未来への回想
はじめの話ですが、本編開始よりずっと昔、12年前の話になります。
幕間と思っていただければ。
悔しかった。
それ以上に、充実感もあった。
「準優勝、おめでとう」
表彰台の上に向けて、惜しみない賞賛と、羨望の眼差しが向けられる。
それが、第二次性徴期に突入したとはいえど、まだまだ幼い少年の身の上にとって、どれほどに誇らしい事であったか。
惜しむらくは、それらの多くが、自分以上に、隣の、この場において唯一、自分より高い場所に立つものに向けられていることか。
ちらりと横目で見やれば、帽子を目深に被り、表情が伺い辛いながらも、口元がほんのすこし上向いているのが伺えた。
……次は勝つ。
そう、素直に闘志を燃やしながら、今この場にない己の相棒のことを想う。
決勝戦の決着と共に、主催者側に預けられているが、今はどうしているだろう……と、そう想いを馳せていれば、丁度、彼の元へと、何処か冴えない印象を受ける、眼鏡の男性が、渡しに来るところであった。
誰よりも近く、長く、共にこの大会を戦い抜いた少年の愛機。
赤と黒のツートンカラーに、金の瞳を煌めかす鋼の獣。
命なき玩具ではあっても、少年にとっては紛れもなく、深い絆で結ばれた友だ。
その身体に刻まれた傷跡が、多くの戦いを経て、時には親や友達の力も借りながら、今の姿へと進化してきた歴史を思い起こさせ、懐かしい気持ちにさせてくれる。
しかし、この胸の高鳴りは、今もまだ、初めて彼と出会った時のままであった。
「やぁ。君の友達のこと、見せて貰ったよ。こんなにも深く愛してくれる人に出会えて、この子は幸せ者だ」
「あ、ありがとう……あんた、誰?」
「そうだなぁ。君の夢中になってくれているこの玩具たちの、父親、みたいなものなのかな」
褒められて照れながらも問いかければ、その男性は、少しかがんで、少年とその愛機に目線を合わせながら、眼鏡の奥で微笑む。
愛しい子を見守るような、優しい笑顔だった。
「とても素晴らしく、激しい戦いだったからね。君の友達は、私たちの方で、少し直させて貰ったんだ。きっと元気になっている筈だよ。それと……ここだけの話なんだけどね。こっそり、特別な仕掛けをさせて貰った」
「特別な、仕掛け?」
「うん。これからの君の友達は、戦いの経験を蓄積して、成長するようになる。どんどん強く、賢くなるんだ」
「ほ、本当!?」
それは、信じられないような言葉だった。
少年にはまるで、時には所詮玩具ともなじられることもあった相棒が、本当の心を手に入れたかのように、命を宿したかのように、思えたからだ。
その様子に、満足げにしながらも、男性は、決意を示すように、少年へと手を差し伸べる。
「今は、まだ、だけどね。暫くしたら、必ず本当のことにする。だから、その時まで……君の友達と一緒に、待っていてくれるかな」
「……うんっ! 絶対っ!!」
その日、握手と共に交わされた約束と、表彰台の頂点に立てなかった悔しさを胸に、少年は相棒と戦い続けた。
何日も、何日も。
約束の果たされる日は、やって来なかった。
雪辱を晴らす機会は、遂に喪われた。
そんな思いを抱いていたことも。
……果てには、あれほどに大事だった相棒の事さえ、忘れ去ってしまった。
いつしか、少年は、大人になっていた。
子供の頃から、ホビーを題材にした創作作品が好きでした。
おかげで成人もとっくに過ぎた今になっても、ホビーが大好きです。
だから、一本くらい『主役がおっさんのホビー作品があってもいいじゃないか』と考えるようになって、この話を思いつきました。
この話を通して、どうか、懐かしいわくわく感を思い出していただけたなら、嬉しいです。