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短編集

最後に話を聞かせてください(ヤオヨロズ企画)

作者: 瑠音



 これまで私は、色んな人と寄り添ってきた。

 

 小さい子どもからお年寄りまで、年齢は問わず色んな人が集まってくる。


 それは嬉しいこと? ううん、そうでもないわ。


 私が寄り添って、皆が皆元気になる訳じゃないんだもの。


 元気になって、私から離れていく人もたくさんいるよ。でも、元気になれない人だっている。そんな時、私は本当に苦しいし悲しいんだ。





 最近、私が寄り添っているのは、一人のおじいさん。

 体のあちらこちらが悪いんだって。

 確か、86歳って言っていたかしら?


 最近、おじいさんは元気がないの。

 その理由は本人が一番分かっているみたい。

 寄り添っている私ももちろん分かるけどね。



『幼い頃は本当に貧乏で、食べるものに困ったものだった』


『父は厳しい人だった。ちゃぶ台をひっくり返すっていうことは聞いたことがあるだろうが、そんなこと頻繁に起こっていたものだよ』


『母は、そんな父に文句一つ言わず常に笑顔だった』




『そんな私も一人の女性と結ばれ、家庭を持つようになったんだ。妻と、3人の子どもに恵まれ、それは幸せな日々だった』


『幸せな日々だったが、妻には本当に苦労をかけたと思っているんだ。私は子育てに関与しなかったからな』


『それでも妻は、毎日笑っていた。母親にそっくりだった』


『そんな中で、子どもたちは全員成人し、それぞれ職に就き、それぞれ家庭を持った』


『私も仕事を退職し、それからはまた妻と二人での生活に戻った。たくさん二人で旅行に行った。二人で美味しいものも食べた。二人で思い出話に花を咲かせたこともある。それまで、妻にしてやれなかったこと、今までの時間を埋めるように二人の日々は過ぎていった』


『可愛い孫は、今では9人もいる』


『それぞれ、息子や娘の小さい頃にそっくりなんだ。本当に可愛いものだ』




『そんな幸せの最中、妻は突然旅立ったのだ』




『あまりに突然の出来事だった。数年前のことだった。妻は突然逝ってしまった』


『それからだ。私の体がみるみる内に弱りだしたのは』


『でも、それも今はいいと思える』


『それほど幸せな人生だったし、そろそろ妻にも会えそうだ……』





 そんなおじいさんの思いを聞きながら、私はより一層おじいさんに寄り添った。

 

 そろそろ旅立つのですね。


 でも、大丈夫。最期の時まで私は離れませんから。


 安心して身を任せてください。



 ふ、とかかる体重が重くなる。



 きっと眠りについたのだろう。



 それはとても長く、永遠に覚めることのない眠りに。




 それでも、あなたは幸せそう。



 だって、あなたはこんなにも愛されているんですものね。



 私を囲んでいるのは、あなたが愛した子どもたち、そしてその奥さんや旦那さん、お孫さん。





「8時21分、ご臨終です」





 愛する人たちに見送られ、そして愛する人に会いにいく。



 あなたの最期に寄り添えて幸せでした。




黒井羊太さまの企画『ヤオヨロズ企画』に参加させていただきました!

素敵な企画なので、第2弾を書かせていただきました。黒井さん、ありがとうございます!


今回は『病室のベッド』で参加しました。

私は入院した経験はありませんが、あれだけの患者さんを日々受け入れているベッドには、色んな思いがあるのでは……と思い書いてみました。

元気になって帰っていく人もいれば、そこで人生の最期を迎える人、また新しい命の誕生に立ち会う……色んな経験を積んでいるのではないかと思います。


擬人化……とても楽しいですね!

また思い付いたら参加させてください(*^▽^*)

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルからはなにの擬人化なのか想像がつかなくて、最後の方まで探りながら読んでいました。 最期を看取るのは、辛いことです。人だと感情が入って老人に対するもっと激しい想いの起伏があるのでしょう…
[良い点] 最初は杖かな、と思ってたら、さらに深い結末に、ぐっときました。 突然の事故であれ、大往生であれ、人を見送る役目には様々なドラマがありそうです。 [一言] 話の主題とはずれますが、 私の中で…
[一言] お詣りにまいりました。 寝たきり老人な家族がいるので他人事ではないお話でした。 この主人公は普通病棟のベッドさんのようですが病院には療養型病床のベッドさんも居ますね。 でも精神科のベッドさ…
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