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アラサー会社員、ホビーゲームに心血注ぐ(身内用)  作者: 瓶底眼鏡
第1章 アニマルギア:リブート
6/17

旧世界より

箸休め回。

例のワイルドに復活したホビー、とりあえず一通り買って作りました。

どれも素晴らしい出来で大変満足、今後に期待が持てます。

今のところ、一番のお気に入りはワニです。

 買って1時間もかからずに組める手軽さ、動物さながらのリアルな挙動、簡単操作で本格戦闘、派手なギミック、と、12年の歳月を経てより至れり尽くせりに進化したアニマルギアだが、バトルホビー故の宿命か、大きな欠点を抱えている。


 それは一体なんなのか……先程の戦闘を思い出せば、自ずと答えは出てくるだろう。


「うわ、拾いづれぇっ……ショットガン使うんじゃなかったなぁ……」


「そう言うなってぇ、後片付けもまた、アニマルギアの醍醐味ってぇやつだぜぃ……痛っ! ミサイル踏んだっ!!」


 フィールド中に設置された尾羽、散乱するミサイルと散弾の実弾パーツ、地面に転がったレグレクスの装甲、そしてバラバラに弾け飛んだウィンドスライサーの残骸、まさに戦場跡と表現するに相応しい、酷たらしい光景である。


 その中からちまちまと自機のパーツを拾い上げ、本体と武装を修復していくアラサー二人……先程までとはうって変わって、地味で面白みのない絵面がそこにはあった。


「よし、レグレクス復活、リブートだけに! そっちは?」


「おぅ、粗方直ったんだがよぅ、尾羽が一枚見つからんのよぅ」


「マジか、手伝うぜ。細かいパーツ多いもんな、そいつ。勝っても負けてもお片付けお手入れのコストが嵩みそうだ」


「それよなぁ。ギミックはいいんだけどなぁ、無くしたらパーツ単位での買い直しをしないといけないのが怖いってもんだぜぃ……初戦でいきなり紛失とか勘弁してくれって話よぅ」


「あ、あの」


 駄弁りながらも必死でフィールド内に目を凝らしていると、まだ変声期前といった感じの、あどけない声が、二人へ向けて話しかけてくる。


 振り向けば、部屋の隅でずっと作業をしていたあの少年が、不安げにこちらを伺いつつ、小さな極彩色の羽根の一欠片を、差し出してきていた。


「これ、こっちに飛んできて……」


「おぅ、どうもどうも! そうか、フィールドの外にはじき出されてたってんなら、見つからないのも道理ってもんだぃ。助かったぜぃ、ありがとさん!」


「俺からも礼を言うぜ、ありがとな、君。そういや、ずっと何か作業してたけど、アレってもしかして、アニマルギア? 」


「あっ、は、はい……えっと、ご、ごめんなさい!」


 ウィンドスライサーの尾羽パーツを見つけてくれた少年であったが、何故かばつの悪そうな表情を浮かべ、一言とともに頭を下げると、脱兎の如くに荷物をまとめて店を出て行ってしまった。


 その十代前半特有のあまりの瞬発力に、残されたアラサー二人は、ただ呆然とするのみである。


「な、なんだったんだ……?」


「耕ちゃん、なんか変なこと言っちまったんじゃあねぇのかぃ? なんか、そっち見てたしよぅ」


「えっ、俺のせいかよぉ!? うーん……最近の子供はわっかんねぇなぁ」


 安藤の指摘に、耕三は首をひねるしかない。

 確かに少年は耕三の方を気にしていたが、耕三自身というよりは、その手元、即ち、レグレクス:リブート特別仕様に視線を向けていたように見えたのだ。


 アニマルギアに興味を持っているのならば、希少価値の高いというこの機体に興味があるのは別段おかしな事ではないと思った為に、耕三は気に留めていなかったのだが。


「……いや、やっぱり言動じゃなくて、格好のせいと見たねぃ。中々に強烈だぜぃ、その、黒地にデカデカと白い字で書道がしたためてあんのはよぅ」


「んだとコラ、この『切なさ』Tをまだ侮辱するつもりかテメェ。侘び寂びは日本人の心、クールジャパンだぞ。もう一戦行っとくか?」


「ねぇ、そこのお二人さん。ちょっと、良いかな?」


「あっ、はい、すみませんでした」


「あぁ、まぁ、もう少し、静かに楽しんで貰いたい、というのも、あるんだけどね」


 今度声を掛けてきたのは、他ならぬこの角松屋の店長のお爺さんであった。

 二人が一瞬で畏る様子に軽く苦笑を浮かべつつも、別のことが聞きたいのだ、と、首を横に振る。


「君たち、もしかして……伴くんと、安藤くんかい?」


「……はい。どうも、お久しぶりッス。福寿朗さん」


「福ちゃん店長! また会えて嬉しさの極みってぇもんでさぁ」


「そうかい、やっぱり、君たちだったんだねぇ……」


 先程までの二人のやりとりで気付いたのだろう……というか、あれほど童心に帰って騒いでいれば、気付かない方が難しい、というものだろう。


 角松屋店長、門馬福寿朗(かどまふくじゅろう)は、ずっと昔の記憶を懐しむように、二人を見つめ、穏やかに眼鏡の奥の瞳を細め、その顔の深い皺を、更に深める。


「この店がまだやってるなんて……しかも、まだアニマルギアを取り扱っていてくれてるなんてぇ、思いもしてなかったってなもんですよぅ」


「はい、本当に驚きました。すぐにご挨拶しなくて、すいません。なんだか、気恥ずかしくって」


「ははっ、その気持ちは、僕もわかるよ。若い頃は何度も親から、『玩具なんて早く卒業しなさい』って、諭されたものだからね」


 お互いに気心知れた仲と判り、間の雰囲気がすっかり軽やかなものへと変貌する。

 まるで最後に来た日がつい昨日のことであったかのような、錯覚を覚えるほどだ。


「今もたまに、『良い年した大人が何をやってるんだ』なんて、怒られるときもあるんだけどね。たまに、君たちみたいに、ずっと玩具を好きなままでいてくれた人が、会いに来てくれることがある。それが、とても嬉しいんだ。喜んで貰えたなら、アニマルギアを置いていた、甲斐があったと言うものだね」


「福寿朗さん……」


 穏やかな笑顔でそう語る様子に、少し、耕三の胸の奥に痛みが走った。

 安藤も、この人も、自分のように、心の何処かに置き去りにして来てしまうのではなく、思い出に正面から向き合って、ずっと大切に抱えて来ていたのだ。

 それが、酷く眩しく思えた。


「俺……いいんでしょうか。まだ、アニマルギアを好きにだと言って……昔みたいに、楽しんでも」


「伴くん。玩具はね、いつでも、ずっと、遊んでくれる持ち主の、味方なんだよ」


「いつでも……ずっと」


 悩む耕三に向けられた、福寿朗氏の温かな言葉。

 受け止めた時、耕三の脳裏を、閃光のごとく、一体の獣の影が駆け抜ける。

 それは、燃え立つような赤と黒の模様をした、雄々しき姿をしていたような気がした。



「安藤! ありがとな、今日は楽しかったぜ。すっかり若返ったよ」


「へっ、まだまだオイラ達20代だぜぃ、そうやって老け込んじゃもったいないってぇもんよ」


 それから少しして、もう日も暮れ始めた春日島駅前で、耕三と安藤はお互いの帰路につこうとしていた。


 二人とも、右手から各々のアニマルギアの入ったビニール袋を下げている。

 耕三のほうが、セッションベースの分だけ、大きく膨らみ、重い。

 そしてそれ以上に、今日一日のくれた思い出が、胸の中に詰まっている。


「……でも、まだまだこれから、なんだろ? 安藤。生まれ変わったアニマルギアの持つ、真の実力って奴に触れるのは」


「おうともよぅ。いよいよお次はアニマルギアの舞台! 電脳惑星Viに、旅立つんだぜぃ」


「『アニマルギア・フロント』……本当に、アニマルギアに乗って、自由に走り回れるんだってな。お前はもうやったんだろ? どんな感じなんだよ」


「ヘッ、そいつぁ蓋を開けてのお楽しみってもんよぅ。耕ちゃんだって、その方がいいだろ?」


「流石、よく分かっていらっしゃる」


 気安く言葉を交わし合いつつ、VRMMOとして緻密に再現されたというアニマルギアの世界に想いを馳せる耕三と安藤。

 言葉尻は軽やかで、楽しみな娯楽に精を出す世の少年たちと、なんら変わらない表情を浮かべている。


「さて、と。それじゃ、どうする? せっかくだし、帰る前に軽く呑んでくか?」


「おっ、いいねぇ! けど、あんま呑みすぎんなよぅ? 二日酔いは酷いとVRギアの安全装置に引っかかるからよぅ」


「わぁーってるわぁーってる! あ、後今回は割り勘だからな!」


「ちぇっ、仕方ねぇなぁ。ま、耕ちゃんのアニマルギア復帰と初勝利を記念して、ここはオイラが多めに持つとするかぃ!」


「うっひょー太っ腹! よっ、安藤大明神! ゴチになります!」


「全額じゃねえって言ってるだろぃっ!?」


 昨日痛い目に遭ったことも忘れ、男二人は駅前の居酒屋に足を踏み入れる。


 ……案の定というべきか、二人して呑みすぎて、楽しみにしている翌日のゲームプレイに支障を来たす羽目になるのだが、今はまだ、知る由も無い話である。

耕三のお気に入りTシャツシリーズ、他には『昇龍』『男泣き』『強力わかもと』などが存在します。

外国人の抱く間違った日本観みたいな感性。

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