第一章六 どの世界にも現実という名の悪魔は現れる
もうすぐで森の出口、、ここを抜ければすぐそこにココリコ村があり、そのむらから少し歩いたところにテレサの住む元領主ギルバート オリヴィエの屋敷があるらしく、ホクトとテレサの二人は空に月が出始め、夜は先ほど現れたグリズリーのような魔獣が活発になる時間ということもあり少し足早に出口へとむかっていた。
「それにしてもホクトって、随分珍しい格好をしてるわね」
「珍しい??」
改めて自分の服装を確認する、いつもと変わらぬ学校指定の制服、ネイビーのジャケットに緑のネクタイ、チェック柄のスラックスに黒のローファー、元の世界であればどこにでもいる学生と変わらない服装なのだがやはりこの世界では異質のようだった。
「俺の村ではこの服が正装なんだよ」
「面白い正装ね。」
とりあえず適当にその場はごまかしておいた。
そんなたわいもない雑談をしているともう少しで森を抜けられる出口まで差し掛かっていた。。そんなときだった。
テレサが急に足を止める、つられて北斗も足を止め少し前に立つテレサを見る。テレサの顔は急に強張り辺りを警戒しはじめる。
「殺気、、」
「へ??」
「危ない!」
その瞬間、テレサに思いきりつきとばされ、横に吹き飛ぶ。
そのまま背中から樹木に倒れ、鈍い痛みを背中に感じながらも、その樹木を支えにし今一度テレサの方を見る。
北斗はそこで言葉を失った。
目の前で起きている惨状、、
先ほどテレサが倒したはずのグリズリーが首だけになった状態でテレサの喉元を噛みちぎっていた。
北斗は思考が追い付かなくなっていた。先ほど倒したはずなのに、あのまま命の恩人であるテレサと彼女の住む屋敷に向かうはずだったのに、、
たとえ異世界でも元の世界と、おなじ、無情にも不幸は誰しにも突然に降り注ぐ、理不尽というなの悪魔はどの世界でも共通らしい。
首だけになってもなおテレサの首を食いちぎったグリズリーは怒りに燃えるその瞳を閉じようとはせず、唸り声をあげつつホクトを睨む、、首だけになってもなおその怨念をこちらに向ける化け物に怯えつつも、今もなお首から大量の血液を流しているテレサに一目散に駆け寄りその体を抱き抱える。
ヒュー、ヒューとテレサの口から風切り音が聞こえ、喉元からはどくどくと赤黒い血が止めどなくながれ落ちていく、ホクトの学生服もテレサの血で赤く染め上げられていた。
「テレサちゃん!」
必死で呼び掛けるが、テレサの口からは風切り音しか発せられず、何か言いたげな顔をしているのは分かっていたが、ホクトにはそれがなんなのか分からずにいた。
――こんなとき、どうすればいいのか、救急車を呼ぶ?そもそも番号を入力しかけたところでこの世界にスマホ、、ましてや電話というもの事態存在するのだろうか?
ポケットからiPhoneをとりだしホーム画面を確認するが、表示されたのは予想どおり圏外の二文字、、自らの腕の中で大量に血を流し今にも死にそうな彼女を助けるにはもう彼女を背負ってすぐにでも森を抜けテレサの言っていた近くの村の人に助けを求めるしかない、、
ホクトはそう判断し、満身創痍のテレサを背に乗せ、そのまま森の出口へと駆けようとした。。だが森の出口への道を遮るかのようにたつその脅威にホクトは絶望しその足をとめる。
ホクトとテレサの二人と森の出口を遮る位置に立つのは、先ほど切り離したグリズリーの胴体だった。胴体はまるで首なし騎士のようにふらふらとただ確実にこちらに向かってきていた。そしてその後ろをあろうことかグリズリーの部下であろう魔獣たちが賛同し共に迫ってきていた。
首と胴体を切り離されてもなお生きている化け物とその配下の登場により、恐怖が心を支配されていく、もうどうすればいいのか分からなかった。
――このままではテレサだけではなく自分も死ぬ、、まさに万事休す。。
「、、げ、て」
「えっ、、」
「わた、、し、おい、て、、逃げ、、て」
喉元を食いちぎられ、その目からは光が失われかけているテレサの、懸命に振り絞って出したであろうその言葉に、北斗は絶望した。
――おかしいだろ、、なんでこんなにも勇ましく、そして他者をいたわれるこんな目にあわなくちゃいけないんだ。。彼女よりも夢も目標すらももたず、ただなあなあと元の世界で過ごしていた自分こそが代わりに死ぬべきではないのだろうか、、
己の無力さ、非力さを呪ったところで彼女の傷は治らない。ただそれでも北斗は自分自身を、そしてこの世界を恨み絶望せずにはいられなかった。
「嫌だ。。」
テレサが不思議そうに今にも光を失いそうな瞳で北斗を見つめる。
「君をおいては逃げれない。」
平凡な人生しか歩んでこなかった自分は異世界に転生されても結局はこんな中途半端なところでゲームオーバー、、まあそれでもそれが自分らしいのかもしれない、それに命の恩人をなげうって生きたところでどうせ虚しさしか残らない。
もう諦めよう、、でももしもう一度この世界に転生されたように、もしもう一度奇跡が起きるなら、、俺は、、やり直したい、一からこの世界で人生をやり直したい。
諦めと願いが交錯したその時だった。
「やり直したい?」
――声が聞こえた。声の高さからして女性の、しかも、若い女の子の声。
「やり直したい??」
――テレサの声ではない、、頭のおかしくなった自分が引き起こしている幻聴かもしれない、それでも何かにすがりつきたかった。
北斗はゆっくりと目を閉じ、心の声でその声の主に自らの答えを返す。
「やり直したい」
ホクトの意識はそこで途絶え、しばらくし目を開けると、そこは真っ暗な闇に支配されたどこまでも黒く染められた世界、、北斗はそこに一人、ぽつりとたっていた。
「ようこそ♪」
声の主に振り替える
一人の少女が怪しげな笑みを浮かべながら北斗の前にたっていた。