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アラサー会社員、ホビーゲームに心血注ぐ(身内用)  作者: 瓶底眼鏡
第1章 アニマルギア:リブート
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未来への回想

はじめの話ですが、本編開始よりずっと昔、12年前の話になります。

幕間と思っていただければ。

 悔しかった。

 それ以上に、充実感もあった。


「準優勝、おめでとう」


 表彰台の上に向けて、惜しみない賞賛と、羨望の眼差しが向けられる。

 それが、第二次性徴期に突入したとはいえど、まだまだ幼い少年の身の上にとって、どれほどに誇らしい事であったか。


 惜しむらくは、それらの多くが、自分以上に、隣の、この場において唯一、自分より高い場所に立つものに向けられていることか。

 ちらりと横目で見やれば、帽子を目深に被り、表情が伺い辛いながらも、口元がほんのすこし上向いているのが伺えた。


 ……次は勝つ。

 そう、素直に闘志を燃やしながら、今この場にない己の相棒のことを想う。

 決勝戦の決着と共に、主催者側に預けられているが、今はどうしているだろう……と、そう想いを馳せていれば、丁度、彼の元へと、何処か冴えない印象を受ける、眼鏡の男性が、渡しに来るところであった。


 誰よりも近く、長く、共にこの大会を戦い抜いた少年の愛機。

 赤と黒のツートンカラーに、金の瞳を煌めかす鋼の獣。

 命なき玩具ではあっても、少年にとっては紛れもなく、深い絆で結ばれた友だ。


 その身体に刻まれた傷跡が、多くの戦いを経て、時には親や友達の力も借りながら、今の姿へと進化してきた歴史を思い起こさせ、懐かしい気持ちにさせてくれる。

 しかし、この胸の高鳴りは、今もまだ、初めて彼と出会った時のままであった。


「やぁ。君の友達のこと、見せて貰ったよ。こんなにも深く愛してくれる人に出会えて、この子は幸せ者だ」


「あ、ありがとう……あんた、誰?」


「そうだなぁ。君の夢中になってくれているこの玩具たちの、父親、みたいなものなのかな」


 褒められて照れながらも問いかければ、その男性は、少しかがんで、少年とその愛機に目線を合わせながら、眼鏡の奥で微笑む。

 愛しい子を見守るような、優しい笑顔だった。


「とても素晴らしく、激しい戦いだったからね。君の友達は、私たちの方で、少し直させて貰ったんだ。きっと元気になっている筈だよ。それと……ここだけの話なんだけどね。こっそり、特別な仕掛けをさせて貰った」


「特別な、仕掛け?」


「うん。これからの君の友達は、戦いの経験を蓄積して、成長するようになる。どんどん強く、賢くなるんだ」


「ほ、本当!?」


 それは、信じられないような言葉だった。

少年にはまるで、時には所詮玩具ともなじられることもあった相棒が、本当の心を手に入れたかのように、命を宿したかのように、思えたからだ。

 その様子に、満足げにしながらも、男性は、決意を示すように、少年へと手を差し伸べる。


「今は、まだ、だけどね。暫くしたら、必ず本当のことにする。だから、その時まで……君の友達と一緒に、待っていてくれるかな」


「……うんっ! 絶対っ!!」


  その日、握手と共に交わされた約束と、表彰台の頂点に立てなかった悔しさを胸に、少年は相棒と戦い続けた。

  何日も、何日も。


 約束の果たされる日は、やって来なかった。


 雪辱を晴らす機会は、遂に喪われた。


 そんな思いを抱いていたことも。


 ……果てには、あれほどに大事だった相棒の事さえ、忘れ去ってしまった。




 いつしか、少年は、大人になっていた。

子供の頃から、ホビーを題材にした創作作品が好きでした。

おかげで成人もとっくに過ぎた今になっても、ホビーが大好きです。

だから、一本くらい『主役がおっさんのホビー作品があってもいいじゃないか』と考えるようになって、この話を思いつきました。

この話を通して、どうか、懐かしいわくわく感を思い出していただけたなら、嬉しいです。

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