表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界 短編

何も知らないふりをしていたら、なんだかんだで幸せになれました

作者: 雪結び

連載の息抜きです

なかなか内容が思いつかなくて………申し訳ない

「ロゼッタ・アヤク嬢!

 貴女との婚約は、破棄させていただく!」


 ”ロゼッタ”の中に、衝撃が走る。


 何ですって?婚約を、破棄???

 いきなりの事すぎて、頭が追いつきませんわ。アヤク公爵令嬢としてはあってはならない事ですけれど………この現場を理解しろという事の方が難しくてよ。


 …………なんですの、この靄は。


 ”ロゼッタ”は、混乱の広がる脳内に、靄がかった何かを見つけた。

 そして、好奇心半分で、それに意識を向けてみる。


「………っ!!!!」




 思い出したぁあああ!!!




 叫ばなかった私を、誰か褒めてほしい。

 ん、話し方が変わってる?当然でしょ。


 だって、”私”は”ロゼッタ”じゃないから。




 簡単に脳内(時間加速中)で説明すると。

・私は元日本人。

・この世界は、友人に勧められた、とある恋愛小説の世界。

・私は嫌味な悪役。所謂「悪役令嬢」。

 ご理解いただけた?


 つまりは、私は恋愛小説の世界に転生、もしくは憑依的なのをしたという事だ。

 夢の可能性もないとは言えないけど、この生々しい感覚を夢で終わらせる事はできない。


 ロゼッタ・アヤク、というのは、私の読んだとある恋愛小説の、最大の脅威だ。

 主人公をあの手この手で貶めて、一時は挫けそうになった主人公を歪んだ笑顔で見下ろす。

 ……まあ、最終的にはヒーローの力を借りて「ザマァ」展開なんだけどね。


 で、そのザマァの内容が、婚約破棄→断罪→国外追放。

 本当なら、たかが男の取り合いだし、主人公さえ関わらなければ完璧令嬢だったから、王都追放くらいが妥当だったかもしれない。

 けど、そこはまあ、ね?物語の悪役には、最大限の自業自得が期待されるんですよ。全年齢対象だったし、流石に処刑とかまではいかなかったみたいだけどね。





 で、これからどうするか。

 私の混乱+興奮+ロゼッタの賢さのおかげで思考速度は並じゃない。時間は後少しだけど、考えられる。


 よくある転生モノみたいに、逆ザマァとかできればいいんだけどね〜。

 ロゼッタさん、ちゃんと悪役やってるんだなぁ、これが。

 しかも、ヒーローが超腹黒で、絶対罪を五倍ましとかにしてくる。軽くて国外追放だろう。


 私に残された手は、反論、流される、その他、くらい?

 でも……反論しようにも、何を言えと?

 相手は子爵令嬢だし、虐めたところで罪にはならない。それが貴族社会の闇の一部。

 だけど、偶に腹黒王子(ヒーロー)にも被害及んでたんだよね。


 ロゼッタは完璧令嬢だし、ヒーローにベタ惚れだったから、自覚はしていないと思う。できるのならそもそもやってない。

 ロゼッタの主人公虐めは、結構公衆の面前で行われていた。それを見て図に乗った令嬢達もいたしね。これだけでも、婚約者として迷惑を受ける。まあ、嫌味を言った程度だけど、女性としての最上位に立つんだから、差別や虐めは駄目でしょ、って事ね。

 更に最悪なのが、その規模………というか、内容がかなり過激だった事だ。そのせいで学校の備品が壊れたり生徒が迷惑を被る事も、一度や二度ではない。これは周囲からの評価、そして後処理に走り回る、ヒーロー率いる生徒会からの印象にも関わってくる。


 公爵令嬢であるロゼッタが「ない」、と言えばなくなるかもしれないけれど、ヒーローはそれより上の王太子だ。当然、皆そちらに従う。

 つまり、圧倒的有罪(ギルティ)!!どうしたらいいのか!!





 ……………よし、決めた。

 しばらく悩み、私は一つの決断を手にした。思考速度も元に戻り、時間が動き出す。


 私は、数度瞬きをして、周りを見回す。


「ここは………何処?誰?

 ………お母さん!?」


 心底泣きそうな顔を()()()、落ち着きなく辺りをうろうろとする。


 一転変わった私の態度に、皆———主人公やヒーローまでもが呆然としている。そりゃそうだよね。


 私の思いついた作戦は、「転生自白作戦」。そして、小説の記憶はないものとする。いくら何でも無罪とはいかないだろうけど、同情を買ったりすれば、罪が軽くなる可能性も残る。例えば、自宅謹慎(?)とか。

 可能性は低いけど、これ以外に思いつかなかった。ゼロより一だ!!


「ロゼッタ嬢………気でも狂ったか」


 腹黒王子は、我を取り戻し、更にネタを見つけて獲物を狙う様な目をする。

 そうはいかせない。一世一代をかけた、私の大舞台だよ!!


 キョロキョロと辺りを見回す。

 だって、何も知らないはずなのに、ロゼッタ=私って分かっちゃまずいでしょ?

 少ししてから顔を戻し、小首を傾げて自分を指差す。


「えっと…………もしかすると、私に言ってるの?」


「当たり前だろう」


 ここからが勝負だ。


「お兄さん、誰?

 金色の髪ってカツラ?どうしてそんなにキラキラした服を着てるの?」


 訝しげに顔を歪める。

 私は、日本人の状態で、この状況に廻りあったと考えてみよう。


「何を言っている

 元婚約者の顔さえも覚えられないのか?

 それに、ロゼッタ嬢の髪だって金色だろう。キラキラした服?自分を見てみろ」


 そこで、私は今気づいたかの様に、視線を下に下ろす。

 うん、きらびやかで高そうな服!目が痛い!


「わっ!?何これ!?

 っていうか、お母さん、本当に何処!?

 ここ、日本だよね!?」


 私が混乱した様に言うと、ニホン?と首を傾げる一同。

 主人公だけは目を見開いているけど………貴女も転生者ですか!!


「え、えっと、確認させて

 ここは日本だよね?」


「そんな地名は聞いた事がない」


「………ここは、地球?」


「チキュウ?それも地名か?

 ここはメーゲオムト国だ」


「……………私は、黒髪黒眼の、長谷川 優奈だよね?」


「ハセガワ?それも聞いた事がないな

 しかも、ロゼッタ嬢は金髪碧眼だ」


 頑張って顔を青ざめさせる。意識的に震える。

 難しいけど、そう()()()()いい。

 目的は、私をただの日本人——異世界から来た、事情を知らない一般人と思わせる事だ。


 そこに、場違いな、嬉しそうな声が響いた。


「…………ユーナ?」


 ソプラノの、可愛らしい声の主へ視線を移す。

 私の視線の先にいるのは、王子の隣にいる————主人公様(ヒロイン)だ。


 私は黙って首を傾げる。

 ”ロゼッタ”は、主人公に嫌がらせしかしていないので、細かい事情など知るわけがない。

 つまり、”私”も彼女の事を何も知らない。


「どちら様ですか?」


「あっ、分からないよね!

 私だよ、りおだよ!」


 りお…………リオ…………莉緒!?

 莉緒と言えば、私の前世(?)の親友だ。

 そして、私に例の小説を広めた本人でもある。


「莉緒なの!?

 えっと………でも、何でコスプレしてるの?」


 いくら莉緒相手でも、今更演技は崩せない。

 言うのなら、後から伝えるくらいだろう。

 賢い莉緒の事だ。この世界に関する事だけ記憶喪失になった、とでも思ってくれる、もしくは何かを察してくれるだろうし、今は放置だ。


「コスプレじゃないよ〜!!

 あれ、ユーナにもお勧めしなかったっけ?

『幸せのお姫様』っていう小説」


 でも、わからないふりをしておく。

 莉緒は話し方こそ馬鹿っぽ———失礼。ほんわかしているけど、舐めてはいけない。ルールは守るし、情には厚いし、頭も切れる。だからこそ、皆から慕われていた。


 そうか、莉緒なのか。

 だったら、私は悪役でもいいかもしれない。

 親友の莉緒の幸せのためなら、国外追放くらいどんとこいだ。

 それに、前世の借りもあるし……………。


「そっか、ルールでもあるのかもしれないね〜

 ………あ、そうだ!

 殿下、彼女はロゼッタ様ではありませんよ!

 見た目………と言いますか、体こそ同じですが、魂が違いますもん


 ですから、断罪は継続していただいても構いませんけど、罪を償うべきは、”彼女”ではなく”ロゼッタ様”です

 それか、それを増長、黙認していた周囲の皆様ですかね〜

 どうせ、立場が怖くて言えなかったのでしょう?」


 そうそう、こういう事をズバッと言っちゃう子だった。

 まあ、それがいいとこでもあるんだけどね。

 それに、多分最初からそのつもりだったんだろうなぁ。公平で平等を心がけてる、らしい。普通なら綺麗事だ、って言われるだろうし、私もそう思うけど、口出しはしない。莉緒が決めた事だから。


「…………はぁ、仕様が無い

 ロゼッタ嬢………リオと彼女に感謝するんだな」


 私…………違うな。ロゼッタを見て、王子は言う。

 彼女、って、私のことかな。一応私でもあったわけだから、微妙な気分だけど……。


 まあ、罪はなし、って事だよね?

 つまり………無罪を勝ち取ったんだ!!!




******

 その後、ゴタゴタざわざわしながらも、パーティは終わった。

 そして、私は莉緒と王子に呼び出された。あ、莉緒はこっちでもリオらしい。


「お邪魔します」


 ノックをし、返事が返ってきたので扉を開ける。

 ロゼッタとしての記憶はあるけれど、作法なんかは微妙だ。それでも、少し補正みたいなのはあるけど。


 部屋には、すでに二人と両親、そして………知らない誰かがいた。

 藍色の髪に碧眼の青年で、顔だちも整っている。小説に出てきてもおかしくない様な、所謂イケメンだ。

 でも、私は会ったことも見かけた事もない。もちろんロゼッタも。この国の貴族ではないのかな………?


「ユーナ!!!

 会いたかったよぉ!!!」


 私が部屋に入ってきた瞬間、莉緒に抱きつかれた。

 甘えん坊なのは変わらないなぁ。


 呆れのため息をつきながらも、少し顔が緩む。

 懐かしくて、嬉しくて。


 王子から不快げな視線が送られてきたので、ドヤ顔してやったら驚かれた。

 …………ああ、見た目はロゼッタだもんね。

 まあ、程々なところで莉緒はなだめておく。


 席に座って落ち着くと、王子が話を切り出した。


「まずは、いくつか質問をしたい

 貴女は、リオとカイの友人———ユーナ殿で間違いないか」


 ……………カイ?


「………リオ、カイって?」


「えっ!?忘れてるの!?

 ほら、カイ君!自分で言わないと!」


 そうして莉緒が押し出したのは、例の藍色の髪の青年だった。


「優奈、本当に忘れてる?

 悲しいなぁ、小さい頃は後ろについて離れなかったのに」


 んん????

 ………………あああああああ!!!!!!


「海?え、え、え???

 でも、海は引っ越して…………えええええ????」


 カイ。私の友人に、その名前の人は一人しかいない。

 早瀬 海。友人兼幼馴染みで、小さい頃はほとんど一緒にいた。


「馬鹿だなぁ

 世界が違うんだから、引っ越してたって関係ないよ。そんな事も思いつかなかった?

 それより、僕の事を忘れてるなんて、どういう事?」


 海は、それはもういい笑顔で詰め寄ってくる。ヒィイ。

 味方につければこれ以上の安心はないけど、敵に回したり怒らせたら生きていけない。

 何故か私にだけ毒舌だけど、それでも守ってくれたりもするので、私は海にひっついていた。


「いや、忘れてたんじゃないよ!?

 ただ、その、可能性から除外してた………というか、思いつかなかったというか………」


 目を逸らす。

 駄目だ、墓穴掘ってる気しかしない。


 莉緒に目線で助けを求めるも、微笑ましそうに笑ってるだけだ!ひどい!

 あ、ちなみに莉緒も幼馴染みだ。だから海の事も知ってるし、私の思いも知ってるはずなのに!!!


 じりじり下がっていると、王子の咳払いが聞こえる。

 そう言えば、目的を忘れてたなぁ。


「とにかく、友人で間違いないんだな?」


「あ、はい」


 大人しく頷き、海を横をすり抜けて席に座る。

 …………なんで隣に座るの?最初は正面にいたよね?

 私が警戒MAXにしても涼しい顔だ。

 そして、質問が続いて来たので、慌てて顔を前に向けた。




 質問は数問で終わった。どうやら、問題なしとみなされたらしい。

 ロゼッタの両親は、王子や莉緒への謝罪、そして私に説明もしてくれた。…………知ってるんだよね。ちょっと罪悪感。


「莉緒と海と三人で話したい事があるんだけど………いいですか?」


 一応この場の責任者っぽい王子に確認を取ってみると、頷いてくれた。

 まあ、友人同士の積もる話でもあるだろう、って感じかな。


 他の皆がいなくなった(しかし、部屋の前には護衛。部屋の中にいないというだけでも温情らしい)部屋で、三人で机を囲む様に座る。


「えっと………まず、伝えたいんだけど

 皆の前では知らないふりしたけど、小説の事もちゃんと覚えてるよ

 だからこそ、悪役だって気づいて、回避しようとした結果があれ」


 二人とも、黙って頷く。莉緒も勘付いてたんだろうなぁ。


「それから聞きたいんだけど、海は小説には出てこないよね?

 私は知らなかった」


 これは莉緒への質問だ。

 ほぼ確信を込めて聞くと、莉緒は首を横に振った。


「完結後にアンケート企画があって、その結果、続編が出されたんだ〜

 海君は、その続編に登場するメインヒーローだよ! 」


 何故かドヤ顔の莉緒。やるなら海でしょ。

 っていうか、続編かぁ。私、そっちでも悪役だったりしたら、泣くよ?


「ちなみに、舞台から登場人物まで、ぜ〜んぶ変わってるの!

 ただ、”続編”だからね。主人公は本編に出てきたキャラだよ〜

 さて、誰でしょう」


 莉緒が楽しげに笑う。

 えっと………続編、でヒーローが海、って事は主人公は女の子だよね?

 本編に出てきたのは………。


「レノ嬢とか、アカリ嬢とか?」


 ちなみに、二人とも主人公の親友ポジションだ。


「ん〜ん、違うよ〜

 レノちゃんもアカリちゃんも、婚約者と上手くやってるし」


 そうか。婚約者制度があるんだった。

 って事は、婚約者のいない令嬢?


「ユキ嬢とか?」


 ユキ嬢は、主人公を時に厳しく、時に優しく支えてくれる先輩だ。

 といっても、私は三年で莉緒は二年だから、私からしたら同い年なんだけど。


「ユキ先輩は『本が恋人。読書以外に興味ないの』って言ってた」


 ある意味流石。しかも、本人はそれを誇ってるしね。

 まあ、私も夢中になれるものに一直線な人は尊敬するけど。


「それ以外に婚約者のいない人?

 思いつかないよ?

 あ、恋愛じゃないとか?」


 その可能性もなくはない。

 しかし、莉緒は首を横に振るばかり。


「……………降参!」


 私が白旗をあげると、莉緒と海は二人顔を見合わせ、ため息をついた。

 ………分からないものは分からないよ。


「ロゼッタだよ〜

 それに、容姿端麗、成績優秀、気高くて皆の憧れのご令嬢

 プライド高いところもギャップ萌え?とか可愛いし、主人公でもおかしくないよね〜」


 ……………ロゼッタ!!!???

 つまり、私がその立場にいるわけで………えええ???


「ヒロイン就任おめでとう☆

 まあ、ストーリーがあったとしたら、もう終盤だろうけどね〜」


 ???

 ちょっと意味はわからないけど、私は主人公なんてがらじゃないよ!!悪役もお断りだけど!!


「大丈夫だよ、優奈

 優奈が何処の誰かも知らないやつに好かれる物語なんて、僕が壊してあげるから」


 え、どういう事?

 っていうか、ヒーロー、海の事じゃないの?

 ちょ、ちょ、ついていけない!!


「結局、私はどうしたらいいの?」


 すると、二人は恐ろしいほど綺麗に笑う。


「「優奈(ユーナ)()達に任せておけばいいんだよ」」


 …………何か、間違えた気がする。

 でも、この二人なら、信頼できるし…………任せてみても、いいかな?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ