切り傷
「抜けてきたのはオークだ! 訓練通りやれば問題ないぞバーツ!」
隊長の言葉に頷くと、一匹のオークに向かって走る。
オークは斧を振り上げ私目掛けて振り下ろす。
左腕に装備された、直径50センチほどのラウンドシールドで防ぐと、右手に持つ魔装剣をオークの首に叩き付ける。オークの首から血飛沫が飛び散り、崩れ落ちるが、そのまま放置してはおけない。確実に首を胴体から切り離さなければ、復活する恐れがあるのだ。
倒れたオークの首に、再度剣を叩き付け、完全に切り離した。
ようやく最初の敵を倒せた。
「バーツ! ぼうっとするな! 他にもいるんだぞ!」
他の騎士から怒鳴られる。
確かにまだオークはいるし、惚けてる場合では無い。
「はいっ!」
きちんと返事をして、別のオークに向かって走る。
一列目を抜けてきたオークは、まばらにいる為、数匹を1度に相手することがなかったので、俺は無難にオークを倒せている。
が、一列目は多数のオークを相手に混戦である。
(あそこじゃ無くて良かった)
正直な感想である。
と、その時、一列目のとある場所が吹き飛んだ。
「オ、オーガだっ!下がれっ! 量産型では装甲が持たんぞ!」
一列目の部隊長の声が響く。
[魔装鎧]は確かに量産型に成功したが、強度は段違いに落ちた。
[量産型魔装鎧]では、オーガの攻撃が盾以外の場所に当たれば、吹き飛んでしまう。
「量産型は下がれ! オーガは私達がやる!」
そこには銀色に輝く鎧を装備した騎士達、本物の[魔装鎧]を纏いし騎士がいた。
その中にバーツの部隊の隊長も。
[魔装鎧]を装備出来る魔力保有量と魔力波長を備えし者の戦闘力は、[量産型魔装鎧]とは、別次元である。
[量産型魔装鎧]の凹凸の無く個性の無い鎧とは違い、[魔装鎧]は、装備する人族の魔力の波長により、形が違う。
バーツの部隊の隊長、リック・アルビレスは、銀色に黄色の縁取りをされた虎型の鎧を纏う。
それはリックに虎の獣人の血が多く現れた為だろう。
獣人、それは遥か昔に存在した人族の一種族。
エルフ、ドワーフ、獣人など、昔は存在したが、今は多くの種族が交配し、人族と纏められる。
少し血が濃いと、耳が少し尖ったり(エルフタイプ)、髭が濃くマッチョだったり(ドワーフタイプ)、体毛が濃く爪や牙があったり(獣人タイプ)する。
リック隊長はオークなど瞬殺、オーガですら簡単に倒す。
仮に俺がオーガとぶつかったなら、一撃耐えられるかどうか。
その銀色の鎧は、量産型の銅色からすれば憧れ。
強さの象徴である。
オーガは銀色の騎士達に瞬く間に駆逐される。
銀色の騎士が動くスピードは、銅色からすればようやく視認出来るかという速さ。
俺は呆気に取られ見惚れる。
だが、それが油断になる。
「バーツ!後ろっ!」
誰かが俺に声をかけた。
その時、左腕に激痛が走る。
慌てて地面に転がり移動して、左腕を見ると[量産型魔装鎧]が切り裂かれ、腕から血が吹き出していた。
「ぐっ、『ミドルヒール』」
慌てて治癒魔法を詠唱し、傷を塞ぐ。
「馬鹿者!戦闘中に気を抜くからだぁ!バーツは帰還したら訓練所10周だ!」
俺を切ったオーガを斬り倒した隊長が、俺を怒鳴る。
「申し訳ありません!」
素直に謝っておく。