマに斬りかかっている。

 それをサポートするように他のメンバーが動くも、やはりジュラゾーマには傷一つ付けられない。

 ハナの剣も、ルドルフの魔法も、ミーナの矢も、ボヴァンの斧も、余裕のノーガードで弾き返していた。


 やがて、ハナが焦りで足をもつれさせ、大きな隙が生まれる。


「しまっ……!?」

「もらいだぜぇ!」


 ジュラゾーマの拳がハナに迫る。

 ハナのステータスでは、たとえ完璧に受け流せても、最悪即死。運が良くても重傷だろう。

 そうはさせじと、レイはジュラゾーマの前に飛び出し、ハナの首根っこを掴みながら回避した。


「せ、せんぱーーーい! 生きてたんすねーーー!」

「勝手に殺すな」


 ハナは回収できたが、このままでは決定打どころかダメージを通す手段すらなくジリ貧。

 さてどうすると思案を巡らせた時、レイの耳に生理的に無理な声が聞こえてきた。


「交代だ! 《ブレイブオーラ》!」


 声と同時に、全身に光のオーラを纏った当代勇者がジュラゾーマに斬り込んでいく。

 その身体能力は、先程よりも明確に上がっていた。

 さすがに聖剣程の滅茶苦茶な強化率ではないが、聖女の支援に匹敵するくらいの力は増している気がする。


(聞いた事があるな。確か勇者固有のスキル『聖剣術』の技だったか)


 聖剣術。

 剣術のスキルの上位互換であり、勇者のみが振るえる特別な剣技。

 それによって習得できる技《ブレイブオーラ》は、発動中全ステータスを劇的に向上させ、更に己の攻撃全てに聖なる光を纏わせる事ができる。


「《ライトスラッシュ》!」

「おおう!?」


 光を纏った聖剣が振るわれ、初めてジュラゾーマの体に傷を付けた。

 聖なる光は魔物にとっての天敵である。

 いくら当代勇者の技術が稚拙とはいえ、聖剣、聖女の支援、《ブレイブオーラ》という三重の強化をかけた状態で相性最高の技を振り回せば、その攻撃は十二天魔にすら通用するのだ。


「うぉおおおお!」


 勇者の連続攻撃が、ジュラゾーマの体を削っていく。

 純粋なパワーでは未だにジュラゾーマが勝るが、互いの攻撃がぶつかった時、一方的にダメージを受けるのはジュラゾーマの方だ。

 それだけ相性差というものは大きい。


「《ホーリーランス》!」


 そこへ更に、同じく聖なる光の魔法を操る聖女の援護射撃。

 聖女の放った支援の魔法は、自分自身のステータスをも底上げしている。

 それによって万を超えた魔力のステータスによって放たれる、相性最高の一撃。

 これは効く。

 効かない訳がない。


 そして、レイも他のメンバーと一緒にジュラゾーマへの攻撃を開始する。

 有効打がない為、個人的には気乗りしないが、勇者と聖女のサポートが目的だ。

 顔付近に魔法を撃ち込んで視界を潰し、武器を当てて僅かでも体勢を崩させる。

 稚拙な動きをする勇者に合わせるのは大変だったが、なんとか連携として機能はした。

 ジュラゾーマの動きがそれ以上に稚拙だったのも大きい。


 レイ達以外の戦士達も、比較的弱い者に他の魔物の対処を任せ、強い者達は大多数がジュラゾーマ目掛けて殺到する。

 袋叩きだ。

 有効打は勇者と聖女の攻撃だけだが、これだけの精鋭達がサポートに回る事によって、確実に戦闘を有利に進められていた。

 ジュラゾーマの攻撃はことごとく邪魔され、こちらの攻撃は全てが命中する。

 一方的な展開と言えるだろう。

 ジュラゾーマは常軌を逸した防御力で耐えてはいるが、確実にダメージは蓄積している筈だ。

 ならば、いつかは倒れる。

 何人かの楽観的な者達が勝利の予感に胸を踊らせた、その時。


「で? これで終わりか?」


 ジュラゾーマが余裕の表情でそんな事を呟いた。

 そして、またしても勇者目掛けて大きく拳を振りかぶる。

 軌道が見え見えのテレフォンパンチを、しかし攻撃に意識を集中していた未熟な勇者は避けられず、咄嗟に聖剣でガードした。


「ぐっ!?」


 未だにパワーではジュラゾーマの方が上。

 つまり、守りに入れば上から押し潰される。


「そら、もういっちょ!」

「がはっ!?」


 更に、もう片方の腕による強烈なボディブローが勇者の腹に突き刺さる。

 まさか、こんな単調な攻撃に対処できない勇者がいる訳ないというサポート組の思い込みの隙を見事に突いた一撃により、勇者は吹き飛ばされてバリケードに叩きつけられ、そのままバリケードを突き破って遥か遠くまで飛んでいった。

 帰って来る様子はない。

 気配は感じるから生きてはいるのだろうが、気絶くらいはしていそうだ。


「確かこういう時、人間は、た~まや~! って言うんだったか?」

「ゆ、勇者様ぁ!」


 呑気に勇者が飛んでいった方を見詰めるジュラゾーマと、悲鳴を上げる聖女。

 その聖女は反射的に勇者を助けに行こうとしたが、ここで自分まで抜けてはジュラゾーマに対抗できないと判断したのか、苦悶の表情で踏みとどまった。


「回復魔法の使える人はすぐに勇者様を助けに向かってください! 残りの人達は、私と一緒にこの魔物の対処を!」

「「「は、はい!」」」


 勇者が倒されたという事に動揺しながらも、戦士達は聖女の指示に従って迅速に動いた。


「大丈夫です! 勇者様は必ず戻って来られます! それに、あの魔物は確実に消耗している筈です! 今なら私達だけでも……」

「消耗~? なんの話だ?」


 味方の動揺を静めようとしたのか、聖女が希望を大声で叫んだが、ジュラゾーマが呑気な声でそれを遮る。

 誰もが強がりだと思った。

 いや、思いたかった。

 しかし、現実は無情。


 ━━ジュラゾーマの体からは、今まで与えた筈のダメージが、綺麗さっぱり消え去っていたのだ。


「最初に言っただろう? 俺は『不死身』のジュラゾーマだ! お前らに俺を殺す事なんてできやしねぇのさ!」


 そして、全快した怪物は再び動き始める。

 たった二人しかいなかった対抗戦力の片方を欠いた状態で、戦士達はこの化け物に挑まざるを得なくなった。

 それは、まさに悪夢としか言えない光景で……


「これが十二天魔……! 誰にも討伐できなかった最強の魔物か……!」


 その悪夢を見ている内の一人であるレイは、嘆きながらも気丈に剣を構え、真っ向から悪夢に立ち向かった。

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