表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/36

プロローグ

 恋というものはままならないものなのだと、シェリルは十二歳の時に知った。

 それは晴れた日のことだった。

 シェリルは庭に飛び出して、彼の姿を見つけて歓喜した。話しかけようと近づいたところで、シェリルの足は地面に縫い付けられてしまったのだ。


「バカ言うなよ! あんなじゃじゃ馬と結婚なんて絶対にごめんだよ!」


 聞くつもりはなかった。だって立ち聞きなんてとてもはしたないことだ。いくらシェリルがとても活発で、未だ淑女には程遠い少女だったとしても、必要最低限のマナーくらいはわかる。

 けれど自分のことを話しているのだと気づいて、シェリルはつい声をかけそびれてしまったのだ。

 声の主を、シェリルはよく知っている。

 クライヴ・ロートン。

 シェリルより二つ年上の従兄であり、幼なじみのようなものでもある。


『ゆくゆくはおまえとシェリルが婚約、結婚かな。父さんも伯父さんも乗り気みたいじゃないか』


 クライヴは兄であるオズワルドにそう言われていた。だから思わず、シェリルは立ち止まったのだ。

 そうなったらいいな、なんて思っていてもシェリルはまだ誰にも言っていなかった。そうなるかもしれないという予感もあった。

 けれどクライヴにとって、それは『絶対にごめん』なのだそうだ。

 悲しいという感情より先に怒りが湧いた。日頃から遠慮なく言い合っている相手だったからこそ、シェリルは深く考えるより先に身体が動いたのだ。

 クライヴはこちらを見た。一緒にいたオズワルドも同じようにシェリルを見る。


「わたしだってあんたなんかお断りよ!」


 そう叫びながら、シェリルは手にしていたものを投げた。クライヴにプレゼントしようと思って持ってきた、手作りの栞だった。

 投げつけられたクライヴは変な顔をしていた。困ったような、驚いたような、慌てたような。けれどそんなことはどうでもいい。シェリルはお構いなしに踵を返す。クライヴの顔なんて、一秒でも長く見ていたくない。


 従兄のクライヴは口が悪いし、たまに意地悪だったりすることもあるから喧嘩も絶えなかったけれど『喧嘩するほど仲が良い』というやつなのだと思っていた。

 少なくとも、シェリルはクライヴを嫌ってなんていなかった。むしろ気兼ねなく言い合える存在だと思っていた。


 まさか、クライヴからあんなに嫌われているなんて思っていなかったのに。


 ああ初恋は、叶わないものだというけれど。

 始まってすぐに、こんなに苦い終わりがあるだなんて思っても見なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ