金属電子生命体(基本素材は合成樹脂)
組み立て回です。
色々無茶な設定が散見されますがどうかご容赦を……
さて、アニマルギアとは、一体なんなのか。
作品設定によれば、『発展を続けるインターネット世界の中で観測された電脳惑星Vi、そこに生息する、地球上の動物種に酷似した形態を有する金属電子生命体』とされている。
そういった背景から、『鋼の獣』と例えられることが多いわけなのだが、こういった現実とはかけ離れた世界観を基盤とする作品を元とする商品が作られた場合、作中設定が完璧に忠実に再現されていることはまずあり得ない、というのが、現実とフィクションの間に存在する、絶対的な壁である。
即ち、どういうことか、と言うならば。
金属生命体とされるアニマルギアたちは、電脳惑星なる出身地における設定に反し、現実のホビーに関しては、動力や基盤といった技術的に必須となる部分を除けば、金属パーツは殆ど使われていない、安価なプラスチックキットである、ということである。
説明書によれば、彼らが現実世界で活動する為に、人類が可能な限りの範囲で電脳世界のそれを再現した物理肉体、だそうだ。
子供にそれらしい納得を提示させる、現実の玩具として違和感を低減する設定ではあるとは思うが、ならば初めから合成樹脂の電子肉体を持つ機械生命体、とかでは駄目だったのか? とは思わなくもない。
「おっちゃん! 工作スペース貸してもらって構わないかよぅ? ここで作って、遊んでいっておきたいもんでよぅ」
「あぁ、構わないよ。工具は使ったら、元の場所に戻しておいてね」
「おい安藤、俺はまだ早速作って遊ぼうなんて、一言も言ってないぜ?」
「へへっ、買ってすぐに箱から説明書取り出して読んでる奴が言った所で、説得力ないってもんよぅ」
「ちぇっ、お見通しじゃねぇか」
耕三がスターターセットを購入する裏で、安藤はちゃっかりと、新発売だという、耕三にとって見覚えのないアニマルギアを手に入れ、店内奥に用意されている机の方へと歩いていく。
狭い店内故に6人掛けが2つ程度の席数しかないものの、隅の方で小学生くらいの男の子が何やら作業をしているくらいで、がらんとしていて少し物寂しい。
傍らには、年季の入ったアニマルギア用のプレイフィールドが用意されていて、その奥にひっそりと、ガラスケースに入れられた、小さな賞状とトロフィーがあるのが伺えた。
それに気づいて、また一つ、密かに嬉しさを抱きながらも、今はこちらと席に着き、特別仕様の箱の中に詰められた、眠れるアニマルギアのパーツを取り出していく。
実のところ、工具について店員のお爺さんは言及していたものの、アニマルギアを組み上げるだけであれば、特殊なパーツがない限りはそういったツールは必要ない。
プラキットではあるものの、パーツは既にランナーから切り出されており、素体、装甲、武器の三種に大別され、袋に小分けされた状態になっているのである。
耕三含め、バトルホビーとして楽しんでいた当時の友人たちは、組み上げる手間が省けるので寧ろ喜んだものだったが、プラモデルはランナーから切り離す楽しさもある、という価値観から、アニマルギアの持つ一つの個性として受け入れられるまでは、買い手側の賛否両論が大きかった、というのは、後から知った話であった。
「んー、とりあえず、こうして出してみただけじゃ、リブートって言う割には、意外と何も変わってない感じだな」
「おいおい耕ちゃん、そんな感想が出るなんて、一番大切なもんを忘れてるってもんだぜ。動力周りの部品を、チェックして見ろってぇ話よぅ」
「ほう? おっ、本当だ! すげぇ、バッテリーパックこんなに小さくなってんじゃん。マイクロチップは一見変わりないように見えるけど、なんか一枚見慣れない奴があるな……っつーかもしかしてこれがスーパーマイクロモーターか? もはや別もんじゃねーか!」
安藤に言われ、箱の奥の方から引っ張り出した細かな部品類を目にして感嘆する。
アニマルギアを対戦型ロボットホビー足らしめるための、命とも言える特殊パーツの数々が、軒並み小型化・軽量化を図られていたからだ。
中でも、アニマルギアの躍動感溢れる動きや、アーマーブレイクシステムといった特有の要素を表現する為、腕や脚などのブロック単位で内部にいくつも仕込まれる事になるスーパーマイクロモーターに関しては、シンプルな円柱状から、真ん中に穴の空いたドーナツ状に変更されている。
もはや、この内部がどのような構造になっているのか、想像もつかないというものである。
「なるほど、外見は俺の知っているアニマルギアでも、一皮剥けば別世界って訳か……恐れ入ったぜ」
「おうよ、オイラも初めて買った時はビビっておしっこちびりそうになったもんよぅ……コントローラーの方は見てくれからして大幅にデザイン変わってるからよぅ、後でしっかり確認しとくといいぜ」
「そいつは楽しみだな、新要素も加わってるって話だし」
新要素……得てして、意外と地味だったり、見かけ倒しで大した事無かったりする場合も多いものの、ホビーゲームを嗜む者として、これ以上に耳障りの良い言葉もそうはないだろう。
今まさに人気爆発中のアニマルギア:リブートであるならば、そんな期待にも容易に答えてくれそうだ、と、より一層今後の楽しみに胸を膨らませつつ、耕三はいよいよキット作成にかかる。
素体、装甲、武装の順で自然と組んでいけるようになっているのに、製作陣の強いこだわりを感じつつ。
……とは言っても、前述のように、バトルホビーとしての側面を前面に押し出し、徹底した組みやすさを提供しているアニマルギアにおいては、説明書通りに進めていれば、これといって特筆すべき技術もなく素組みはできてしまう。
今回はさっさと組んで遊ぶ事を目標にしていることもあり、スミ入れの手間すら惜しんでいる為、尚更である。
せいぜいの所、スーパーマイクロモーターをパーツ内部に仕込むタイミングを間違えて、あわや、大分前から組み直す羽目になりかけた程度だ。
「よっし! 骨格部完成! パッケージの写真だとあんまり感じなかったけど、全体的にかなり普通のレグレクスよりスマートになってるんだな」
「おうともよぅ。他の復活機も大概は一から金型を作り直してるってぇんで、中身は別もんと言っていい仕上がりよぅ」
「よっし、それじゃ、ちょっと動かしてみるか……お、コントローラーはデカくなったんだな。でも、ボタンもキーも操作しやすくなっていい感じ。ところで安藤さん、なんか見慣れないカッチョイイボタンが新しく付いてるんですが、これが例の新要素ってやつですかね?」
「おぅ、それはやってみてのお楽しみよぅ」
耕三は、楽しみの一つとしていた、新装されたコントローラーを持ち出して弄ってみた。
昔の箱型に比べると、より洗練され、持ちやすいように配慮されており、据え置きゲーム機のコントローラーのような感覚で使っていけそうである。
注目した通り、電源ボタンの横あたりに、クリアパーツでできたボタンが増設されていて、明らかに何らかの特別なギミックを作動させるスイッチなのが見て取れる。
「へっ、わくわくさせてくれやがって……よし、スイッチオン! 目覚めろ、レグレクス:リブート!……あれ?」
動かない。
確かに耕三は、電力ランプのしっかり点灯しているコントローラーのスイッチを押し込んでいるものの、その名とは裏腹に、復活の獅子が目覚めることはない。
「可笑しいな……何処かミスったか? でも、うんともすんとも言わないなんて」
「ちょいと見せてくれよぅ、耕ちゃん……あぁ、AIチップを入れ忘れっちまってるからよぅ、こいつは」
「AIチップ?」
「ほら、一枚だけ、マイクロチップの中に一回り大きい奴が紛れ込んでたじゃねぇかよぅ、アレだよアレ。レグレクス:リブートなら……あった。ほら、ここが差し込み口よぅ」
「あ、これか……忘れてた。本当だ、この隙間に挿せばいいんだな……うぉっ」
安藤の見つけた、背中に隠されていた小さなハッチを開き、チップを収めると同時に、素体のレグレクス:リブートは、いきなり空に向けて足を動かし始めた。
優しく机の上に置いてやると、少し体勢を整え直した後、ゆっくりと、雄大に歩き出す。
狭い机の端に来ても、センサーで検知して方向を勝手に修正するため、落ちることはない。
「……かっけぇ」
「旧キット以上に性能が良くなったおかげで、より動きも現実の動物に近づいたってもんよぅ。それが、自分の手で生み出したもんだってんなら、尚更よなぁ」
「やべぇ……ちょっと、泣きそう」
おおよそ10年越しに動くアニマルギアを目にし、今まで何処か人ごとのようだったところへと、確かな実感が、急激に沸き上がってくる。
確かに夢でなく、そこにあるのだ。
生まれ変わった、かつての少年の愛した世界が。
「よし、もうちょっとだけ待っててくれよ、レグレクス。寒いだろ?すぐにお前を、完成させてやるからな」
「……すっかり調子戻ってきたな、耕ちゃん! そうやって自分の機体に向けて話しかけてる気持ち悪い所を見てると、オイラも戻ってきた、って気分になるってもんよぅ」
「んだとぅ! 自分の作った機体は可愛くて当然だろぉ!? っていうかお前だってたまにやってたじゃねーかよ!」
「日常的にやってるのとたまにやるのとじゃあ、人としてどうなの感が天地の差よぅ。そうやって人目を少しも気にかけないから、ファッションセンスも磨かれないってもんでさぁ」
「この野郎、なんの脈絡もなく人が気にしてる事をクリティカルに持ち出しやがって! ボッコボコにしてやるからな、出会って1時間の絆見せてやんよ!」
「10年以上のブランク抱えて、リブートのリの字も知らなかった癖に、よくも恥ずかしげもなくそんな啖呵が切れたってもんよぅ! 今の耕ちゃんの相手なんざ、この買ったばかりで慣らしも済んでない機体で充分ってもんでさぁ!」
「あのね……お客さんたち。もうちょっと、静かにして貰えたら、嬉しいんだけどねぇ」
「「あ、はい。ごめんなさい」」
存分にお互いを煽り合い、この後に控える対決に向けてモチベーションを高める二人ではあったが、店員のお爺さんの苦笑まじりの忠告と、机の隅の少年の残念な人たちを見る目に晒され、粛粛と、アニマルギアの組み上げを、再開するのであった。
本当は初戦とセットにするつもりでしたが分割しました。
アニマルギアの設定は、某アニマルロボットホビーと、某デジタルなモンスターの商業作品シリーズの合わせ技と思っていただければ。