プロローグ 突然の始まり
始まりの火蓋
一瞬の出来事だった。
倒したはずの禍々しい巨大な魔獣は、首だけになってもまだ、自らの執念だけで北斗の隣を歩く"彼女"の首をくいちぎった。
目の前に広がる彼女から発せられた血しぶきは、血の雨となって北斗の顔を赤く染めあげる。
そっと自分の顔に手を置き恐る恐る、自らの手に付着した赤黒く光る液体を確認する、紛れもなく彼女の血だった。
首を食いちぎられ彼女はそのまま地面に倒れこみ、ピクリとも動かない、目は見開いているがその目にはもう光は宿っていない、彼女の命という名の灯火は今、無情にも儚く消えてしまっている。
――声がでない、体がまるで石と化したかのようにその場から動けない、目の前で初めて人が死んだ、それも自分の命の恩人が目の前で死んだ。
どうして彼女が、、こんなどうしようもない自分を救ってくれた―聡明な彼女が、どうしてこんなところで、、死ぬのなら無力で、浅はかで、夢も目標ももたない、空っぽな人生を歩む自分が死ぬべきなのに。
今さら自分を責めたところで時間は巻き戻らない、"やり直す"ことはもうできないのは分かっていたが、北斗の頭の中はまるで曇天の雲のようにその世界を覆われてしまっていた。。その時だった。
「やり直したい?」
――声が聞こえた。声の高さからして女性の、しかも、若い女の子の声。
「やり直したい??」
――目の前で倒れる彼女の声ではない、頭のおかしくなった自分が引き起こしている幻聴かもしれない、それでも北斗は何かにすがりつきたかった。
北斗はゆっくりと目を閉じ、心の声でその声の主に自らの答えを返す。
「やり直したい」
その瞬間、松村北斗の新しい人生とそして戦いの火蓋が切って落とされたのだった。