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アラサー会社員、ホビーゲームに心血注ぐ(身内用)  作者: 瓶底眼鏡
第1章 アニマルギア:リブート
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復活の獅子と風切り孔雀

初戦闘です。至らぬところありますがお手柔らかに……

 長年、使われることのないまま、ただただ、この小さなホビーショップの一角を、圧迫し続けていたプレイフィールド……今となっては、旧プレイフィールドと、称するのが正しいのだろうか。


 アニマルギア専用とは銘打たれているものの、多種多様なギミックを搭載したホビー本体に対して、こちらは、3畳程度の長方形の床と、それを取り囲む高さ30cm程度の壁という、簡素な作りである。


 アニマルギアのプレイフィールドは、レギュレーションに応じて様々な大きさや、地形、障害物などが用意されるものの、これは中でも最も小さく、安いタイプのものだ。


 公式戦をするには、床の広さも壁の高さも足りず、一見広めに思える空間も、アニマルギアの戦いには少し窮屈すぎる、家庭向けサイズといえる。


 しかしそれは、決してこの店のサービスが悪いというわけではない……いや、むしろ12年前の商品展開終了以降も、この環境を保ってくれているというのは、最高峰のサービスといっても過言ではないだろう。


 単に、アニマルギアというバトルホビーの性能が高すぎる、たったそれだけの話なのである。


「一応、これは旧ベースってことになると思うんだけどさ。ここで、リブートの機体を対戦させたって、問題はない、ってことでいいんだよな?」


「おう。オイラも実機でやり合うのはこれが初めてだけどよぅ、調べた限りじゃあ、特にバトルフィールドには特別な変化はなかった筈だぜぃ」


「なら、問題はなさそうだな。この壁の高さだと、レギュレーション的に飛ぶのはアウトだが……俺は一向に構わないぜ?」


「ばっきゃろ、誰がそんな自殺行為に挑むかってのぅ。このウィンドスライサーは、飛ばなくたって十分強いってなぁ、説明書の設定資料から太鼓判を貰ってるんだぜぃ」


「ハッ! 忘れちまったのかよ、俺たちの合言葉……『カタログスペックはドブ川にでも捨てておけ』の精神をよ!」


 挑発を飛ばし合いながらも、安藤が足元のスタートポイントに設置した、緑を基調とする体色の鳥の姿を、油断なく観察する。


 風を切る者(ウィンドスライサー)の名を与えられたその機体は、体高はレグレクスと比較してやや小さく、細身の身体も相まって、小型と中型の中間サイズのような印象を受ける……が、なんと言っても目を引くのは、モチーフたる孔雀に由来する、長い長い尾羽パーツである。


 パッと見た長さだけでも、ゆうに本体の全長の1.5倍の長さはあるだろうか……それが完全に広げられた時、いったいどれほどのボリュームとなるのだろうか。


 12年前のシリーズには存在しなかった機体であり、耕三にとっては完全な初見の相手となる一方、安藤はアニマルギア:リブートにすでに触れており、おそらくレグレクス:リブートの機体スペックはある程度把握されている。


 こちらのほうがブランクを抱えている身でありながら、情報アドバンテージにおいても差を付けられている、というのは、あまり喜んで受け入れられる事実でもない。


(だが、勝機は十分にある)


 現状を冷静に整理しながらも、耕三は勝因となりうる要素を見直して行く。


(第一に、安藤もリブートでのリアル対戦は今日が初ということ。第二に、ウィンドスライサーの性能は向こうにとっても未知数ということ。第三に……奴は、鳥型機体に乗り慣れていない)


 前二つは先程の少々見苦しい会話から得たものだが、三つ目は12年前における安藤のファイトスタイルからの情報だ。


 生来の落ち着きの無さもあってか、すばしっこい四足の小型機で翻弄する高速戦闘を得意としており、今回のような鳥型の機体に手を出しているところは見たことがない。


 耕三は、わざわざ自分の得意分野を外してくるということは、恐らくは奴好みの派手なギミックを搭載している機体なのだろう、とまでアタリを付けていた……もっとも、その派手なギミックというのも、十中八九はあの尾羽に由来するものであろうことは、想像に難くなかったが。


「それじゃ……頼むぜ、レグレクス」


 耕三もまた、組み上げた機体を足元のスタートポイントに置く。


 本来は白と橙の暖色系カラーリングを有するレグレクス:リブートであるが、限定版である耕三のものは、グレーベースに青のクリアパーツを有する、渋いカラーチョイスになっている。


 それは、耕三や安藤にとっては見覚えの強い、旧キットのレグレクスに合わせられたもので、武装に関しても、より近接向けに攻撃的なカスタマイズとなっている通常版に対して、無印レグレクスのような、中近距離に対応したバランスのいいカスタマイズになっている……というのは、耕三が安藤から聞いた受け売りである。


 相手の手の内がわからない以上は、下手に尖っているよりは、ある程度対応範囲が広いほうがやりやすいというものだ。


 もとより耕三は中型四足獣の使い手であり、レグレクスを操縦したことも、二度や三度ではない。

 そういった意味でも、無印機に寄った性能となっている限定版は、今の耕三にとっては非常に都合が良かった。


「さて、準備も済んだ事だし、そろそろ、始めるとしようじゃないかよぅ」


「あぁ……行くぜ! セットアップ!」


「システムリンク確認!」


「「アニマルギア、イグニッション!!」」


 掛け声と共に、対戦の火蓋が切って落とされた。


 すかさず方向レバーを限界まで倒すと、ロケットのようにスタート地点を飛び出し、眼前のウィンドスライサー向けてレグレクス:リブートが駆け出す。


 面食らったようにワンテンポ遅れながら、孔雀がその尾羽をばさりと広げた。

 展開された極彩色の扇は華奢な本体に対して一回りもふた回りも巨大で、いくつもの目玉の様な紋様と噛み合わさりかなりの威圧感を誇るが、百獣の王は怯まない。


 構わず突き進む様子を見て慌てた様に数枚の尾羽が射出される。

 ウィンドスライサーの名に相応しく、風切り音を立てながらレグレクスの元へと殺到するが、狙いが甘い。


 アニマルギアの思考回路は質が良く、ある程度の攻撃や障害物に対しては、勝手に回避や防御、姿勢制御などの対応をしつつ、移動・攻撃を行ってくれる。


 方向レバーによる操作は、直接的にアニマルギアを動かすというよりは、『どの方向にどれほど移動するか』の指示を与えるためのものに近い。


 よって、今回のウィンドスライサーの尾羽による射撃のような、大雑把に放たれたわかりやすい攻撃に対しては、わざわざ細かくレバー入力を入れなくても、今まさにレグレクスが軽く横に身を捻って紙一重で避けて見せたように、プレイヤーが気にかける必要さえないのだ。


「どうしたどうした! ビビってんのか、しっかり当ててみやがれ!」


「へへっ、何か勘違いしてるみてぇだな? いつ、オイラがレグレクスを直接狙って攻撃した、なんて言ったって話よぅ」


「何……っ!? どうした、レグレクスッ!!」


 あと一息で爪の射程に入るというところまで駆け抜け、足元に突き刺さった尾羽を飛びこえようとしたところで、急に、がくんっ、と、雷に撃たれたかのように、レグレクスの動きが鈍化する。

 コントローラーのレバーを何度も押し込み直してみるものの、明らかに反応が遅い。


「なっ……どうなってるっ、まさか、この尾羽か!」


「おうともよ! この羽根の正体は射撃武器なんかじゃねぇ、近寄った相手を電撃でスタンさせる代物ってな訳よぅ! 」


「クソッ、罠って訳か!」


「ご名答! そして、こいつが気安くこのウィンドスライサーに近寄って、まんまと引っかかった相手への、ご挨拶って奴よぅ! 食らいやがれってんだぁ!!」 


「くそっ! 回避、間に合わない……っ、レグレクスーッ!」


 ウィンドスライサーの両脚に搭載されたミサイルポッドから、今度こそ明確に標準の合わされた一斉射が、ようやく拘束から抜け出したレグレクスへ向けて殺到する。


 大量の円筒形がバラバラと鬣に当たり、辺りに散らばる中、衝撃に耐え切れなくなったかのように、弾幕を正面から受け止めていた装甲のいくつかが弾け飛び、裏の内装部分を露出させていく。


 このホビーゲームの醍醐味ともいえる、アーマーブレイクシステムが発動したのだ。

 装甲へのダメージ判定が一定以上蓄積すると、機体内部のマイクロチップが作動し、該当部位の装甲がパージされる。


 こうなると、装甲に守られた素体……すなわち弱点を相手に丸々晒す事になり、装甲の耐久とは個別にされた本体の体力に大きくダメージを受ける事になる。


 本体の体力を削り切られれば、待っているのは機体そのものがバラバラに弾け飛ぶ『クラッシュアウト』……すなわち、敗北の未来である。


「チッ、あれだけの一斉射をバカ正直に食らって、幾らか剥いだだけかよぅ。相変わらず馬鹿げた正面装甲だぜぃ」


「馬鹿言うなって、その装甲を殆ど削り落とすなんざ、紙装甲相手ならワンパンでもおかしくねぇ。だが、今ので大分手札を切ったみたいだな! 今度はこっちの番だぜ!」


 弾切れか、ウィンドスライサーの両脚のポッドがパージされ、残す射撃武器は、尾羽を例外とするならば、背中に背負った、如何にも取り回しの悪そうな、二門一対のキャノン砲である。


 足元に設置された尾羽の罠に用心すれば、レグレクスの機動力であればそう簡単に狙いは定めさせない。

 細かいレバー操作で右に左にステップを踏ませつつ、射撃ボタンで右脇腹のショットガンタイプの武装から散弾をばら撒き、尾羽の設置を牽制しながらチクチクと相手装甲にダメージを与えていく。


「どうやら使う武装の選択を誤ったな! 実弾かビームか知らないが、あれだけの拘束時間なら、ビームタイプだろうと、そのご立派なキャノン砲で、充分装甲を削り取る戦果は挙げられた筈だぜ!」

 

「くぅ……っ、ヘッ、けどな、こういうのはどうだってんだよぅ! レグレクスの装備の弾数上限の少なさに、レーザー火器が非搭載だってことは、よぅく知ってるんだぜぃ!」


「なっ……、あの野郎、残る尾羽をフルに使って、壁を作りやがった!」


 ばら撒かれる散弾によってこちら側への罠の設置が難しいと見るや、安藤は、ウィンドスライサーの足元に、線を引くように、円弧状に尾羽を設置して接近を封じにかかる。


 こうなれば高速格闘機たるレグレクス自慢の間合いに入り込み、接近戦へと持ち込むのは容易ではない。


 背中の機銃は対空火器としての側面が強く、右脇腹のミサイルポッドなら有効打たりうるだろうが、安藤の読み通り弾数不足、装甲を外す程度でクラッシュアウトには届かないだろう。


 ブレード尽くしの通常仕様よりは余程攻撃手段は豊富ではあるものの、やはり近接格闘を主眼に置いた機体であることは変わりなく、各武装は牽制以上の役割は持ち得ない……かと言って、痺れを切らして策もなく正面から突っ込めば、罠の餌食になるだけだ。


(だけど……だけどな)


 不敵な表情で待ち受ける安藤、その更に背後にひっそりと飾られた、玩具のようなトロフィーと、賞状を見やる。


 それは、かつての少年にとっての誇りと栄光の象徴であり……そしてきっと、吹けば飛ぶようなこの小さなホビーショップが、12年もの時を経て尚、アニマルギアという玩具を取り揃え続けてくれていた、大きな理由なのだ。


 今までのコントローラーには搭載されていなかった、クリアパーツのボタンが赤く点灯したのを確認し、その上に指を置く。

『一定以上の装甲・機体へのダメージの蓄積』……発動条件は整った。

 覚悟を、決める。


「この店で……想い出を忘れないでいてくれたこの店で! 無様な負けを晒す訳にはっ、いかねぇんだよォ! 吼えろッ、レグレクス:リブートッ!!」


「だからッて、破れかぶれに正面からおいでなすとはよぅ! 迎え打てッ、ウィンドスライサーッ!!」


 ミサイルポッドを全放出しつつ、手負いの獅子がまっすぐに駆け抜ける。

 対する、尾羽を全て解き放ち随分と貧相な姿となった孔雀は、死の地雷源に足を踏み入れたタイミングを狙って、背の二門のキャノン砲の照準を定める。


 ミサイルのヒットによる衝撃で、翡翠の装甲が剥げ、砲身がブレる……しかし、直後に獅子もまた、尾羽の罠に突入し硬直、狙いを修正するには充分すぎるほどの隙。


「ヘッヘッヘッ! この距離で、鬣の剥げたレグレクスなんざ、このツインレーザーで焼き切るには充分ってもんよぅ! 食らってお陀仏になれってぇんだぃ!」


「……今だッ! 『装破再起リブレクション』!!」


 二つの砲門から放たれたレーザーポインターが、じりじりと身を焼き始めた、その瞬間……押し込まれたボタンに呼応し、残されていた装甲全てが弾け飛ぶ。


 鬣の裏に隠されていた、数多の鋭いブレードが展開し、黒の骨格に銀の刃の鬣の意匠となった獅子が、復活(リブート)を果たす!


(これが、アニマルギアがリブートになるにあたって追加された新ギミック……くそっ! カッコいいぜ!)


 装甲を削り相手の身体へと食らいつく――そういったシステムである関係上、本来は相手の装甲を削り攻め続けるほどに有利となるのがかつてのアニマルギアの原則だった。


 しかし、単なる商品展開再開でないからこそ、『リブート』の名は冠されたのだ――新たに生まれ変わったアニマルギアたちには、自ら装甲を脱ぎ捨てることで機体ごとに用意された独自の 変形を果たすことができるギミックが仕込まれていいる。


 その名を、『リブレクション』……自ら傷付いた鎧を脱ぎ捨てることで獣としての闘争本能を解き放つのと引き換えに、護りを失い、反撃されればもろに大ダメージを受ける事となる諸刃の剣。


 だが、その不利を背負ってなお不利を有利へと変え戦いに引導を渡しうるだけの力を秘めた、逆転の切り札だ。


 レグレクス:リブートであれば、それは堅牢な鬣の防御力全てを捨て去ることで、隠された刃を解き放ち、ただひたすらに近接戦に全てをかける高機動決戦形態である。


 勢いよく弾け飛んだ装甲がぶつかり、ウィンドスライサーの体勢が崩され、砲身があらぬ方向を向く……説明書で読んだばかりのギミックを、最高のタイミングで放てた事に、否が応なしにテンションが上がる。


「いきなり新要素を使いこなしてきやがった!? くそぅっ、狙いが……っ、り、『装破再起リブレクション』!」


「遅いぜ! 喰らいやがれ、タテガミ八つ裂きスラーッシュ!!」


「グワァーッ! 絶妙に技名がダサいぜぇーッ!!」


 相手の体勢が崩れている間に罠の効果時間を脱したレグレクス:リブートの全力の突貫が、ウィンドスライサーに迫り……安藤もまた、咄嗟に孔雀を鎧から解き放とうとするも、展開されたブレードの穂先が、その華奢な身体を捉えるほうが早かった。


 ミサイルによって装甲が剥がれ、素体の露出していた胸にクリーンヒットし、その衝撃に耐えきれず、ウィンドスライサーは勢いよく爆散(クラッシュアウト)する。


「決まった……スーパー大勝利、俺!!」


「くそぅ、久々に聞いたぜ、そのダサい決め台詞ぅ……!」


 こうして、思い出の場所における、童心に帰りながらの12年振りの再戦は、耕三の勝利という、幸先の良い結末を迎えたのであった。

無印レグレクスは、鬣による前方への防御力と、バランスの良い火器によって牽制しつつ、相手への距離を詰めていく、格闘よりの万能機。

レグレクス:リブートは、本来は脇に搭載された2本のブレードで積極的に近接戦を仕掛けていく、より攻撃的な機体となっています。

例のホビーで例えるなら、無印が盾獅子、リブートが獅子零、リブレクションして獅子零完勝形態、みたいなもんです。

主人公の持つリブート限定版は、装甲がある間は無印とリブートの中間のような性能です。弾け飛んでからは通常版と同じ。ちょっとややこしい。

12年経って内部構造が一新され、モーションのキレもかなり良くなったものの、基本的な動かし方は変わらない、四足獣タイプに準ずる、扱いやすい入門用機体といえます。


ウィンドスライサーは例のホビーにはいなかった孔雀型モチーフ。

射撃武器としての用途に加えて設置罠の役割を果たす尾羽を展開して戦う、かなりテクニカルな機体です。

初めて触れたばかりというのもあって安藤は積極的に動いていませんでしたが、意外と機動力が高く、本来は尾羽をばら撒いて敵の行動範囲を一方的に制限しながら翻弄し、翼による近接格闘も熟せる、幅の広い立ち回りのできる機体になります。

今回は出ませんでしたが、リブレクションは、骨組みだけになった尾羽の土台が変形し、鞭のような形態となって近接格闘の補助を行う、というものです。

地味ですが、機体コンセプトと合った扱いやすいギミックです。

かなり特異な性能を持つうえ、鳥型機体としてもやや特殊な立ち回りを強いられるため、使いこなせれば強いですが、慣れないうちは本領発揮しづらい上級者向け機体になります。


今回、地味に実弾系とレーザー系の武装の違いについても触れられておりますが、12年前においては、仕様の問題で実弾優位とされていました。

この辺りは、話の中で今後詳しく解説を交えていくつもりです。

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